4-2.新しい毎日
(…光玉の“伝聞”?)
フィオナが光玉に手を伸ばすと、それは忽ち文字列へと姿を変える。
伝聞の送り主は…
「エリオス様からだ…」
読み終えると、フィオナはそれを再び光玉に戻し、エリオスのもとへ送り返した。
フィオナはすくっとベンチから立ち上がると、ウォルナットの頭をポンポンと撫でる。
「ごめんね、ウォル。今からエリオス様の所に行かないと。」
そう言い残し、パタパタと家の中へ駆けていくフィオナを、ウォルナットがきょとんとして見つめていた。
そして、それから半刻ほどたった頃。
「…ここだよね。騎士団の駐屯地って…」
肩から荷物を下げたフィオナが、荘厳な門扉の前で圧倒されていた。
王宮から少し奥まった場所にある広大な土地に、王立魔法騎士団の駐屯地が鎮座している。エリオスたち騎士団の団員は、ここを拠点に任務にあたっているのだ。
騎士団の任務は主に、国民を犯罪や魔物の被害から守ること。
開け放たれた正門の向こうでは、屈強な騎士たちが忙しなく行きかっていた。
先ほどの伝聞で、フィオナはエリオスから『とある物』を届けてほしいと頼まれたのだが…
フィオナはきょろきょろと辺りを見回しながら、門の中へと足を踏み入れる。すると。
「フィオナ!」
声がした方を振り向くと、騎士団の制服に身を包んだエリオスが、手を振って駆け寄ってきた。
「急な頼みごとをしてすまない。孤児院の方は大丈夫だったか?」
「ええ、今日はもう。伝聞に書いてあった装置は、これですよね?」
フィオナが家から持ってきた荷物を肩から下ろし、エリオスに手渡す。受け取ったエリオスは、その中身を確かめると。
「ああ、間違いないよ。…やっぱりフィオナに頼んでよかった。使用人たちに言っても、どれがなんの機械かさっぱり分からないらしくてさ」
エリオスが手にしたこの魔法機器は、魔獣の興奮を抑えるための鎮静装置。
魔獣の近くに設置することで、装置から常時一定量発生する浄化の魔力が、魔獣の精神状態を安定させ、安全に捕えておくことが出来る。
エリオスからの伝聞によると、王都の外れに、突然小翼竜の群れが押し寄せたらしい。通報を受け駆け付けた騎士団が一丸となって、どうにか全ての竜を捕獲した。
小翼竜は普段なら穏やかな性格の魔獣だが、捕まえた竜たちは何故か皆酷く気が立っていた。このままの状態ではたとえ森へ返しても、また舞い戻って民を襲う危険がある。
そこで、竜たちが落ち着くまでしばらく騎士団で保護することにしたのだが、捕えた小翼竜は計8頭にものぼった。落ち着かせようにも団にある鎮静装置だけでは足りず、急遽団員が個人で所有する装置を持ち寄ることになったそうだ。