2-1.出会い
卒業式から抜け出し、エリオスと共に馬に乗って辿り着いた場所には、木組みの小さな家があった。
静かな森の中にぽつんと佇むその家の前で、エリオスは馬を止め、フィオナが下りるのに手を貸してくれる。
エリオスがてきぱきと門を開ける横で、フィオナは。
「ありがとう、スノウドロップ。2人も乗せて疲れたでしょう」
そう言って、エリオスの愛馬の鼻筋を優しく撫でる。スノウドロップは、なんてことないと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「スノウのこと、覚えててくれたのか。」
「ええ、もちろんです!こんなにきれいな子、スノウ以外に見たことありませんから」
スノウドロップは、白毛に雪が舞い散るようなアイスグレーのぶち模様を持つ、美しい牝馬だ。
褒められているのが分かったのか、機嫌よく尻尾を揺らすスノウと共に、2人は微笑みながら門の中に入っていった。
「この家は俺の秘密基地みたいなものなんだ。使用人たちも滅多に近寄らないから、自由に寛いでくれ」
エリオスに連れられて足を踏み入れたその家は、小さいながらもしっかりと作り込まれたログハウスだった。
玄関を入ってすぐのリビングダイニングには、生活家具と並んで様々な魔道具が置かれている。
エリオスの趣味が魔道具作りであることを思い出し、フィオナはくすっと笑みを零した。確かにここは、エリオスの“秘密基地”と呼ぶにふさわしいかもしれない。
「簡素な家で、居心地は良くないかも知れないが…」
「いいえ、そんなことありません!森に囲まれて、木の匂いがして、とっても素敵なお家です」
もともと花や草木が好きなフィオナは、都会的な街並みよりも、野原や森の中の方が落ち着くのだった。
フィオナが笑顔で応えると、エリオスはほっと胸を撫でおろす。公爵家の家族や使用人たち、中でも女性陣から、この家は「狭い」だの「虫が多い」だの、散々な言われようなのだ。
「取り敢えず、夕食にしよう。卒業パーティーじゃ料理を取る暇もなかっただろ?」
「え、ええ、まぁ…、あの、エリオス様が、お料理を?」
すたすたとキッチンに向かうエリオスに、フィオナは目を丸くする。
「騎士をやってると、野営で料理する機会も多いんだ。すぐできるから、ゆっくり座っててくれ」
言いながら、食材庫から野菜や肉を次々に取り出すエリオス。
「あ、あの…私にも何か、お手伝いできることはありませんか?」
フィオナも、エリオスと並んでキッチンに立った。エリオスに料理を作ってもらいながら、自分は座って待っているだけとは、なんだかそわそわしてしまう。
そんなフィオナに、今度はエリオスが目をぱちくりさせて。
「…じゃあ、野菜の下ごしらえ、手伝ってくれるか?」
「はい!」
エリオスから野菜を受け取り、フィオナは笑顔で頷いた。