運命の出会い、再び
体重は5トン。
巨大な岩。歩く要塞。鎧竜とも言われた最強の草食恐竜が空を飛んでいる。
―――と言っても厳密に言えば空を飛んでいるわけではなく、村にある教会の屋根からパーシヴァルの危機を察して飛び降りたのであった。
ドスーーーーン!!!!!!!!
それが目の前に着地したときには地鳴りがした。
硬くなった皮膚には骨の牙のようなスパイクが並び、背中全体を強固な鱗が覆う。尾には巨大な骨の塊がついたハンマー。たとえ肉食恐竜であろうとも、これにやられたら骨が粉砕されること必至だ。
パーシヴァルはその後ろ姿を見守っていた。
見間違えるはずはない。
だが、またこの時代に彼女に会えたこともにわかには信じられない。
「隊長! この大きな亀みたいな……恐竜、も捕獲しますか……!?」
おそるおそる聞いてきた隊員には小さく首を振った。
「大丈夫。この子は仲間だ」
「ギュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
モンブランは咆哮し、目の前のティラノサウルスと対峙した。
「ぱーし! みつけた! こんど、こそ まもる!」
モンブランの体は傷だらけだった。
おそらく、モンブランを見て化け物だと驚いた村人に石を投げられたりしたのだろう。
パーシヴァルは早くこの手でモンブランを抱きしめてやりたかった。
が、まずはティラノサウルスを退治するのが先だ。
「モンブラン! 俺とロンが魔力で援護する! 君は思いっきりティラノに突っ込むんだ」
「ぎゅわわーっ!!」
短い4本の足で、モンブランはティラノに全力で駆けていく。
ティラノはその動きが遅いとばかりに口を大きく開いた。最強の牙をお見舞いするつもりのようだ。
パーシヴァルが詠唱をはじめた。
「求めるは他者に付する剣となる力。顕現せよ、この一瞬にて構わぬ、ただ敵を屠るために。―――Penetrating sword dance(貫く剣の舞い)!!!」
パーシヴァルとロンゴミニアドに光が満ちる。走り出したパーシヴァルは、モンブランの背に飛び乗った。
パーシヴァルの光がモンブランの全身に伝っていく。
すると、モンブランの体がふわりと浮き出した。
空を駆けさらに加速するモンブラン。さすがにアンキロサウルスの全身はティラノの口には入りきらない。戸惑うティラノの顔面に向かって、モンブランは光を帯びたボール状になってぶつかっていった。
「くらえ!!アンキロボール!!!!!」
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
スパイク状の巨大なアンキロボールに体当たりされ、悲鳴を上げるティラノサウルス。
モンブランの背に生えた尖った骨がティラノの顔面に突き刺さった。
さらに、モンブランが体当たりするタイミングでジャンプしたパーシヴァルが、魔力を帯びたロンゴミニアドをとどめとばかりにその額に深々と刺した。
「裁きを受けよ! Indra's thunder(インドラの一撃)!!」
額に刺さったロンゴミニアドに強烈な雷が落ちる。周囲の者の耳が麻痺してしまうほど、その音は壮絶だった。
アンキロサウルスに体当たりされ、額に槍を刺され、最後に強力な落雷によって感電したティラノサウルス。横に倒れるとそのまま動かなくなった。
「なんと……。最強の恐竜すら倒すというのか、円卓の騎士パーシヴァルよ」
戦いの一部始終を見守っていたルシフェルは、ローブの裾を口元にあてながらぼそぼそと呟く。
「見たかルシフェル、最強の恐竜はティラノサウルスだけではないということだ!」
パーシヴァルが胸を張って答えると、その横にモンブランがやってきて尻尾をぶんぶんと振り回した。
「ぱーし、つよい。もんぶらんも、つよい!」
そういうとモンブランは頬をパーシヴァルにすり寄せた。
パーシヴァルは硬い頭を撫でながらモンブランの顔を覗き込む。
「………また、会えたな。モンブラン」
今生の別れだと思っていたのに、まさかこの時代で再び会うことになるとは思わなかった。
しかも再び、パーシヴァルは彼女に助けられたのだ。
原始時代と、現代と。
聖槍の使い手であり、現代最強と言われる聖騎士パーシヴァルを二度も窮地から救ったのは、後にも先にもモンブランしかいない。
総重量5トンの跳ねっかえり娘は、出会ったころと変わらない真っ黒な瞳を輝かせながら、上目遣いでパーシヴァルを見た。
「ぱーし、ぱーし」
一度は手放そうとした。
だが、こんなに可愛らしい存在を遠くにやるなど、
パーシヴァルには不可能なことだった。
「モンブラン……」
「くくく、なるほど、最強の草食恐竜アンキロサウルスか……」
再び聞こえたルシフェルの声にハッとする。魔族魔導士の手に握られた杖が今まさに高らかに掲げられた。
「だが私の呪いの前では赤子同然よ。お前もこの村の住人同様、か弱き生物となりて魔王様の供物となるがよい!」
ルシフェルの杖の先端に暗い光が宿る。
杖が振られた瞬間に、その光がモンブランの体を包み込んだ。
「ぎゅ~~~~っ!?!?」
「モンブラン!!!!!」
(よせパーシー!! 今近づくとお前も巻き込まれるぞ)
モンブランの体にまとわりつくように膨張した黒い光は、草食恐竜の体内に吸収されるとともに溶けていく。
魔術の光が完全に消え去ると、あたりには再び霧と静寂に包まれた。
その頃にはルシフェルとティラノサウルスの姿もなくなっていた。
魔術をかけた機に乗じて撤退したようだった。
とどめを刺すことができなかった悔しさに表情が険しくなるパーシヴァルだったが、村にかかった霧が晴れていくにつれて露わになったモンブランの姿に絶句することになる。
読んでいただきありがとうございます!
いいねやポイント評価をしていただけると次話を書く励みになりますので、気が向いたらぜひよろしくお願いします。




