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第8話 霧の中から奇怪なものがやってくる

「くそ!やられた!」


朝、目が覚めたら俺は霧深い森にいた。横には着替えと朝食が置いてあった。置き手紙のようなものはない。


これは間違いなく父の仕業である。俺の眠りを妨げずに行われた陰湿極まりない行為に開いた口が塞がらない。


昨晩俺は自分の寝室に誰も入ってこられぬよう、護衛や侍従を追い出し、厳重に鍵をかけ、木の板などで打ち付けた後あまたのトラップを配置して、昔兄の部屋に仕掛けたちょっとした細工を起動させて就寝したはずだった。


しかし、抵抗むなしく俺は連れ去られてしまったようだ。


今までのことを顧みるに、この森は指輪が納められている森だろう。イオリの姿は見当たらないが、無事抵抗して森に行くことを回避できたのだろうか。


ひとまず着替え、朝食を食べることにする。

俺は自分で自分の面倒を見られる王子なので、この程度朝飯前なのだ。


体育座りしてモシャモシャとパンを食べていると、背後から物音がした。

振り返ると、


「あなた何やってるの」


「パン食べてる」


「それは見ればわかるわよ」


イオリだった。結局こいつもダメだったのか。

彼女は俺が着替えた後几帳面に折りたたんでおいた寝間着を見て、はあと溜息をつくと斜め左前に腰を下ろした。


「さっき目が覚めたらここにいて、横には着替えと朝食があったんだ」


「さすが能天気で寝つきの早い健康優良児は、眠りの深さも違うのね」


「失礼なやつめ。それでお前は何でここにいるんだ?」


「縄で引きずられてきたわ」


「なにか犯罪でも犯したのか。……あ、校舎全壊の犯人だったな。痛っ」


額に球投げつけてきやがった。

それにしても、こいつが取っ捕まるとは。一体どんな実力者が相手だったんだろうか。

そのことを尋ねるとイオリはものすごく微妙な顔をした。

……これ以上は聞かないでおこう。

俺がパンを食べ終えるのをまってから、イオリは喋った。


「この森、すごい霧ね。どっちに行けば指輪がある場所かわかるの?そもそもどんなところに指輪置いてるのよ」


「俺は昔から、行けばわかる、としか聞いてない」


「は?」


ナチュラルにブチ切れてきてこの子怖い。


「まあまあ落ち着け、誰か誘導してくれるってことじゃないか?」


「森の番人みたいな?」


「そうそう」


俺たちが話していると霧が一段と深くなってきた。

俺の右肩がツンツンとつつかれる。


「おいなんだよ」


「何よ」


斜め左方向にイオリはいる。……あれ?


「今お前、俺の右肩つつかなかったか?」


「なんで私がそんなことしなきゃいけないの」


さらにツンツンつつかれる。……右肩が。

ゆっくりと右を向くとそこには、


「藁人形……?」


「どうしたの?」


藁でできた簡素な人形が落ちていたのである。それ以外には特に変わったものはない。人も動物もいない。


「何これ」


俺の右側に落ちている藁人形に気がついたイオリはまじまじとそれを見つめた。


「言っておくけど俺のじゃないぞ?」


「ええ、あなたは人を呪うのにこんな代物には頼らないものね」


そもそも俺は善良で心優しく穏やかで繊細な人間なので人は呪わない。勘違いしないでほしい。


「さっきまではこんなものはなかったはずなんだけど。一応目が覚めた時に何があるか確認したわけだし」


目が覚めた時点で、服の中に何か仕込まれていないかなども確認済みである。小さいころ、イオリが着替えの中にフレッシュな魚を仕込んででいて、それを気がつかずに来た俺はぬめぬめした感覚でたいそう酷い目にあったこともあったのだ。


「とりあえず拾っておきましょう、私が使うかもしれないから」


「一体何に使うんだ」


イオリは移動して藁人形に触れようとした。しかし、藁人形はその手をするりと避けた。


「俺もお前も風魔法使ってないよな」


「……そもそも魔法が使われた気配がなかったわ」


えええ、こわ……。


今度は俺が掴もうと手を伸ばす。

しかし、藁人形は意外にも俊敏に立ち上がって避けた。


「最近の藁人形って自動で二足歩行するんだな。知らなかった」


「いやそうじゃないでしょ。どうなってるのよこれ」


藁人形は俺たちに背を向けると走り出した。


「とりあえず追いかけるぞ!」


「っ!ええ!」


無駄に俊敏な藁人形を追跡すべく俺たちは立ち上がった。

森の中であるため足場は悪いし、霧の影響で視界は不良。

しかし、霧の中でも藁人形は不思議としっかり見える。


左へ行ったり右へ行ったりとふらふら逃げられて、少し追いついても避けられてしまう。

俺は文化系なのであんまり走って追いかけたくないな。

……そうだ!


「イオリ、お前は先回りしてくれ!挟み撃ちにしよう!」


「わかったわ!」


イオリは右回りでぐるっと走って行った。俺はそこそこのスピードで藁人形を追いかけよう。やれやれ。


藁人形は突然目の前に現れたイオリにビクッとなり、後ろに方向転換してきた。しかしその方向には俺がいる。


「ふふふ……、もう逃げられないぞ」


藁人形は動きを止めてキョロキョロとした動作をした気がした。


そして俺とイオリが地面を蹴ってとびかかり、藁人形に触ったと思った瞬間、


『二名様のおな~り~』


とどこからともなく声がしたかと思うと、突如地面にぽっかりと穴が開いた。


「「え」」


とびかかった後の着地をする地面はなく、そのまま穴へと落下していってしまったのである。


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