13-6.謀略
「君が、あの時の?一緒にお父上を探して回った、あの子かい?」
「ええ、そうです…!覚えていてくださったのですね」
そう言ってサリアは、嬉しそうに微笑んだ。
その、笑顔が。
他の少女たちからは決して感じ取ることの出来ない、温かさ――優しさ。
どうしてだろう。全然似ていないのに、幼い頃に他界したクラウスの母の面影が重なったのは。
この時初めて、クラウスは――この少女と、もっと話をしてみたいと、純粋にサリアのことを、もっと知りたいと、そう感じたのだった。
「あの時は、本当にありがとうございました。父を探す間、ずっと私を背負ってくださって…さぞ、お疲れになったでしょう?」
「他の人間があの場に居合わせてもそうしていたさ。気にすることなかったのに」
事実、あの時は少女の父親が広大な王宮内のどこにいるのか、推理を巡らせるのに必死で、疲れなど全く感じている余裕がなかった。
不安がる少女を、一刻も早く父親のもとへ返してやりたかったのだ。
しかしサリアは、恥ずかしそうに微笑むと。
「あの時の殿下は、私にとって、おとぎ話の英雄のようでした」
その言葉に、クラウスはつい、吹き出してしまった。
「いや、失礼。しかし、英雄というのはとんだ見当違いだよ」
きょとんとしているサリアに、クラウスは片目を瞑ってみせると。
「英雄は、バラ園で迷子になったりしないだろ?」
「え…じゃあ、クラウス殿下も…?」
目をぱちくりさせるサリアに、クラウスも笑って頷く。
口角を意識せずとも自然と笑えたのは、いつ以来だろう。
「子供の頃、君と同じように迷子になったことがあってね。だからあの時の君の気持ちは、痛いほどに分かったんだ」
「そうだったんですね」
可笑しそうに、サリアが笑った。その笑顔をもっと見てみたいと、クラウスは思った。