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ソレムニス  作者: 由羽
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「ある、時代人へのインタビュー」

「はい。これまでずっと。忘れたことなど、ございません。忘れると言うことが、そもそも間違っているかと。」


そうですか。歴で言うと、どれくらいで?


「もう、十代の頃からですから。ざっと、半世紀でしょうか。」


そう言う、伏し目がちの彼(あるいは彼女)は、小刻みな震えをみせている。

インタビューを申し込んだ手紙の返答は、以下のようなものであった。


「あの時代の人間の姿を、ありのまま、聞きたいという願望は、打ち砕かれるかと思います。ご存知のように、あなたから受け取った手紙にあるがままの、姿なのですから。」


私には分からなかった。対象者は、実に根拠ない自信を持っているかのようであったから。

自信はあったかもしれない。あの時代を、生き抜いてきたという自信が。


「お尋ねします。誰もが、信じていたのでしょうか。」


「何度も言うように、信じるという類ものではないのです。」


「では、いったい、どう表現すれば。」


「そうですね。使うとか、利用するとか、そう言った方が適切かと。」


「誰もが、使い、あるいは利用していた、と?」


対象者は、「馬鹿ね」と表情で言ってみせた。


「あなた、研究者のようですけど。いったい、なにを、研究なさってきたのかしら。」


人を馬鹿にした態度は、一貫している。これまで、幾人かを対象にインタビューを実施してきたが、その誰もが、似たような態度を、私にみせるのであった。


「では、お尋ねします。いったいどれほどの人間が、”それ”を使い、あるいは利用してきたのでしょう。」


「質問が間違っています。”それ”を使い、あるいは利用することは、生きる上での前提条件なのです。」


理解しかねる返答であった。

”それ”の存在を文獻で読んだことしかない私にとって、生きる前提条件とは、聞こえは良いが、内容を伴わない。


「いわゆる社会が、それを、必要としていた?」


「社会。。懐かしい響き。。そう、確かにあの時代は、社会こそが、私でした。」


「社会が、あなた自身?」


「良いものは、皆が決めてくれるのです。より良く生きるとは、皆で決めることなのです。”それ”は、このことを確かめる、私の”こころ”なのです。」


私は”こころ”と聞いて、初めて”それ”の意義が腑に落ちるようであった。


「どこに行こうと、あの時代に生きた人間は、”それ”を片手に出かけたものです。”こころ”なのですから。。」


世界が画一化されて、今年で百年である。

いったい私は、どこへ向かおうと言うのだろう。後世の研究者に、託すしかないのだろうか。

私はいつになったら、私を信じることが出来るというのだろう。

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