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表と裏騒動記  作者: 美祢林太郎
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3 正体暴露の予告

3 正体暴露の予告

  

 「あんたの正体知ってるよ」


 白鳥の書き込みのスレッドに今まで見たこともなかった奴が、突如として入り込んできた。そいつは矢継ぎ早に書き込んできた。


「名前がわからないからといって、こんなに悪口雑言を吐けるなんてさぞかし卑劣な奴なんだろうね」

「鬱憤ばらしなのか」

「弱い者いじめをしてそんなに楽しいか」

「野次馬のくせに偉そうにするんじゃない」

「しょせん匿名の群れの一人だ」

「おまえの汚い言葉に何人の人間が傷ついたと思ってんだ」

「何人が引きこもりになったと思ってんだ」

「何人の人間が自殺したんだ」

「おまえは卑劣漢だ」

「おまえは偽善者だ」

「ジキル博士とハイド氏を演じているんだろう」

「あんたは二重人格者だ」

「これほど裏と表のある人間もそうはいないよな」

「みんな、こいつの職業を知っているか?」


 まあ、この程度の攻撃は初心者だな。白鳥は薄ら笑いを浮かべて余裕をぶちかました。ただ、当たり前のことが書き連ねてあったからだ。こんなことは相手の正体を知らなくても誰でも書けることだ。ただ挑発しているだけだ。そもそも、どんなに粋がっていても、こんな見え透いた馬鹿な書き込みをしたら、おまえも俺と同類の卑劣な奴に過ぎないと白鳥は思った。

 数日、こいつに追従したお調子者の馬鹿の書き込みがいくつも見られたが、当人からの書き込みはみられなかった。これ以上の言葉を持ち合わせていなかったのだろう。

 3日経ってそいつの書き込みがあった。


「そのうちみんなの前で正体を暴いてあげます」

「近いうちにあなたの住所と氏名、アドレス、電話番号を一挙に公開します。乞うご期待」

「最初に勤務先を公開します。これが明らかになったら、今のまま勤められなくなるでしょうね。「ざまあみろ」と言っていいですか」

「天罰ですよ」

「ばちがあたったんですよ」

「顔を隠して人を攻撃するのは卑怯者だと思いませんか。私はそのように教育を受けましたよ」

「あなたは弱い者いじめをするな、と学校の先生から習いませんでしたか。弱い者いじめは卑怯者のすることですよ」


 こいつも俺と同じ類の糞人間じゃないか。糞人間が糞人間を攻撃する。何か笑っちゃうよな。まあ、世の中すべてこんなものか。

 この書き込みをはやし立てるように、他のどうでもいい人間から書き込みが繰り返された。


「暴露、暴露、暴露」

「早く、早く、早く」

「楽しみ、楽しみ、楽しみ」


 こいつらみんな匿名ではしゃぎまくりやがって、俺と同じ穴のむじなのくせに、完全に他人事なのだ。なんて楽天的なのだ。きっと脳みそが腐った豆腐でできているんだろう。まあ俺だってこいつらと同じことをしているけどな。だけど、俺は少なくとも自分が糞だって自覚はあるぜ。糞で何が悪いって開き直ってみせるけどな。ネットの中で匿名で・・・。猿芝居だ。笑ってくれよ。どうぞ笑ってください。

 こんな陽動作戦に誰が引っかかるかよ。こんな書き込みを真に受ける馬鹿はどこにもいないよ。「あんたの正体知ってるよ」、こんなことは正体を知らなくったって書けるだろう。相手を不安にさせようとしているだけなんだろう。俺だってこんな書き込みをしたことは、過去に吐いて捨てる程あるからな。書き込みの初心者はともかく、俺たちプロフェッショナルには何の意味もないんだよ。そうさ、初心者の書き込みだろう。放っておけばいいだけだ。多分、おれに便乗して有名になりたい奴の仕業だな。いるんだよな、こんな奴が。その手に乗るか。こんな奴、勝手に泳がしておくだけだ。おまえを目立だたしてやるものか。

