モテモテモンブラン
登城するパーシヴァルの後ろにくっついて回る緑髪の少女について、キャメロット城は噂でもちきりだった。
「女性に縁のなかったパーシヴァル様にもついに恋人ができたのかしら」
「あんなに綺麗な女性は見たことがない。一体どこの国の姫君なのか」
パーシヴァルは脳筋なのでそのあたりの機微には疎かったが、モンブラン(人型ver.)の翠緑の長い髪や見る人を和ませる大きな黒い瞳は男女問わず人々の目を引いた。
城のメイドに用意してもらった服や装飾品を身に着けたモンブランは年頃の少女の中でもひと際美しく、日に日に彼女に興味を持つ者は増えていったのである。
その日、登城したパーシヴァルは首都付近で増加する魔族の対応策を話し合っていた。
数日以内にランスロット、ガウェイン、パーシヴァルの隊が周辺の村落を見回ることとなって会議は終結した。
「ぱしさま!」
円卓の間から出てきたパーシヴァルに駆け寄ってきたのは、廊下で待っていたモンブラン。
恐竜のときからの癖で、モンブランは真正面から飛びつくとパーシヴァルの胸に頬を摺り寄せる。パーシヴァルもここが城内であることを忘れて慈愛に満ちた表情で優しく頭を撫でた。
「モンブラン、ずっと廊下で待っていたのか? ここは体が冷えるから応接室で待っていなさいと言っただろうに」
モンブランは勢いよく首を横に振った。
「寒くない、です! わたしは、はやく、ぱしさまに あいたい です!」
ニコニコ顔でパーシヴァルに訴えるモンブランに対し苦笑するパーシヴァルだったが、後ろから声をかけられてハッとした。
「パーシヴァル殿! その美しい令嬢はどなたですか!?」
アーサー王の甥であり、先ほどまで同じ会議に出席していた円卓の騎士の一人、ガウェインだった。彼は純粋な性分で、もの珍しいモンブランの緑色の髪をじっと覗き込んだ。
「宝石みたいな髪と瞳……なんと綺麗な方だ……!」
「ああガウェイン、紹介がまだだったな。彼女はモンブランと言う。本来は恐竜の娘なのだが今はルシフェルの呪いによってこのような姿に」
「モンブラン殿! 俺とお付き合いをしてくれないだろうか!?」
ガウェインはパーシヴァルの話を全く聞かずに交際を申し込んだ。
パーシヴァルはガウェインの顔面を思いっきり殴った。
ガウェインは正午までは怪力になる特殊な力を持つ騎士である。パーシヴァルはそれを承知していたのであまり遠慮することはなかった。
殴られたガウェインもわずかに鼻血を出しただけだ。
「話を聞け、ガウェイン!! モンブランは本来、アンキロサウルスという恐竜なのだ! 人間と付き合いなどできるはずがあるまい!!」
「そうなんですか? じゃあパーシヴァル殿とモンブラン殿はどういう関係なんですか?」
パーシヴァルは目を見開いた。
自分と、モンブランの関係。
「それは当然……家族だ」
そう答えはしたが、答えたパーシヴァル自身なんとなく釈然としないものを感じていた。
「家族ってことは正妻ですか!? なーんだ、先に言ってくださればいいのに。パーシヴァル殿の妻を奪うのはさすがに私の正義に反しますよ! 不肖ガウェイン、新たな姫を探さねばなりませんな」
顔面を殴られたにも関わらず、ガハハと豪快に笑いながらガウェインは去っていった。
……妻?
モンブランが??
廊下に立ち尽くしたパーシヴァルは考え込む。
パーシヴァルにとってモンブランは家族であることに変わりはない。
人間であっても、恐竜であっても。
ただ、これまでは「娘」のような存在だと思っていた。
目を転じれば、首を傾げてパーシヴァルを見つめるモンブランがいる。
「ぱしさま?」
今のモンブランの姿が、美しく可憐な少女であるということはパーシヴァルにも分かる。
2人で歩いていれば、夫婦や恋人のように見えるだろう。
しかしパーシヴァルにとっては、ずんぐりむっくりトゲトゲ寸胴型のかわいらしいフォルムかつ、“歩く要塞”と称される可憐なアンキロサウルスこそがモンブランの真の姿なのである。
その姿を守り切れなかった自分に、人間の姿をしたモンブランを愛する資格があるとは思えなかった。
アーサー王はどちらも同じモンブランだと言う。
それはその通りなのだが、頭では理解していても、心ではなかなか納得できない複雑なパシ心である。
「ぱしさま、ぱしさま」
「……ああ、すまない。モンブラン。なんだい?」
我に返ったパーシヴァルは、モンブランを心配させまいと笑顔を見せた。
「さっき、べつの人に “よばい”を もうしこまれ ました です! 」
パーシヴァルの笑顔は瞬時に固まった。
「よる、へやにくる 言われました ! どあを開けておけ と」
「モンブラン。今日の夜は俺の部屋で寝なさい。君の部屋には後ほど縄と落とし穴と火炎瓶を仕掛けておくから」
パーシヴァルはため息を吐く。
ここ数日はこんな感じが続いていた。
(人間的に)美しい容姿をしたモンブランには、欲に目をぎらつかせた男どもが次々に忍び寄ってくる。
モンブランはまだ人間世界には馴染みがなく、警戒心が薄い。
先日も「クルミのお菓子をあげるよ」などと子ども騙しレベルの誘い文句を真に受けて、危うく連れ去られそうになったばかりだ。
「ぱしさまと一緒! うれしい です!!」
純粋に、パーシヴァルと近くで眠れることを喜ぶモンブラン。愛情を全力で示してくれる彼女のことは何としても守らねばならない。
「愛に悩んでいるな、パーシヴァル」
その声が聞こえた瞬間、キャメロット城の廊下に薔薇の香りが充満した。
フェロモン満載の声の艶、足音さえも優雅に聞こえるその騎士の名を知らぬ者はログレスには存在しないと言われている。
“湖の騎士”ことランスロットがパーシヴァルの前に立っていた。
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