嫁が雑草を食べて困っています
本編の後日談です。
しかし本編読んでなくても円卓の騎士×アンキロサウルスの女の子の恋愛ギャグ小説日和という前提さえあれば読める気もします。
私の名前はパーシヴァル。魔族との戦争に打ち勝った偉大なアーサー王配下“円卓の騎士”の一人である。
ちょっとしたスリルを味わうのが大好きで、魔術師マーリン殿に依頼して先日まで恐竜のいる原始時代生活をエンジョイしていたのだが、そこで最高にかわいらしいアンキロサウルスと出会い、いろいろあって彼女と結婚した。
アンキロサウルスの妻・モンブラン。自宅では体重5トンの鎧竜姿のままお風呂に入ったりご飯を食べたりベッドに入ったりしている。
風呂も寝台もモンブラン用に増築・拡張した。
例えば寝台。都から職人を3人ほど連れてきて、パーシヴァルとアンキロサウルスが一緒に眠ることができる超巨大寝台を特注した。寝台の9割はモンブランが占拠し、夫である私は隅っこぐらしである。
愛するモンブランのためであるから全く問題はない。
モンブランとの生活は原始時代における共同生活とほとんど変わらなかったので、特に困ることはなかった。
むしろ「ぎゅーわわっ♡」などと可愛らしい声を出して硬い鱗を擦りつけてきたり、ざらざらした舌で顔面をベロベロと舐められたりすると幸せな気持ちになる。
体が大きく体重が5トンあるので、モンブランが興奮して抱きついてくると肋骨が平均2本ほど折れるが、私の肋骨が弱いことに責任があるので修行に勤しむ機会を与えてくれた妻には感謝している。
唯一困ったことがあるとすれば、
「モッシャモッシャ……ぱしさま! この葉っぱ、モッシャ……おいしい!! モシャモシャ」
人間の姿になったモンブランが、口に雑草を詰め込んでは溢れんばかりの笑顔を向ける。
パーシヴァルは唸った。
かわいい。
とてもかわいい。
が、注意はしなければならない。
「モンブラン。そこらへんに生えている雑草をむやみに食べてはいけないと言っただろう? もしかしたら毒があるかもしれない。それに、ちゃんと城や家の食事を食べなければ栄養が偏る」
登城の予定がなかったパーシヴァルはその日、モンブランと2人で散歩に出ていた。
キャメロット城やパーシヴァルの居館ではアンキロサウルスの姿でくつろぐモンブランだが、外では人々が驚いてしまうので人型になるのが常だった。
人間の姿になったモンブランは、白いローブを纏いエメラルド色の美しい髪が風に揺れる可愛らしい容貌の少女だ。
だが、口の中に大量の雑草をほおばっているので異様と言えば異様である。パーシヴァルはそんなモンブランもかわいいと思ったが、異様であることは何となく理解していた。
「でも……モッシャモシャモシャ……すごく…モシャッ……おいしい です!」
「食べながら話すのもやめなさい」
この時代に来たばかりのモンブランは、目に入る木々や草花が珍しいのでどんどん口に入れる。
たまたま傍に居合わせた村人の驚愕の表情を思い出す。
「困ったな……道端に生えているものを食べるのはいろいろ問題が」
「もんぶらん わかり ました !」
頭を抱えるパーシヴァルに、若妻が明るい声を出した。
「セバチャン に りょうり してもらう です!」
“セバチャン”とは、パーシヴァルの邸宅にいる執事のセバスチャンのことだ。
「いえでもっとおいしいざっそーたべられるなら モンブランがまんできます」
「なるほど!!!!!!!!!!!!」
パーシヴァルは平原一帯に響くクソデカ声で答えた。
「確かに、雑草を使った料理というのは思いつかなかった! それならばモンブランも美味しい雑草(?)が食べられるし、栄養も取れそうだな」
パーシヴァルは嬉しくなって、モンブランの手を取り踊り出す。
小さな花が咲く草原で、夫婦の契りを交わしたばかりの騎士と恐竜は息の合わないステップを披露した。
音楽もなくダンスと呼べる動きですらなかったが、2人はそれでも幸せだった。
「ぱしさま! たのしいです!!」
「俺もだモンブラン! 君がいればどんなときでもどんな場所でも楽しいさ」
最後の最後でモンブランはパーシヴァルの足を踏んだ。
パーシヴァルの足の骨が折れた。全治一ヶ月の怪我だった。
さて、円卓の騎士パーシヴァルの居館では、その日以降雑草をどう料理すればいいのか試行錯誤する料理人の姿が見られた。
「雑草のすりおろしスープ」「雑草粥」「雑草パン」「雑草まぜまぜサラダ」「雑草の姿焼き」「雑草とくるみのケーキ」などのメニューが考案されたという。
モンブランはそれを大層喜び、おそろしい吸引力で完食した。
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