11-3.クラウスの罠
「やはり俺には、君の力が必要なんだ。君が戻ってきてくれるなら、すぐにでも正妃として迎える準備を進めよう。君は既に正妃教育を修了しているからね。」
「そんな…、殿下は、サリア様とご婚約なさったばかりではないですか…っ!」
フィオナは言うことを聞かない身体を引きずって、ベッドから転げ落ちた。
「サリアとの婚約は白紙に戻す。君も、エリオスとの婚約を解消すればいい」
「私は、エリオス様を愛しています!他の人と結婚することは出来ません!」
ふらつきながらもどうにか立ち上がり、フィオナはクラウスを、毅然と見つめ返した。
「俺と結婚すれば、君はいずれ王妃になる。女性として、この国の頂点に立てるんだよ?」
言いながらクラウスはなお、フィオナの方へゆっくりと歩み寄る。フィオナは必死にガラス戸へ駆け寄り、窓を開けて外へ出ようとする。
しかし、開け放った先は。
「…気を付けた方がいい。自由が利かない身体で、落ちたら大変だよ?」
くすりと、余裕の笑みを零すクラウス。
そこは石造りで出来た、地上から高く聳える塔の最上階だったのだ。
「ここは昔、王族を幽閉するために使われていた塔だ。そう簡単には逃げられない」
ガラス戸の外の手すりを背に、フィオナは追い詰められた。
「もう、意地を張るのはやめないか。君が俺にどんな不満があるかは知らないが、エリオスには無いものを、俺はいくらでも君に与えられる。俺の方が、君を幸せにできる。そう思わないか?」
フィオナは、ぶんぶんと首を振る。
「私は、エリオス様と一緒に居たいんです!それ以上の幸せなんてありません!」
フィオナの返答に、クラウスは肩を竦めた。
「分からない子だね。“愛”なんてただの幻想だ。触れたら消えてしまう泡沫のような、ね」
そして、さらに一歩、フィオナの方へ踏み出す。
「…そこまで言うなら、君の言う“愛”とやらを、試してみようかな」
「…!?」
クラウスの瞳に、不敵な光が宿った。
「今に分かるよ。君は、俺のものになるべきだってね」
彫刻のように美しい笑みを浮かべながら――クラウスが、フィオナに手を伸ばす。次の瞬間。
「…っ!!!」
フィオナは、手すりから身を乗り出すと。
「!?」
そのまま、空中に身を投げた。
「フィオナ!!」
クラウスは手すりに駆け寄るが、もう遅い。
フィオナの身体は、遥か下の地面へ一気に落下し始めた。