2-3.出会い
俯くフィオナに対し、エリオスはふと、砂糖菓子のような笑顔を浮かべて見せると。
「ずっと好きだったのは本当だよ。」
その言葉に、フィオナの頬が一瞬で赤く染まる。
「フィオナがいる日を狙って植物園に通うの、結構大変だったんだぞ?」
「えっ…あれは、魔道具の修理のためじゃ…」
「その理由を毎回考えるのも、大変だったな」
そう言って苦笑するエリオス。手元では、手際よく肉と野菜を炒めている。
「クラウスに先を越された時ほど、後悔したことは無かったよ。あいつは昔から、人を見る目は確かだったんだ」
「…でも、私は殿下に婚約破棄された身です。エリオス様のご家族から、お許しいただけるかどうか…」
フィオナは再び目を伏せるが、エリオスは何でもないように笑ってみせる。
「それなら心配いらないさ。何せうちの当主が、フィオナには絶大な信頼を寄せてるんだから。」
「ハインツ教授が?」
エリオスの父であるハインツ・アイゼルハイムは、公爵家当主でありながら魔法学園の教授でもある。
専門は魔法植物学。実のところ、フィオナを植物園の管理補助に引き抜いたのも、他ならぬハインツ教授だった。
「フィオナが正妃候補になって、父も随分落ち込んでたよ。君にしか任せられない仕事が山ほどあったのにって。まあ、フィオナの実力なら納得の人選だ、とも言ってたけど。」
ハインツ教授からは、他にも授業準備や野外調査の補助など、様々な仕事を頼まれてきたフィオナ。国内トップクラスの魔法研究者に付いて勉強できるうえ、教授は研究費からアルバイト代まで支払ってくれたので、フィオナには有難い限りだった。
エリオスは肉と野菜にソースを絡めると、火を止める。
「俺は心の底から、君に求婚したんだ。その点は何も心配しないでほしい。…ただ、もし君に、誰か胸に秘めた相手がいるなら…」
「そ、そのような方はおりません!」
フィオナがぶんぶんと首を横に振るのをみて、エリオスは小さく吹き出した。
「そっか。それなら、俺にも少しは希望があるかな。」
はにかむように笑って、エリオスがフィオナの前にある鍋の蓋を開ける。
蒸気が抜けると、中からふっくらと炊き上がったピラフが現れた。