1-4.婚約破棄、そして…
「エリオス…何故お前がここに?」
その姿をみとめるなり、穏やかだったクラウスの顔は、一変して冷ややかに張り詰めた。
エリオス・アイゼルハイム。王族の一員であるアイゼルハイム公爵家の息子で、現国王の甥にあたる。つまり、クラウスとは従兄弟同士だ。
王族の子息である彼も、当然王位継承権を有していた。しかし2年前、この学園を卒業するや、自ら志願して権利を返上し、王国魔法騎士団への入隊を果たした。
王として国のトップに君臨するより、国中を駆け巡って民たちに奉仕する道を選んだのである。
そんなエリオスを「変わり者」と称する者も一定数いたが、その正義感の強さに整った容姿も相まって、憧れを抱く生徒も多い。
フィオナも、その内の一人だった。
「クラウス。ちょっと状況を整理させてくれないか。」
クラウスの厳しい視線をものともせず、エリオスが語り掛ける。
明るい蜂蜜色の長髪を一つに束ね、肩に流すクラウスに対し、エリオスの髪は騎士らしく短く切りそろえられている。血が繋がっているとはいえ、正反対と言ってもいい容貌を持った2人だ。
「まず、君はフィオナ嬢との婚約を破棄し、そちらのレイモンド伯爵令嬢との婚約を宣言した。そしてフィオナ嬢は、それを承諾した。間違いないな?」
「…ああ」
クラウスが訝し気に、フィオナが不安げに頷く。
それを確認したエリオスは、ふっと笑みを零した。
「――幸運の女神に感謝を」
そう、小さく呟いたかと思うと、流れるようにフィオナの前に跪き。
「フィオナ・フォンベルク嬢。どうかこの私と、結婚していただきたい」
――!?
会場中が、本日一番のどよめきに包まれた。
特に女子生徒からは、悲鳴にも似た叫びが上がる。
「学園の植物園で初めてお会いした時から、ずっとお慕いしておりました。貴女が正妃候補に選ばれたと知って、何度も諦めようとしたが出来なかった」
フィオナの目を真っ直ぐに見つめて発せられたその言葉も、夢の中で響いているようだった。
フィオナはただただ、エリオスの目を見つめ返すことしか出来ない。