緑髪の少女
そこには一人の女性の姿があった。
年齢は16歳前後。鮮やかな緑色の長い髪は緩くウェーブしており、目はぱっちりとした黒色。白いロングチュニックだけを身にまとい、裸足のまま呆然とした表情で立っている。
パーシヴァルと少女はしばし無言で見つめ合った。
アンキロサウルスの姿は消えている。
去り際にルシフェルはモンブランに対して“か弱き生物”となる呪いをかけていった。
霧が晴れ、モンブランのいた場所に突如現れた緑髪の少女。
「モ、」
パーシヴァルはようやく口を開いた。
「モンブラン……?」
名前を呼ばれた少女は口をパクパクさせていたが、小さな声で一言、
「ぱ…………ぱし、さま」
と答えた。
◇
その後のパーシヴァルは呆然自失の状態だった。
動物化した村の住民の保護、怪我を負った隊員たちやボールスの傷の手当を行いキャメロット城へ帰還した。
魔王軍ナンバー2が復活したこと、ティラノサウルスが現代に出現し魔王側に就いていることなどを玉座の間にてアーサー王に報告している間も、パーシヴァルはどこか上の空だった。
「あのルシフェルが生き延びていたとはな……。魔王が再び攻めてくる日もそんなに遠くはなさそうだな」
顎に手をやり、アーサー王は唸った。
「パーシー、報告ご苦労だった」
「は、」
「………」
「………」
「で、あの、その横にいる女の子は」
人間化したモンブランはひざを折るという動作ができないため、玉座の間にペタンと座る形でアーサー王を見つめていた。
手にはロンゴミニアドを掴み、先ほどからブンブンと振り回している。
(ちょ、ちょっと)
「ロン! 楽しい」
(モンブラン、俺はただの槍なんだからもう少し優しく接してくれ)
モンブランはロンをおもちゃのように振り回し、キャッキャしていた。
「アンキロサウルスのモンブランです。ルシフェルに呪いをかけられ、人間の姿になっております」
割と楽しそうなモンブランとは対照的に、パーシヴァルは絶望をたっぷりと乗せた声色で報告した。
「そうかそうか。君がパーシーから報告を受けていたモンブランちゃんだね」
アーサー王は玉座から降りて、モンブランに近づいた。
「本当はアンキロサウルスという恐竜の姿を見てみたかったが……、呪いとはいえ人間の姿も十分かわいいじゃないか」
ニコニコ顔で話すアーサー王に対し、パーシヴァルは絶叫した。
「王よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!これは一大事なのですぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「パーシー、そんなに大きい声を出さなくても聞こえるよパーシー」
「あの可愛らしいモンブランが!!!!!!!!!!!!!!!!!
ずんぐりむっくりトゲトゲ寸胴型のかわいらしいフォルムは今はなく!!!!!!!!
“歩く要塞”と称されるおっきな亀ちゃんのような可憐な姿は奪われ!!!!!!!!!!
小鳥の鳴き声に似た超絶かわいらしい『ぱし』のさえずりさえ聞こえなくなったのです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
モンブランの呪いがいかにひどいものかを切々と訴えるパーシヴァル。だが声がでかすぎて、玉座の間にいるアーサー王やその他の衛兵は耳を塞いでいた。
「なんとかわいそうなモンブラン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!このような残虐非道な呪いは一刻もはやく解いてあげなければなりません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
王よ、いますぐ私に魔王を討てとご命令ください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アーサー王はニコニコしながら数回頷いた。
長い間パーシヴァルと付き合ってきた一国の王は彼の扱い方を熟知している。傾聴の姿勢を崩さず、それっぽい相づちを打つ。
「パーシー、ちょっと落ち着いてパーシー。まだ隊員たちの怪我も回復していないし、何の準備もせず進軍の許可は与えられないからね」
それに、と言いながらアーサー王はモンブランの頭を撫でる。
「君の嘆きも分かるけど、この姿の彼女もモンブランであることには変わりないだろう? パーシーは背格好が変化しただけで差別するのかい」
「そんなことは毛頭ございません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!私にとってモンブランは大切な家族でございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「じゃあ別にいいじゃないか。呪いが彼女の体に害を与えているわけではないのだし、急いては事を仕損じるというだろう。魔王の復活が明らかになった今、魔族と再び戦争をするというのなら円卓の騎士も招集しなければいけない。準備を怠るわけにはいかないよ」
王の言うことはもっともだった。
パーシヴァルは諾の返事をして玉座を下がった。
キャメロット城の廊下を歩きながら、パーシヴァルはモンブランに語り掛ける。
「というわけで少しの間その姿のままで生活してもらうことになる。すまんなモンブラン………俺が未熟なばかりに」
くっ、と男泣きするパーシヴァルであったが、ロンを振り回しながら廊下を走るモンブランには大して悲壮感は見られなかった。
「ぱしさま、と一緒! ろんと、一緒! たのしい、です」
ルシフェルに呪いをかけられたあの日から、モンブランはさらに人間の言葉が話せるようになっている。
確かにアーサー王のいう通り、この姿のモンブランもまたモンブランなのである。
パーシヴァルの愛したずんぐりむっくり移動式巨大要塞のモンブランの姿は必ずや取り戻して見せると心に誓う一方で、「人間」の姿で生活する準備もしてやらねばならないと思い至るパーシヴァルだった。
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