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【完結】騎士と恐竜の紀元前ラブストーリー  作者: 山野げっ歯類
三伝:パーシーズハウスへようこそ~温泉は偉大~
9/27

こだわりの家と温泉と

 パーシヴァルはその日、真剣な表情で土地を見分していた。


 高台で高低差がなく、適度に生えた木々が翼竜たちの視界を防ぐ。

 遥か下を見下ろせば海。

 そして森からは距離があり、外敵が襲ってきても到達するまでに攻撃の準備ができる。


「よし、ここならいいだろう」


 落ちていた棒を拾い、ガガガと円を描く。

 直径は、寝転んだ状態のパーシヴァルが4人分ほど。その円の中を木製スコップで必死に掘り下げる。


 頑丈そうな大木を8本選び、柱として円の端に立てる。また、真ん中には主柱を立て、屋根のてっぺんに向かって集まった木材を木の皮を剥いで乾燥させた帯でぐるぐる巻きにした。


 それら柱の上部分に木材を横と斜めに()いでいき、上から藁や葉っぱなどをどんどん乗せる。その上に再び木材や動物の骨などを使って縦横斜めに組み、最後に上から動物や恐竜の皮を乗せた。


 藁や葉っぱだけだと耐水性に不安があるが、動物や恐竜の皮であればある程度の雨風は(しの)げるはずだ。


 ちなみに動物はパーシヴァルの狩ったシカ、クマ、ワニなどの皮が使われた。特にワニの皮は水を弾くので重宝する。

 恐竜はガリミムスやパキケファロサウルスなどを狩った。



 なお、それぞれ家づくりの材料としてだけではなく食事や雑貨としても活用している。

 ワニの肉は火を通すと鶏肉のようにあっさりしていて美味しい。パキケファロサウルスの頭骨はスープの入れ物として最高の器である。



 話が逸れた。



 竪穴住居の外観はほぼ完成だ。

 あとは石で作った炉を設置し、土のままでひんやりしている床にクマの皮を敷く。



「できた……!」




 パーシヴァルは満足そうに額の汗を拭った。(たくみ)・パーシーのこだわりの家の完成だった。



(おお、ついに完成したのかパーシー)

「ぎゅわー」


 ロンとモンブランはパーシーズハウスを見て感心している。


「ささ、レディース&ジェントル槍。どうぞ私のこだわりの家をご覧ください」


(うむ。失礼する)

「ぎゅ、ぎゅわ!」


 中は広く、体の大きいパーシーが10人入っても大丈夫、な空間になっている。


(おお、床が柔らかくてふわふわ。寝心地がよさそうだ)

「この日のためにクマの皮をしっかり乾燥させ、被毛ブラッシングも欠かさず行ってきた」


 ドヤ顔で話すパーシヴァル。モンブランは足の裏に触れるクマの毛が気持ちいいのか、嬉しそうに足踏みしていた。


(しかもなんだか暖かいな)

「ふっふ……ロン、よくぞ気付いてくれた」


 竪穴住居の奥には、岩から削りだしたパーシヴァルお手製の暖炉が鎮座している。


「冬はあったか快適空間をご提供。もちろん、ここに鍋を置くことで煮炊きもできる。さらに……」


 パーシヴァルが両手の人差し指で暖炉上方を指す。槍とモンブランが近づくと、そこには器用に彫刻が彫られていた。


(これは……パーシーと俺とモンブランか?)

「ぎゅわっ、ぎゅわわ~~!」

「ふふ、ただの暖炉では色気がないと思ったのでな。せっかくのこだわりの家なのだ、私たちの生活が楽しくなるような願掛けを施した」



 槍を持った人間とアンキロサウルスが笑って走っている姿が、そこにはあった。




 ◇




(そういえば浴槽(バス)がないな)


 そう、ここには風呂がない。


 この時代に来たばかりのとき、パーシヴァルとロンは「大きなお風呂が欲しい」などと理想の家を妄想してはキャッキャしていたのだった。


 槍が湯舟に入るのかという疑問は置いておくとして、腕を組んだパーシヴァルは静かに笑いだした。


「んっふふふふふ……」


(どうしたパーシー)


