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モンブランの反逆 後編

 パーシヴァルは全てを理解した。


 愛とは何か。

 世界の理とは何か。


 自分が真に求めていた“スリル”とは。




 自分を助けに、たった一人で来たモンブラン。

 感情を爆発させたモンブラン。



 そうだ、全部、彼女に教えてもらった。






「お前の言う通りだ、モンブラン」



 騎士はゆっくりと立ち上がる。

 彼女に殴られた痛みも受け入れる。



「そうだ、()()()()()()()()。―――お前を守っているつもりで、いつも守られていたのは俺だった」


 赤子だった彼女を保護し、親のようになった気でいた。

 円卓の騎士としてのプライドが彼女を守る自分の虚像を追いかけ続けていた。


 しかし。


 風邪で倒れたとき、原始時代にティラノサウルスに襲われたとき、現代で再びティラノに襲われたとき。そして、今。

 騎士であるパーシヴァルよりも、モンブランのほうがずっとずっと自分の命を守ってくれていたのだ。



「お前は人間の姿になっても強いままだ。俺から視線を逸らさず、俺への感情をごまかすこともなく、敵から逃げることもない」


 “か弱い”と決めつけていたのは、パーシヴァル自身だ。


 彼女はただただ、大切なパーシヴァルを守るためにいつもいつでも走っているのだ。

 情のかたちだとか、体裁だとか、自分が恐竜なのか人間なのかも関係なく。



 教えていたつもりで、教えられていた。

 本当の意味で誰かを愛し、守るということを。


 スリルに満ちた人生とは何なのか、ということを。



「モンブラン、俺の最愛よ。お前は強い! 俺はお前に守られる俺自身を誇りに思う!! そして、」


 胸に強く握った拳をかざす。




「そんなお前を尊敬し愛おしく思うからこそ、お前は俺が守ると決めたのだ!!」




 これまでの騎士像も価値観も全てを壊し、純粋な感情のまままっすぐに相手にぶつかっていく。

 それが俺の求めていたスリル。


 パーシヴァルの体とロンゴミニアドが輝き始める。



「共に戦おう、モンブラン!! 俺とお前ならば打ち勝てぬものなどない」


 モンブランは咲き誇る笑顔でパーシヴァルの手を取った。


「はい! パーシヴァルさま!!」


 パーシヴァルの手とモンブランの手が重なった瞬間、パーシヴァルの体から発した光が異空間に満ち満ちた。


 光が聖なる刃となって魔術の壁を破壊する。異空間の壁がパリパリと崩れ落ちて行った。

 先ほどまで広がっていたアンキロサウルスの森はいつの間にか姿を消し、あたりにはログレスの景色が戻っていた。



「ここは……ログレスだ!!」

「隊長、元の世界に戻れましたね」

「さすがはパーシヴァル隊長だ!」


 隊員の喜びの声が聞こえてくる。パーシヴァルが周囲を見れば、隊員は全員無事のようだった。

 ほっと胸を撫でおろすと同時に今度はロンが叫んだ。



(パーシー! モンブランが)



 モンブランの体が光で包まれ、その姿が次第に巨大になっていく。


 そして、


「ぎゅわわわ~~~~っ!」


 パーシヴァルの目の前には、鎧竜と称されたアンキロサウルスが確かに存在していた。

 鎧竜は短い前脚を高く掲げる。モンブランの喜びの声がこだまする。



「モンブラン!!!」



 パーシヴァルは滂沱(ぼうだ)の涙を流して絶叫する。

 そのまま両手を広げて全力ダッシュ。硬くて凸凹した草食恐竜の体に頬ずりした。


「なんて可愛らしいモンブラン!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ずんぐりむっくりトゲトゲ寸胴型の魅力的なフォルム!!!!!!!!

 “歩く要塞”と称されるおっきな亀ちゃんのような可憐な姿!!!!!!!!!!

