毛深い魔術師の通告
パーシヴァルは腕組みをしている。
槍は屋内の柱に立てかけられている。
一人と一匹の見る先は、アンキロサウルスのモンブラン。
でかくなっている。
「おい……この前までアルマジロサイズじゃなかったか?」
(とは言っても恐竜だからな。そりゃ大きくなるだろ)
当初肉食恐竜から保護したときはパーシヴァルの両手に収まるサイズだった。
離れのhot spring付きパーシーズハウスを建てたとき、確かパーシヴァルの頭部くらいの大きさだった。
それが今はどうだ?
頭から尻尾まで、1パーシヴァル(※1パーシヴァル=パーシヴァル一人分の全長。約180センチメートル)くらいはある。
著しい成長である。
すっかり恐竜めいてきたモンブランは、チャームポイントのしっぽをフリフリしてはガリミムスを打ち倒し、でかい樹を切り倒しては食糧となる木の実を取ってくる優秀な狩人となった。
「ぎゅーわっ♡」
モンブランは仕事を終えると、パーシヴァルのほうを見上げて頭を撫でてもらうのを待つ。
「ふふ、モンブランはいつまでたっても甘えん坊だなあ。今日もたくさん食糧を見つけてくれてありがとうな」
パーシヴァルが優しい眼差しを向けてモンブランの頭を撫でる。
「ぎゅ~~~っ」と気持ちよさそうに目を細めるその様子はパーシヴァルの心も潤すのであった。
「もしや人間と恐竜の成長速度は違うのか?」
(というよりも、本来この時代の人間ではない俺たちとモンの時間経過が異なる可能性がある。俺たちにはあのクソ魔術師の魔法がかかっている状態だからな)
「だからロン! マーリン殿をクソ魔術師などと言うでないぞ!」
(あんな胡散臭いやつ俺は好かん)
――誰がクソ魔術師だ、ロンゴミニアド
パーシヴァルとロンは顔(※柄)を見合わせた。
「空からマーリン殿の声が……!?」
――ふふふ、久しいなパーシヴァル。hot springの洞穴に来たまえ
パーシヴァルたちが慌てて洞穴に行くと、マーリンがhot springに浸かっていた。
「くっ……。このhot springは効くな……!しんどかった腰痛が消えていくぞ」
天を仰ぎうっとりと喘ぐ魔術師マーリン。ウェーブした長髪と同様、ほどよくウェーブした胸毛が水面から覗いている。
モンブランは顔を赤らめて「ぎゅっ!」と言うとパーシヴァルの後ろに隠れてしまった。
パーシヴァル以外の殿方の裸には抵抗があるようだ。
「おお、パーシヴァル。君の後ろに隠れているのは恐竜だな」
「そうです。というかマーリン殿……! 突然この時代に来られたということは王国に何かあったのですか!?」
「いや。ヲチしてたらそこの槍が俺の悪口を言っていたからむかついたのと、このhot springに一度は入ってみたかったというだけだ」
(よし。マーリン。決着をつけてやる。表へ出ろ)
「ロンゴミニアド……たかが槍の分際で俺と互角に戦えると思うか」
「2人とも、喧嘩はやめなさい」
パーシヴァルがセイセイセイと双方を宥める。
「まあ、というのは冗談でな。原始ライフを満喫しているお前に通告を、と思ってな」
「……通告、とは?」
マーリンはザバア、とhot springから立ち上がった。
前も隠さず生まれたままの姿になった魔術師にモンブランは「ぎゅーーーーっ!」と声を上げて丸くなった。
「マーリン殿。恐竜と言えどもモンブランは女子。前を隠していただきたい」
「おお、そうだったか。失礼」
マーリンは手でマーリンのマーリンを隠した。
「どうもログレスの辺境で魔族の残党が戦の準備をしているらしい」
「なんですと!?」
パーシヴァルは瞠目した。
「今、円卓の騎士数名が調査に赴いている。単なる残党の集まりであれば捨て置けば良いが、どうも強大な闇の力がどこかから湧いている気配がある。魔王が復活する前触れかもしれん」
「そんな……! 確かに魔王は陛下と私たちで倒したはずなのに……!?」
「ああ。俺も二度と復活しないようにと魔術をかけたゆえ、そんなことは起こらないはずなのだが……。とにかく陛下も騎士たちもいろいろと調べているところだ。もし魔族との再戦ということになれば、貴殿の力も貸してもらうことになる」
パーシヴァルはその場で胸に手を当て、膝を折った。
「しかと承りました! そのときにはこの不肖パーシヴァル、忠誠を誓うアーサー王、そして人類のために全力を賭して戦いましょうぞ」
「ああ、頼む。そうなればこの時代ともおさらばになるからな。それまでに心残りのないようにしてほしい」
この時代と、別れる。
つまり、モンブランとも二度と会えないことになるのだ。
そんなのは改めて考えるまでもなく当然のことだったはずなのに、こうしてマーリンに言われるまでパーシヴァルは別れのことなどすっかり忘れていた。
パーシヴァルの後ろに隠れていたモンブランは首を傾げて「ぎゅ?」と鳴いている。
「パーシヴァル?」
急に黙り込んでしまったパーシヴァルを不審に思ったマーリンが再度その名を呼ぶ。
パーシヴァルはハッとした。
「――御意」
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