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ニンニン! 忍者の学園生活!

 これは、忍者の特に変哲の無い忍ばない毎日である。

 忍者。それは戦国の世の闇を駆け抜けた漆黒の隠密。


 彼らは戦場の暗闇を駆け抜け、時に殺し、時に盗み出し、雇われたものの利益のために行動を続けていた。


 そんな彼らも所詮ははかなき人の世の者。文明が進み、戦乱が去り、科学の光が闇を照らすようになったこの世界では、その立場を大きく変えざるをえなかった。


 だが、忍者は決してこの世から消えたわけではない。


 たとえ平和な時代が訪れようと、核の炎がうなりを上げようと、悪の組織ダークアンダーなる秘密結社が平和を揺るがそうとも、決して消えないものは存在する。


 忍者もまた、その一つだ。


 今日は、そんな忍びの一人の様子をご紹介しよう。











 現在高校二年生である服部(はっとり)しのぶは、名前から予想ができそうだが忍者である。


「拙者、一般人でござるよ?」


 本人はこう言っているが忍者である。


 普通に考えればわかると思うが忍者である。


 ・・・実際、学校でのあだ名は「ニンジャ」である。


 むしろ、何故忍者だとばれない自信があるのか聞いてみたいぐらい忍者である。


 そんなしのぶの朝は非常に速い。


 朝起きたらすぐに目覚めて準備体操。


 その後42・195キロマラソンをドリンク片手に完走し、シャワーを浴びてから朝食をとる。


 ちなみに朝食は大概和食である。


 そんな彼は忍者なだけあり卓越した身体能力を持っている。


 あ、登校途中、木に引っかかった風船と、それを見上げて泣きべそをかいている少女の姿をしのぶは発見した。


「えーん!」


「仕方ないでござるな」


 しのぶはそれを少し見ていたが、すぐに行動に映る。


「・・・ほっと!」


 その場でジャンプして、木の枝から風船を取りながら着地した。


 ちなみに、彼の居た場所から木までの距離は5メートルぐらい離れている。


 ついでに言うと、通学路なだけあり、そこを通っている生徒の数は計り知れない。


 ああ、女の子もあまりの荒技に茫然としてしまっている。


「ほら、手を離してはいかんでござるよ」


「う、うん・・・」


 その手に風船を握らせ、しのぶは満足そうに満面の笑顔を浮かべる。


 とたんに鳴り響くは拍手の嵐。


 当然だろう。何人もの学生が歩いている通学路のど真ん中で、オリンピック選手も真っ青な大ジャンプをこなしてしまえば、誰だって拍手をしたくなるというものだろう。


「すげえよ服部!」


「また服部がやらかしたぞ!」


「さすがニンジャ!」


「ニンジャスゴイデース! 服部スゴイデース!」


「服部君素敵!」


「また服部がニンジャやってるよ」


「服部はやっぱりニンジャだよな」


「見たか? またニンジャの奴がニンジャやりやがったぞ」


「みたみた。さすがはニンジャだよな」


 学友たちからも絶賛されている。


 そしてやっぱり忍者である。


 それにあわてるのはしのぶである。


 彼は忍者であることを隠しているつもりなのだ。


「ち、違うでござるよ! 拙者ただの一般人でござるよ!」


 一般人はそんな大ジャンプを軽々とこなしたりはしない。


 彼は一般人というものに対する認識が大きく間違っているのではないだろうか?


「い、い、一般人でござるよぉおおおおおおお!!」


 周囲の視線に耐えきれなくなり、しのぶは全力で通学路を疾走する。


 だが、通学路とはいえ車道や横断歩道もキチンと存在するのが現代というもの。


 そんなところを前も見ずに突っ走っていれば・・・


「うわぁああああああっ!!」


 ドカン!