 以後、このスレッドには白鳥の正体に関するコメントは書き込まれなくなった。

 白鳥がいつものようにアパートでネットサーフィンをしていると、偶然あるサイトのコメント欄で次のような書き込みを見つけた。

「小峰中学に変態教師がいます。名前を近いうちにあげます。ケタ、ケタ、ケタ」

 小峰中学校に変態教師? これは俺のことか? 俺のネットの正体を知っていたら変態呼ばわりされても不思議ではない。これはあの正体暴きの奴と同じ奴か? ハンドルネームは違うが、ハンドルネームなんていくつでもこさえることはできる。でも、どうして前のスレッドでこのコメントを上げなかったんだ? わざわざ別のサイトにあげてくるなんて。俺が見ないかもしれなかっただろう。それじゃあ、俺の脅しにならないじゃないか。それにしても、本当に俺の正体を知っているんだったら、すぐにでも俺の名前を暴露すればいいじゃないか。それをしないところを見ると、まだ俺にまで行きついていないのかな。でも、小峰中学校までわかっているんだから、当然俺の名前を知っていると踏んだ方がいいだろう。いずれにしてもこちらから尻尾を出すことはしない方がいいな。しばらく様子をみることにしよう。浮足立って自ら墓穴を掘るんじゃない。

 これを白鳥は自分への挑戦状だと思ったが、彼が当初予想もしなかった反応が学校中に広がった。ある生徒がこのネットの中の投稿を見つけて、この情報はLINEで全校生徒の間に急速に拡大し共有されて行った。

 この投書をしたのは誰だろうという点には、ほとんど誰の興味も向かわなかった。変態教員はいったい誰だろう、ということに興味は収斂した。だが、白鳥だけは違っていた。書き込んだ奴はいったい誰だろう。同僚の教員か? 生徒か? はたまたPTAか? 大学時代や商社時代の知人にこんな書き込みをする奴はいるか? 俺がネットモンスターであることをつきとめた奴がどこかにいるのか? 俺は誰にも自分がネットモンスターであることを話したことはない。

 俺がインターネットカフェに入っていくところを見た奴がいるのか? ネットカフェくらい入ったっていいだろう。俺なんかに興味を持っている奴は、いったい何者だ? 俺はまだいい子でいよう。挙動が不審になって、自分から尻尾を掴まれる必要はない。誰も俺が炎上キングのTレックスだってわかっていないかもしれないからな。俺は尻尾を掴まれるようなドジを踏んだか? そんなことは何もしていないはずだ。当初は自宅で書き込みをやっていたけれど、IPアドレスが見つかるとやばいので、今は書き込みはインターネットカフェでやっている。しかも、いざという時のために曜日はランダムに設定している。当初自宅で書き込んだものはその後で全部上書きをした上で消去している。どこからも俺の痕跡は見つからないはずだ。自宅では俺の書き込みに対する反応を見ているだけだ。

 時として、俺に対して過剰な反応があった場合、急いでインターネットカフェに行って、反論して叩き潰してしまう。そうした挑発に乗ってしまうのが俺の悪い癖だ。普段は冷静なのに、もっと冷静にならなければならないのに、つい乗せられると熱くなってしまう。なるべく冷静にいるようにしているのだけれど。そうか、俺を挑発して反論を書くように仕向けて、アパートの外で待ってネットカフェまで尾行したんだ。それを何度か繰り返したんだ。そうすればおれがTレックスだということがわかる。なんて狡猾な奴なんだ。

 犯人を見つけ出したからと言って、俺はそいつにどう対処すればいいんだ? もう二度とあんな書き込みはしないから、俺の名前だけは外に漏らさないでくれと懇願するのか? お金を渡して不問にしてもらうのか? それとも暴力に訴えて黙らせるのか? ネットで反撃するのか? 相手の弱みを見つけて逆に脅すか? そうしたことも相手次第じゃないか。

 俺は同僚たちをそれとなく観察したが、普段と変わらずに接してくる。彼らの中に俺の告発者はいないように思える。しかし、俺だってモンスターには見えないのだから、善良そうな教員の中にも意外と俺と同じようなモンスターが潜んでいるのかもしれない。教員たちの間で、「仲間内に誰か変態教員がいるのだろうか」、という会話が密かに交わされるようになっていった。こうしてひそひそ話をするようになるとみんな怪しく見えてくる。

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