園長先生不在の動物の村
パーシヴァルは城の中庭で素振りをしていた。
傷が癒え、医師から「体を動かしてもよい」という許可が出た。今はなまってしまった体を元に戻すべくリハビリを続けている。
まだパーシヴァルが原始時代にいたころ、hot springに突如現れたマーリンが話していた「魔王の復活」。ここ最近はそれが徐々に現実の脅威となり始めている。
魔族が再び姿を現し、人里を襲うようになっていた。
まだ数は多くはないが、魔族による被害の報告は続々と城に届くようになった。
アーサー王はそのたびに騎士を派遣して村や町の保護にあたらせている。とはいえ、これが増えていくようであれば手に負えなくなる。
パーシヴァルも城でぼんやりしている暇はないのだ。
早く体力と魔力を万全にして、魔族との戦いに参加しなければ。
素振りを終えて腕立て伏せ1万回を開始しようとしたときに、「パーシヴァルさまー」と声をかけられた。
見れば、血まみれのボールスが笑顔で駆け寄ってくる。
一見するとサイコパス感があるが、おそらく魔族との戦いから帰還したのであろう。血まみれなのは甲冑だけであり、全て返り血である。
ボールスは声も小さくもじもじしているが円卓に座ることを許された騎士であり、実力は本物だ。下等魔族が集まったところで彼にしてみれば余裕だったろう。
「ボールス。魔族征伐から帰還したのか」
「はい。なんとか無事任務を達成いたしました」
「偉いぞ。だが血を拭かずに入城するのは控えたほうがいい。俺や王は慣れているから構わないが、普通の人から見たらヤバいやつが来たと思われるからな」
ボールスはえへへと照れ笑いした。
すると甲冑の隙間から、小さなネズミが現れた。
「む、ネズミか?」
「ああ、そうなんですよ。ちょっと今回の任務が変わっていたのでぜひパーシヴァル様にお話したくて」
それで血を拭うのを忘れてしまいました、と舌を出した。
その結果が血だらけの騎士とキャメロット城の廊下に点々と続く血痕だ。後で清掃担当の人間にこてんぱんに怒られるに違いない。
ボールスはそんなことには思いも至らないようで、出てきたネズミを手にのっけている。
「陛下から言い渡された今回の任務は、北東にある山間部の村にすごく大きな化け物が現れたからそれを討伐してほしいというものでした」
「化け物?」
魔族ではないのか。
「おそらく魔道に精通した魔族が召喚した召喚獣だと思います。目撃された化け物は1体だけだというので、私の部隊だけで討伐に向かったのですが……」
「どうかしたのか」
ボールスが言い淀んだタイミングで、今度は腿当ての隙間からリスが出てきた。
「なんだ、また動物か!?」
驚くパーシヴァルに、ボールスが困り眉で告げる。
「実はその村には誰もいなかったんです」
「何?」
「向かった村には人間が一人もいませんでした。代わりにいたのはネズミやリス、ウマ、ウシやイノシシ……。動物ばかりでした。ははは、帰ってくる際に僕についてきちゃった子もいたみたいで」
ついにはボールスの後ろからはポニーまで出てきた。
「懐いているのかな? かわいいな~~~城で飼えませんかね」
「馬鹿者」
ボールスの頭を後ろから杖で叩いたのは魔術師マーリンだった。
「いて! マーリン様……突然現れないでくださいよ……」
「お前は本当に円卓の騎士か? そいつらがただの動物のわけがあるまい。これは魔族に魔法をかけられた村人だ」
「えっ!? この子たちが!?!? 嘘!!!」
ボールスはすごく驚いていた。
パーシヴァルはなんとなく気付いていたが、ボールスの後ろに立っていたマーリンが目に殺意をたたえてものすごい形相で睨んでいたので何もコメントをしなかったのだ。
マーリンが杖をひと振りすると、ネズミはおさげの少女になった。
「わーん、こわかったよー!」
パーシヴァルは少女と目線を合わせるようにしゃがみ、その頭を撫でた。
「ここまでよく頑張ったな。あとは私たちに任せない。村は必ず元通りにするからな」
「騎士さま~~~~」
少女はパーシヴァルの胸で泣きじゃくった。
さらにマーリンが杖をふるたびに、リスやウマ、イノシシも村人の姿を取り戻していった。
「あの、騎士様! 村人に魔法をかけた魔族は、村の北にある物資保管の塔に隠れているはずです」
ウマから戻った男性村人が言う。
パーシヴァルは力強く頷いた。
「ありがとう。その魔族、必ずや退治しようぞ」
「あと……あの、化け物なんですが」
「召喚獣か?」
「いえ、違うんです」
村人は見たことを思い出しながらポツポツと語りだした。
「最初、岩みたいにゴツゴツしていて背中に小さな角をたくさん生やした化け物が地面を揺らしながら歩いてきたので魔族なのかと思いました。それで村人が槍やこん棒で追い払おうとすると真ん丸くなって動かなくなってしまいました。
その後、本当の魔族がやってきて村人に次々と魔法をかけ始めたとき、その緑の生き物が動いて魔族を攻撃し始めました」
パーシヴァルの目が見開かれる。
話を聞くうちに額に汗が流れ、拳を力いっぱい握っていた。
「それでも魔族は村人へ魔法をかけることをやめないので、緑の大きな生き物はついに大きく立ち上がって村人の盾になってくれたのです」
パーシヴァルは村人の肩を掴んだ。
「その体が緑で大きくて角が生えてるずんぐりむっくりチャームポイント満載の生き物はどこに!?!?!?」
「それが……庇ってくれている間に私も逃げたのでその後どうなったのかは分かりません。ただ、その後また別の魔族に魔法をかけられ、結果的に村人の多くは動物になってしまいました……」
「お役に立てずすいません」と言う村人に対し、パーシヴァルは笑顔で首を振った。
「何をいうか。魔族が襲ってきたのだ、混乱するのは当然だろう。むしろ、人々を守るはずの我ら騎士団が何もできずすまなかった。君たちの村は必ず取り戻す」
力強く宣言したパーシヴァルは、ボールスの頭をむんずと掴む。
「ボールス、お前と私の部隊で行くぞ。まずは陛下に事の次第を報告しにいかなければならんな」
パーシヴァルの心は燃えていた。
モンブラン。お前を必ず見つけ出す。
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