 車にはね飛ばされるというものである。


 急な飛び出しには運転手も全く反応できず、そのまま激しく回転して地面にたたきつけられる-


「あ、あぶなかったでござる」


 -変わり身の丸太。


 くれぐれも勘違いしてはいけないので念のために書いておく程度の内容ではあるが、一般人は車にはね飛ばされそうになっても変わり身の術など使用したりはしないのである。


 やはり、彼は一般人というものをいっさいがっさい理解できてないのである。











 昼。学生にとって一種の争いの時間においても、服部しのぶはいつも通りである。


 つまり、忍者であるということをまったく忍べて居ないのである。


「今日はカツサンドの日でござるよ!」


 高校生にとって人気のパンといえばカツサンド。


 当然のごとく、しのぶもカツサンドが大好きである。


 そして、当然のごとくそういったものは皆が殺到して奪い合う。


 だから忍も急いで購買に向かおうとし


「では先に行ってるでござるよ小守」


「・・・いい加減慣れたけど、お前それおかしいぞ服部」


 クラスメイトに挨拶して、窓から地面に飛び降りた。


 ちなみに説明すると、しのぶの教室は四階である。


 そんな普通は死んでもおかしくない高さをあっさりと飛び降りて着地した忍は、全力で購買に向かって走る。


 しかし、四階という地理的不利はそれでも覆すことはできず、購買の前は人だかりでいっぱいになっていた。


「おばちゃん! 焼きそばパン一つ!」


「サンドイッチくれ!」


「通れないんだよ! どけお前ら!」


「邪魔よ男子! レディファーストでしょ!!」


 そこは戦場だった。


 だが、しのぶは一切物おじしない。


 なぜなら彼は、忍者なのだから。


「ござる・・・ござるよ!」


 人ごみの中を縄抜けの要領で関節を外しながらすり抜けるしのぶ。


 彼は人間の群れという物量をことごとくいなし、あっさりとカウンターまでたどり着いたのだ。


 これが忍者!


 これが現代に生きる忍の力!


「カツサンド一つ!」


「あ、今売り切れたところだよ」


 ・・・だが、忍者の力をもってしても、出来ないことはこの世にたくさん存在するのだ。











 放課後、それは学生にとって自由の時間。


 忍者であるしのぶも学生の一人。当然自由な時間を満喫しているのだ。


「ニンニンニンニン♫」


 鼻歌を歌いながら帰りの通学路を歩くしのぶ。


 途中コンビニによって週刊誌を立ち読みしてからおかしを買うところなど、まさに彼が見せかけたいと願う一般人のそれであった。


 普段からこういう行動だけ取っていればいいものの、それができない彼はやはり一般人には成りきれないということなのだろう。


 これが現代の忍びの悲劇!


 里に隠れ住んでいれば良かった昔と違い、現代では町に住んで溶け込まねばならぬが故の悲劇!


 忍者で居続けることはとても難しい世の中なのだ!


