13-5.謀略
王家に身を置く限り、謀反や謀略は常に付き纏う。家臣からそのような気配を察知した時――クラウスが情報を得るためのターゲットにするのは、疑惑の人物の“娘”だ。
クラウスに気のある娘から話を聞き出すのは、面白いほど容易かった。夜会でさりげなく声をかけ、人気のない場所に連れ出してちょっと肩を抱いてやれば、彼女はもう、クラウスのスパイも同然だ。
父親がいつ、誰を家に連れて来たか。その人物とどんな話をしていたか。クラウスが巧みに誘導し、少女たちは夢中になってしゃべり続けた。まさか、自分の父親の罪を証言させられているとは、露ほども気付いていなかっただろう。
こうしてこれまで幾度、王家や王宮の危機を未然に防いできたか知れない。
しかし、そのような少女たちの相手をするのはあくまで、情報源として繋ぎとめておくため。
自らの伴侶とする相手には、彼女たちのような打算的な思考のない相手を選びたかった。
その点、庶子出身のフィオナは、クラウスに全くと言っていいほど興味を示さなかった。それが、フィオナを婚約者に選んだもう一つの理由でもある。
――いや、むしろ彼女は、婚約を申し込んだとき、明らかに困惑していた。
他の少女たちが悲鳴を上げて妬むほどの地位を前にして。
それからもクラウスが距離を詰めようとすればするほど、フィオナの心は遠ざかっていったような気がする。
クラウスとしても、欲しかったのはフィオナの魔法の実力だけで、正妃としての務めを果たしてくれればそれで良かったのだが、王子夫妻が不仲となればあっという間に噂が広がる。
どうしたものかと考えあぐねていたところに、思いがけず出逢ったのがサリアだった。
「突然お声掛けする非礼をお許しください。私、サリア・レイモンドと申します」
小さな声で背中に呼び掛けてきたサリアは、クラウスが振り返ると美しいカーテシーを披露する。
「以前、殿下に助けていただいたお礼を、お伝えしたかったのです」
「助けた?俺が、君を?」
はて、まるで身に覚えがない。
首を傾げていると、サリアは。
「もう10年も前の話ですので、殿下も覚えていらっしゃらないかもしれませんが…ここのバラ園で迷子になっていたときに、殿下が声をかけてくださいました」
唐突に、記憶が蘇った。
そう、確かにもう10年ほど昔のことだ。庭に出ていた時、子供の泣き声のようなものが聞こえてきたので探してみると、バラ園の中で小さな少女が座り込んでいた。
クラウスが声をかけると、顔を上げた少女の瞳は――確かに、こんな風に鮮やかなエメラルド色をしていた。