 小鳥の鳴き声に似た超絶かわいらしいさえずり!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 お前のしっぽが振られれば世界が喜ぶ、完璧で究極なアンキロサウルス!!!!!!!」



 パーシヴァルが大興奮している背後に、黒い人影が現れた。

 闇を纏うローブ姿の男。


 ルシフェルだった。



「馬鹿な……!? 私の異空間が破られるなど信じられない……! しかも呪いまで解除したというのか……!?」


 老人のようにしわがれた声には隠せない焦りの色があった。

 彼は魔王軍ナンバー2の実力者。ルシフェルの呪いはマーリンでさえ解呪するのが難しいほどのものである。



「ルシフェルよ、」


 パーシヴァルは魔王軍きっての魔術師と向き合った。


「そなたのおかげで本当の愛に気付くことができた。礼を言うぞ」

「“愛”だと……!? 人間風情が馬鹿馬鹿しい! そんな不安定な感情ひとつで魔法が破られてたまるか」

「そもそも人間は聖具や魔族と違って短命だ。感情とは、その短い人生の中でさえ不安定で刹那的なのだ。なんと奇跡的な事象だろうか」


 パーシヴァルはモンブランの額に手を添えた。アンキロサウルスはそっと目をつぶる。

 逆側の手に持つロンゴミニアドに、これまでにない力が宿っていく。



「馬鹿な……! なんという魔力!! くそっ、いでよティラノサウルス!!!」


 魔法陣が出現し、先ほどまで異空間内でパーシヴァルと対峙していたティラノサウルスが姿を現す。

 ルシフェルは杖をかざして最強の肉食恐竜に指示を出した。


「ティラノよ! この騎士とアンキロサウルスを喰ってしまえ!!」






「ならんな、ルシフェル。それは愛に反する行為だ」



 声がするとともに、周囲に独特の香りが満ちた。

 男女問わず人を魅了するフェロモン。心地よく耳に流れ込んでくる低い声。


 湖の騎士、ランスロットだ。



 落ち着いた声とは裏腹に彼の動きは非常に素早く、並みの戦士では把握することすら難しかった。

 とんでもない瞬発力で地面を蹴り上げ、竜さえ殺すと言われる威力の愛剣アロンダイトでティラノサウルスの首筋を切り付ける。

 かと思えば、舞い踊るように体の向きを変え、胴体、後ろ脚の根元までをも短い時間の中続けざまに攻撃する。


 絶叫したティラノサウルスが最後の力をふり絞ってランスロットとパーシヴァルに向かって突進してきた。パーシヴァルの隣に降り立ったランスロットは「案ずるな。黙ってみていろ」と普段と変わらぬ声色で述べるのみ。


 だがその理由はすぐに分かった。

 もう一人の円卓の騎士も姿を見せたからだ。





「パーシヴァル様の良縁を邪魔するなんて、俺が許しませんよ!」




 聖剣ガラティーンを両手に持ったガウェインは、ちょうど太陽を背にするかたちで跳躍した。

 彼はもともと怪力だが、聖剣の力で昼間は常人の3倍以上の腕力が発揮できる。


 今は、昼。



「恐竜だってかち割ってやりますわああああああ!!!!!!!!!!!!」



 ガラティーンが、最強の恐竜の額を真っ二つに割った。

 あっけないほど綺麗に切られた巨体は、断末魔の悲鳴を上げてどうと倒れた。土煙が舞う。



「そんな……最強のティラノサウルスまでやられるとは。さすがに円卓の騎士3人では分が悪いか」


 ルシフェルは杖を動かして転移の魔法陣を描き始める。魔王城に帰るつもりのようだ。


「ここはいったん態勢を立て直し―――」

「そうはいかんぞ、ルシフェル!」



 鎧竜に乗ったパーシヴァルが、土煙の中から姿を現しルシフェルに向かって突き進んでいた。


「ティラノサウルスやアロサウルスだって、あの時代では()()()()()()()()()殺生しかしなかった。それを利己的な戦争のために利用するなど……絶対に許すわけにはいかない」


