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「肉の香り」
我は、羨望の神である。
未だかつて、肉の欲望を抱かざる人の、おらず。
ポーズを決め、シャッターがきられる。
すると背景は、我を引き立て、褒めそやす。
「なんと。見られることに魂を売りなさった君よ。潔いかな。いよいよ、潔いかな。」
控えよ。人よ。人の子よ。
我が肉を見よ。我が偽りの肉を。
「肉よ。あぁ、肉に徹底なさる御方よ。」
肉に魅入られし武人。
終生、肉にかかずらい、裏切られし姫君。
肉に見捨てられた、哀れな老い人。
肉を離れし、永遠の青年よ。
さて、話そう。
肉の真実というものを。
曰く、真実を蔽うものである。
曰く、隠れ蓑である。
曰く、饒舌なものである。
曰く、むさ苦しいものである。
曰く、臭うものである。
曰く、腐りゆくものである。
曰く、腐臭を放つものである。
曰く、汁となり、原型を留めぬものである。
曰く、価値の倒錯を生みし、元凶なり。
肉の人よ。
肉に生き、肉として今後も生き続けるお人よ。
命よ。幸あれ。