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第6話 過去から憧憬はやってくる

清々しい朝だ。


先日、俺とイオリの婚約披露パーティーという名の魂が汚れる悪しき会合があった。しかしイオリの心の友であるキーラ嬢によって、それは完膚なきまでに破壊されたのである。こんなにうれしいことはない。


さて、兄が次の手を売ってくる前に先手必勝、こちらが先に動きたい。


そこで俺は後腐れのない彼女を作ることにした。


「というわけなんだイオリ。紹介してくれ。ついでにお前もどこかで彼氏を作ってきてくれ」


「そんな簡単にひょいひょい作れてたら、私たちはここまで苦労してないわ。大体あなた、女遊びの噂を流そうにも失敗してたじゃない。王族のスキャンダルなんて誰もが飛びつきそうなのに」


俺とイオリは定例会議を自室で行った。相変わらず彼女は窓からやってくる。鍵をかけ忘れてしまっている俺も俺だが。


イオリは窓枠に座って足をぶらぶらさせながら、俺の要望にケチをつけた。


「なんだよー、じゃあ他に案でもあるのかよー、言ってみろよー」


「ふて腐れないでよ、全く」


イオリはため息をついて、


「はぁ……、紹介すると言っても友人知人にあなたを押し付けるほど、私外道じゃないし」


「友人いるの?」


「は?」


「ごめんなさい」


幼馴染が怖い。


「紹介しても私が罪悪感を感じず、かつ、あなたにとっても後腐れのない、ってところがミソよね。……そうね、実在しない人間をあたかもいるように見せかけるとか」


「早くも無茶なことを。それで皆納得するのか?ちゃんと誰かと歩いているところを見られるとかした方が……」


ゴシップ記事を書かせるなら、もっと確実だと思わせる情報を拡散させるべきなんじゃないだろうか。


しかし、実在しない人間ねぇ。

強いていうならイオリとかキーラ嬢は、設定だけ並べたら、「この人ほんとに存在するの?」と疑ってしまう人間だと俺は思う。

だって、猛獣が令嬢に偽装しているわけだし。

そのとき、俺の脳裏をある人物が横切った。


「あ」


「また変なこと思いついたわね」


あきれた目で俺を見る彼女に、その人のことを話す。


「俺の学園時代の先輩に、昔女装して男を騙すことに精を出してた人がいるんだけど」


「どこから突っ込めばいいのよ」


「そういう感じで誰かに変装してもらって、相手役をやってもらえばいいんじゃないか?そうすれば、ある意味非実在性人間をつれていることになる」


「つまりあなたは、その先輩に彼女役をやってもらうということ?」


「いや、先輩はもう田舎に帰っちゃったからな。すぐに呼んで来られるのは難しい」


ある人物とは俺が学園に入学したとき、すでに最高学年であった先輩のことである。彼は村長の息子という立場の人間だったのだが、学業が非常に優秀だった。たぶん、そこだけならイオリにも勝るだろう。イオリも優秀で完璧超人と言えばそうなのだが、この優秀という度合いも、本当に飛び抜けて天才というのと、大多数の人間から見て天才では格が違う。その点、先輩は前者で、イオリは後者だ。


「じゃあ、あの従姉妹様にでもやってもらうの?」


イオリは寮の自室が近所だった、俺の従姉妹の公爵令嬢をあげた。


「あいつはそもそも捕まらないし無理だろう」


従姉妹は自由人なので、どこにいるのかわからない。ちゃんと公務してほしい。兄いわくちゃんとしているらしいけど、一体何をしているのかは全くもって不明であるから、やっていないのと同じだ。


「じゃあどうするのよ。……まさか」


「お前、ちょっと変装してくれ」


なんだかんだで一番融通の聞くのは、イオリしかしないと思う。

イオリが別人に変装すれば完璧だ。


「いや、それダメでしょうが。変装がばれたら、噂がこちらの忌避する方向に広まって、さらに結婚近づくわよ」


正論である。

ぐうの音もでない。


そこでイオリは先輩のことについて、興味を持ったのか、


「……ところで、その先輩ってどんな方?仲良かったの?」


と、聞いてきた。


「俺たちが第一学年の時、第五学年だった人な。そのとき知り合って、たまに手紙を手紙を送るくらいの仲」


懐かしいなと思い出を振り返っていると、大変失礼な物言いをされた。


「手紙という名の嫌がらせじゃなくって?」


「俺をなんだと思ってるんだ」


先輩とは、現在まで良好な関係を築けている。これで田舎に引っ込まなければ、最高だった。


「いやー、すごい優秀な人さ、学園飛び起きしたあげくに進学して、そこでも早期卒業したんだよ」


女装して男をたぶらかす活動をしていたものの、優秀な学生を集めた学園でもさらに頭ひとつ抜けていた。ちなみに女装は一回してみたら、案外自分もいけるじゃないかと思ったかららしい。本人が楽しいなら別に良いけど。なお、最近は封印しているんだとか。


「……ちょっと待って、早期卒業したってもしかして、え?あの人が??」


ある意味有名だから知ってたのか。

先輩は前述の通り学園を飛び級してさっさと卒業し、進学したあと何を専攻にするのかと思えば、ニッチな伝説たる『聖女伝説』を研究対象に定めたのである。このときの先輩の決断は今でも男子部において語り草だ。

魔法学など、次世代の技術に貢献することをするのかと思えば、本当かどうかもわからないものを調べ出すものだから、一部の教授陣はひっくり返ったらしい。


でも、好きなことをできるのはいいことだと思う。詐欺行為はどうかと思うけど。


俺は、独学・自習で学を身に付けられるほど、優秀でもなく。ただ、人間はどこから来たのかとか、学問的な好奇心はあったので、そういったことを勉強したかった。この世の中は意外とちぐはぐなので、世界の秘密があったら面白いな、なんて考えたりもしたのだ。しかし、昨今のクリーチャー事情により公務が忙しくなりそうで、自分の好きな勉強なんてしている暇はなくなってしまった。

ちょっとしんみりしていると、突然イオリが土魔法により生成した小さな玉を投げてきた。


「いてっ、なにすんだよ」


その玉は額に見事的中する。痛い。

しかしコイツはしれっとした顔で、


「別に」


と抜かしやがるのだ。


この後、いっそキーラ嬢に協力を要請すればと提案したがイオリの目がかつてないほど死んでしまったので、何も決まらずお開きとなったのであった。

ただ、俺が額にダメージを負っただけだった。解せぬ。


他人のことは煽るのに自分のことになるとウジウジし出す、めんどくさい主人公ですみません。

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