 パーシヴァルはモンブランの上で片膝をつき、空に向かって真っすぐに立てたロンゴミニアドに額を当てた。

 詠唱を始める。



「捧げるは祈り。せめてその先で新たな存在を得ることを。

 捧げるは苦しみ。お前がその向こうで新たな喜びを知るための。

 捧げるは虚無。この世界には過去も未来もないと知れ」



 それはかつて魔王の前でも詠唱した言葉。

 パーシヴァルの持つ最強の技でルシフェルを屠る。



 モンブランがルシフェルに突進した。

 飛び上がったパーシヴァルは、魔力による防御壁を展開しているルシフェルの頭上から聖槍とともに真っすぐに落ちていく。



「ただひたすらに痛みのない終焉を。塩の柱となった世界(ネツィヴ・メラー)!!」




 ロンゴミニアドがルシフェルの防御壁を打ち破った。


 そして、あたり一帯は眩く白い光に包まれた。










 ◇






 ログレス首都周辺の魔族掃討作戦は無事に終了した。


 動物に姿を変えられていた村人たちも元に戻り、魔王軍ナンバー2と言われていたルシフェルを撃退。人間側にとって大きな快挙だった。

 今回の作戦成功により魔王軍の勢いは一時的に衰えた。この期を活用し、打って出るためのログレス軍の増強を図る。アーサー王は配下の騎士たちに檄を飛ばしていた。





 さて、パーシヴァルはあれからも変わらず毎日筋肉と己の武芸を鍛える日々であった。

 立てかけられたロンはそれを見て「腰が痛いな」と呻くのも変わらなかった。


 唯一変わったのは、新しく家族になったアンキロサウルスの少女・モンブランとの関係だ。



 モンブランはルシフェルが倒れたことで呪いからは完全に開放されたのだが、体内に残ったルシフェルの魔力を活用していつでも人間の姿に変身できるようになった。

 骨を折ってくれたのは、最近また髭と胸毛が濃くなった魔術師マーリンである。

 感謝するパーシヴァルに対し、マーリンは


「あんなにでかい図体のままで生きていくのは難しいだろう。それに、まあ……俺がお前とモンブランの仲人みたいなもんだからな」


 と言ってニヤニヤするのだった。








 ある夜のこと。

 パーシヴァルは食事が済んだ後、暖炉の前でモンブランにプロポーズをした。


「モンブラン、俺の伴侶になってくれないだろうか」


 もちろんモンブランには“結婚”や“伴侶”の意味は分からない。目を真ん丸くして首を傾げていた。


「ぱしさま、はんりょ なんですか?」

「そうだなあ……。親でも娘でもないが、とても大切で大好きな人という意味だよ。それで、できればこれからもずっと一緒にいてほしい人のことだ」


 モンブランはぱああと顔を明るくした。



「それなら ぱしさま は もんぶらんの はんりょです !」



 アンキロサウルスの少女は思いっきりパーシヴァルに抱きついた。



「最初はお前を妻にすることが本当に正しいのか迷ったが、そういった悩みを払拭してくれたのはお前だ、モンブラン」

「わたし です?」

「ああ。今のお前には結婚や妻になることの意味は分からないだろう。だが、お前が俺の傍にいたいという気持ちを尊重するのが最上で、関係性や手段は二の次なんだ。俺も、お前が誰かに取られるくらいなら迷わず結婚する」



 もしもモンブランが人間界の生活に慣れて結婚の意味を知ったとき。

 彼女がそれを嫌がるのなら、パーシヴァルは快く身を引くつもりだった。



 だが、今は。



「アンキロサウルスを妻にした生活とはどういうものか、非常にワクワクしている。

 自分よりも強い妻を娶った俺は日々の訓練ですら手抜きができない。そして、恋や愛を詳しく知らない俺たちはこれからどういう関係になっていくのか―――」


 モンブランとの暮らしは、想像がつかないことばかりだった。

 結婚生活がこれほど緊張に満ちたものになると誰が予想できただろう。



「ぱしさま、 なんだか たのしそう」



 モンブランが指摘する。そうだ、この()には全て見透かされている。



「それなりに長く生きてきて原始生活まで経験したというのに、人生はまだまだ知らないことに満ちているな、モンブラン。このスリル、一緒に楽しんでいこう」



 そういうとパーシヴァルはモンブランの額にキスをした。




これにてお話は完結です。読んでいただきありがとうございました!!

文章が荒いので全体的なリライト作業、登場人物紹介の項目を作ろうと思っています。あとは簡単な後日談……?


この物語を読んだ人の中でアンキロサウルスが好きになった人がいてくれたら嬉しいです。

本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう、最高過ぎますよ。 私は以前恐竜な感じの話を書こうかどうか迷っていたんですがそんな迷いが吹き飛ぶほど素晴らしいお話でした。 これで恐竜萌えが生まれなかったらそいつ人間じゃないですよ(ォ…
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