8-4.答え
騎士団本部の屋根の上では、数人の騎士たちが魔力吸収板をラクア山に向けて構えていた。
それらは勿論、設備室の“自然魔力調整機”に接続されている。
慣れない作業にもかかわらず、騎士たちは一致団結して、これらの準備をわずか数分で終えてくれた。
“自然魔力調整機”の設定を終え、フィオナはその出力部に自らの左手を乗せ、ハンドルを右手でしっかりと握る。
「ユンゲルス様、こちらはいつでも発動できます!」
「うむ。第一班、用意はいいか?」
すぐ後ろで、ユンゲルスが現場に確認を取る。光玉からは、肯定の返事が返ってきた。
「では、3秒後に作戦を決行する!3!」
設備室の周りに集まった騎士たちにも、緊張が走る。
「2!」
エリオスが右手を構え、フィオナは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
「1!吸収開始!!」
目を開き、一気にハンドルを押し上げる。
とてつもない負荷が全身にのしかかる。機器に大量の魔力を奪われている証拠だ。
潰されそうな肺で何とか息をしながら、フィオナは必死に耐えた。
一方、ラクア山で魔法の手ごたえを感じ取ったエリオスは、即座に1人目を崖の上へ浮遊させる。
慎重に、かつ迅速に。崖の上の仲間が要救助者を抱え上げるのを確認してから、エリオスは間を空けず2人目の浮遊に取り掛かる。こちらも無事に送り届け、3人目。
「…よし、いいぞ!あとはお前が上がってこい!」
最後にエリオス自身が浮遊して、宣言通り、3分以内に救助完了したのであった。
『団長!全員、救助完了しました!』
光玉からの報告に、騎士たちから歓声が上がった。
フィオナもハンドルを戻し、肩で息をしながらもほっと胸を撫でおろす。
「気を抜くな!無事下山するまで油断は出来ない。引き続き細心の注意を払って任務にあたれ!」
ユンゲルスの厳しい声に、浮かれた空気が一気に引き締まる。光玉から、『了解!』と騎士たちの声が響いてきた。
フィオナの心の糸も、再びピンと張り詰める。ユンゲルスの言う通りだ。麓に辿り着くまでの間に、またいつ崩落が起きるかも分からない。
エリオスの無事を、祈らずにはいられなかった。
それからユンゲルスの指示のもと、本部からラクア山の麓に応援の騎士たちが派遣された。
先に山を下りていた研究者たち、そして軽傷者の2名に遅れること数十分、残る3名も麓の街まで無事に帰還した。
3人はすぐに近くの病院に運ばれ、幸い、皆一命をとりとめたそうだ。
全ての救出活動を終え、エリオスたちが王都の駐屯地に戻って来た時には、既に真夜中を過ぎていた。
その知らせに、設備室で控えていたフィオナは玄関へと飛び出す。
暗闇の中、門扉からゆっくりとこちらへ歩いてくるエリオスと、目が合った途端。
張り詰めた糸が一気に緩み――気が付くとフィオナは、エリオスに駆け寄って抱き着いていたのだった。