1-1.婚約破棄、そして…
「フィオナ・フォンベルク嬢。私は、君と結婚することは出来ない」
ローゼンブルグ王国第一王子、クラウス・ローゼンブルグが、壇上からそう言い放った。
クラウスの視線の先に居たのは、透き通るようなプラチナブロンドにアクアマリンの瞳を持った、17歳の少女。
フィオナは、たった今まで婚約者だった青年を前に、頭が真っ白になった。
その周りでは、多くの生徒や来賓たちが、俄かにざわつき始めている。
ここは、ローゼンブルグ王立魔法学園のセレモニーホール。今は、フィオナたちの記念すべき卒業式の真っ最中だ。
そしてフィオナは、学園の卒業と同時に、クラウス王子の正妃として婚姻を結ぶ予定となっていた。
「2年前私は、学園一の魔力を有していた君に婚約を申し込んだ。王国のために、君の力が必要だと考えたからだ。…だが、卒業前最後の試験で、君の成績を上回る女生徒が現れた。」
ローゼンブルグ王国では、持てる魔力が身分と並んで重要なステータスとされる。
王立孤児院出身で、爵位どころか身寄りもないフィオナが正妃候補に選ばれた理由は、その人並外れた魔法の能力に他ならなかった。
王国の名を冠するこの魔法学校は、国内最難関の名門校。何を隠そう、クラウス王子その人も、この学園の卒業生である。
王侯貴族の令息令嬢の登竜門であると同時に、能力がある者は平民でも入学を認めるという開かれた教育理念が、この学園の大きな特長だ。
そんな学園に、クラウスの2つ後輩として入学したフィオナ。すると忽ち、その実力は『稀代の天才』と学園中で囁かれるようになった。
そしてクラウスの耳にも、フィオナの噂はしっかり届いていたらしい。2年前の今日、クラウス自身の卒業の日に、彼はフィオナに婚約を申し込んだ。
学園で優秀な成績を収めれば、卒業後には平民であっても王国の重役に抜擢されたり、上位貴族の婚約者に選定されたりと、多くのチャンスを得ることができる。
とはいえ、第一王位継承者の正妃に平民のフィオナが選出されるなど、歴史上類を見ない大抜擢であったのだが…
完全に思考が停止してしまい、立ち尽くすだけのフィオナをよそに、クラウスは高らかに、一人の少女の名を呼ぶ。
「サリア・レイモンド伯爵令嬢。こちらへ」
呼ばれて、その場にいる全員の視線が集まる中、その少女は優美に、クラウスのもとへと歩を進めた。
「私は、フィオナを破って学年一位の栄光を手にしたこのサリアと、改めて婚約を結ぶ。彼女が正妃教育を終えた暁に、婚礼の議を執り行う予定だ」