「我が相棒よ、君に見せたいものがある。もちろんモンブランにもだ。ついてきてくれ」





 パーシーズハウスは森から離れた高台にある。そこからなだらかな崖を下りて砂浜を進むと、木々に隠れた一角に洞穴(ほらあな)があった。


「……ぎゅ、……」


 真っ暗な洞穴を見てモンブランが警戒心を露わにする。パーシヴァルが笑ってモンブランを抱っこした。


「大丈夫だ、モンブラン。怖い敵はいないよ。ほら、一緒にいこう」


 パーシヴァルに抱っこしてもらったモンブランはたちまち上機嫌になった。

「ぎゅぎゅっ」といいながらパーシヴァルの胸の中で丸くなっている。


 槍とアンキロサウルスを抱えたパーシヴァルが洞穴の中に入ると、独特の臭気と湯気に包まれた。



(これは……?)


「ふふふ、天然のhot spring(おんせん)だ!」


(て、天然のhot spring(おんせん)だと!?!?)


 洞穴の中央には、岩で囲まれた自然の湯舟があった。

 独特の臭いは硫黄だったのだ。


 hot spring(おんせん)といえばかつてローマ帝国が街中に「テルメ」を掘り起こし、人々の健康を促進したとして有名だ。


 現代のログレスでは浴槽に入る文化はない。


 だが、アーサー王は縁側でお茶を飲みながら「ローマのテルメって聞いたことある? あれ、肩こり腰痛疲労回復にめちゃくちゃ効果があるらしくてさ。私も一度でいいから入ってみたかったな」と無念そうに語ることがあった。


 パーシヴァルの湯舟への憧れもここから来ている。

 最初はパーシーズハウスに丸太を切り抜いて浴槽を作ろうかと思ったのだが、屋内で直火はご法度だ。


 それでは露天風呂にしようと思い立ち、浴槽作りに適した丸太や岩を探していたところ、この洞穴を発見したというわけだ。


「天然のhot springは体を治癒する効果があると陛下もおっしゃっていた。まさかこのようなところで遭遇できるとは思わなかったがな!さっそくみんなで入ってみよう」



(なあパーシー……もしかして俺、錆びちゃうかも)


「前も言ったがお前は聖槍だという自覚を持て! 魔力を帯びてるから錆びることはない」


 パーシヴァルの指摘に改めてホッとするロンゴミニアドであった。





「いっせ~~~のっ!」



 ザブーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!



 素っ裸になったパーシヴァルと槍(そのままの姿)、アンキロサウルス(そのままの姿)は一斉にダイブして湯の中に入った。


 パーシヴァルは顔に飛んだ湯を拭いながら「これは気持ちいいな!!」と破顔する。


「独特の臭いも気にはなるが、慣れてしまえば案外平気そうだ。それにしても体に染みわたるような心地よさだ。これがhot springの効果か。クセになりそうだ」


 沈んでいた槍がプカリと浮かんできた。


(あ゛~~~~~……すごい効く……凝りがほぐれていくのが分かるぞ……)


 槍も凝ることがあるようだ。パーシヴァルは適当に相づちを打っておいた。



 モンブランはどこだろうと周囲を見回してみる。


 いない。


 と、ブクブクと泡を出しながらお湯の底に沈んでいた。



「モンブラーン!?!?」



 パーシヴァルは慌ててモンブランを湯の中から救い出した。


 どうやらアンキロサウルスの体は重く、水の中で浮くことができないようだ。

 今度からはしっかり見張っていてやろうと誓ったパーシヴァルである。


 モンブランはパーシヴァルの膝の上に乗っかると「ぎゅふぎゅふ」と不思議な声を出した。

 沈んだときは衝撃を受けていたようだが、hot spring自体はまんざらでもなさそうで、時折ウトウトとしていた。



(家もできたし、hot springは最高。原始時代生活もなかなか快適になってきたな)


「ああ。それに、今日は晩飯も豪華だから期待していてくれ」


(えっ!? 一体どんな料理なんだ!?)


「ぎゅわわっ!?」






「なんと……マンモス肉の串焼きだ!!!」




 洞穴からは絶叫と大笑いが同時に響き渡った。



読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ワニはともかく。 シカやクマはこの世界でどう生きてたんですかねぇ……のこのここしたんたんと生きてたんでしょうかねぇ(ォィ >今度からはしっかり見張っていてやろうと誓ったパーシヴァルである。…
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