 だが、忍べていると思い込んでいるしのぶにとってそれは意味のない話。


 おかしを歩き食いしながら、彼は町を散策して暇を潰していた。


 今日も平和に日常は終わり、服部しのぶの一日は終わろうとして―


「オイ見ろ! 銀行強盗だぞ!!」


「マジかよ? やっべえなオイ!!」


―面倒なタイミングで騒ぎが発生した。


 とはいえ、しのぶがそこまで動くことのことでもない。


 たいていの銀行強盗は警察がちゃんと解決するし、仮にも忍んでいるつもりのしのぶが、警察すらいる状況下で派手に動くわけにはいかないとしのぶ自身は考えている。


 ・・・ならなんで幼女は助けたと言いたいが、しのぶにとってはそれは問題ないようである。


「物騒な一日でござるね。拙者も銀行に行く時は気をつけなければいかんでござるよ」


 そう言いながらちょっとだけ野次馬根性を発揮したしのぶは銀行を見て―


「うぇえええええええええん!!」


―今朝の子供を、見た。


 泣いている、その子を、見た。


「・・・・・・・・・」


 繰り返して言うが、服部しのぶは忍者である。


 忍者とは、刃の下に心を宿す者と書く。










 警察が包囲すらしている銀行の中で、銀行強盗の一人が外を睨んでいた。


「クソッ! もうちょっと早けりゃ逃げだせたのによぉ」


 計画通りなら、今頃はダミーの車を乗り捨てて逃走ルートを走っているはずだった。


 世の中そんなに上手くいくわけがないのが普通なのではあるが、それが分かるようなら銀行強盗などというようなリスクが高すぎる犯罪など犯さない。


 男はなぜこうなったのか理解できず、ストレスを感じて腹に手を当て―


「・・・火遁の術」


 全身を炎で包まれた。


「ひ、ひぎゃああああああああ!?」


 炎に包まれたのは一瞬だったが、あまりの出来事に男はパニックになり、そのまま窓から転落した。


「・・・まずは一人でござる」










「水遁の術」


「ぐぼげぼがぼ!?」










「雷遁の術」


「あばばばばばばばば!?」










 銀行強盗達の本体ともいえるメンバーは、人質を壁にしながら銀行の受付のあたりでたむろっていた。


 人質という絶対の防御がある以上、そう簡単に襲撃されることはない。


 だが、男たちの表情は険しかった。


「オイ! どうした! おい!?」


「兄貴、やべえよ。シゲのやつ二階から落ちて救急車で運ばれてったって・・・」


「なんでこんなときにそんなバカな真似すんだよ! おっかしいだろ!?」


「大変だ! ヤスの奴が階段でずぶぬれになって白目剥いている!?」


「どこでだよ!? スプリンクラーなんてあそこにあったか!?」


「ケンの奴が黒焦げになって痙攣してるぞ!? 全身からバチバチ言ってる!?」


「なんでだぁあああああ!?」


 狼狽する銀号強盗達だが、すでに彼らの命運は尽きていたといってもいい。


「「「「「「「「「「……祇園精舎の鐘の声、所業無常のなんとやら」」」」」」」」」」


「な、なんだ!?」


 突如周囲から同じ声が聞こえるという事態に、強盗達はとっさに銃火器を構える。


 ……そして、全く同じ格好の少年が刀と手裏剣を構えて包囲するという、軽い悪夢じみた光景を目にして固まった。


「「「「「「「「「「分身殺法、地獄百人叩き!」」」」」」」」」」」


「「「「ぎゃぁあああああ!?」」」」


 人数でも戦闘能力でも圧倒的な差を付けられた強盗達に、太刀打ちする余地などかけらも存在しなかった。









「警部! またニンジャがニンポーで悪を成敗してますけど、良いんですか?」


「……まぁいいだろ。あいつ一応加減はしてるし、ボコった直後にシノビ秘伝の薬で応急処置もしてるしな」


「この街で派手な犯罪するなんて馬鹿なやつめ。ニンジャ服部を敵に回すとろくなことにならないといううのに」


 すでに警察たちもなんか全部わかっていたが、それとなくスルーされている。


 そして分身たちによって拘束を解放された人質たちは、警察官たちに保護される。


 そのうち小さな子供たちに、お菓子が渡されていたのは警察は関係ない。







「うぅ、お小遣いが半分になってしまったでござる……」


 街の屋根を走りながら、服部は涙を呑む。


 お小遣いがごっそり減ったことは悲しいが、後悔だけはしていない。


 刃の下に心を隠すのが忍び。なればこそ、心を秘めることはあっても心をないがしろにはしない。


「ただいまでござるー! 晩御飯はなんでござるか?」


「今日は鮭の西京焼きでござるわよー!」


「やっほうでござる! 母上大好きでござるぞー!」


 そんな感じで和気あいあいとした雰囲気を見せる家を見て、近所の人たちはほっこりしながらほほえましい顔を見せるのであった。


「ほんと、服部さんちはニンジャだなぁ」









完結

 うん、ぶっちゃけ平凡ですね。


 思い付きだけで書くのもあれだと痛感です。

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