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第3話 上から国民は降ってくる

衝撃の婚約話が兄からもたらされて数日。


まず、兄が俺への嫌がらせとして打ち出してきたのは、俺とイオリの婚約披露パーティーだった。

昨今の情勢の都合であまり大々的にはできないのが唯一のうれしいポイントである。


ありがとう世界。ありがとう魔王。


だがしかし、魔王のせいで進学の道が閉ざされたり世の中の人々がひどい目にあったり、たぶん巡り巡って俺とイオリが婚約する羽目になったりしているので、魔王への感謝は取り下げることにした。おのれ魔王。

やっぱり感謝すべきは世界だ。生まれてきてよかった。ありがとう世界。ついでに生まれてきてくれてありがとう俺。




兄の動きに警戒態勢に入った俺はパーティーの情報は即日つかんでいた。

そのため、婚約破棄への第一歩として考えたこと。それは、


「婚約披露パーティーをめちゃくちゃにしよう」


「あなたのしそうなことよね」


俺たちは作戦を練るために再び集まっていた。今度は盗み聞きしている者がいないかをしっかりと確認してからの会話である。


「俺はおとなしい人間だからそんなことはしたことないぞ。だが、きっとお前がいつも通りに振る舞ってくれたら、それだけでめちゃくちゃにできる。期待してるぞ」


「は?」


すごくドスの聞いた声だった。怖い。

ステイだ、ステイ。


「落ち着け。お前は普段から充分おかしいが、そこにライバルを投入することでパーティー会場を爆心地にする性能がある」


魔法で槍を作り出して、無言で足を貫こうとしてきた。怖い。

一割冗談だったのに。物騒だなぁ。


「私としては、あなたが出席者全員に話しかけていつも通りに会話をするだけでも充分だと思ったわ。たぶん全員キレて暴れだすから」


「失敬な。そんなことにはならない」


この幼馴染は人のことをなんだと思っているのか。俺のような文化系で優しく誠実で繊細な人間が、そんな阿鼻叫喚の地獄絵図を作るわけないじゃないか。


「……別にライバルではないけれど、キーラ・ホーンボーンを招待するのは良い案ね。あの女、最近権力欲をますますもて余してるみたいだし、それなりに場を破壊してくれそう」


「なんて言ったって期待の新人だ。いくらこのご時世とはいえ、学園のクラスメートくらいなら全員招待客にしても問題ないだろうし、彼女が混じっていても不自然じゃない」


「一体どんな意味での期待の新人なの……ってやっぱり答えなくていいわ。大体予想はつくから」


キーラ・デオ・ホーンボーン男爵令嬢。彼女はイオリとたびたびトラブルを起こしてきたクラスメートである。イオリと共に旧校舎崩壊事件の犯人であり、ともに留年となった学生だ。

彼女はもともと一般市民として市井で暮らしていたのだが、男爵家の庶子として学園に編入してきたという経歴を持つ。かつてホーンボーン男爵と彼女の母親もとい当時男爵家に勤めていたメイドの身分差恋愛によりできた子供で、数年前感動の再会をしたらしい。遠くから見たことのある程度だが、保護欲がわく感じのかわいい子であった。

ふと思い出したのだが、この前ストレスのあまり城内の庭に水をまき散らしていたら、偶然城を訪れていたホーンボーン男爵にかかってしまったことがあった。そのあと、イオリの手によって城内の床に巻かれたカツラに足を取られて滑った挙句、ちょうど上から降ってきた小太りの中年商人と衝突してしまったらしい。国民は上から降ってくるのがブームなんだろうか。

ホーンボーン男爵令嬢について、イオリからは権力欲がこんこんと湧き上がっているだの、常時喧嘩越しだの、覇道爆走だの変なことしか聞かないので、きっと頭が残念なんだろう。しかし、成績は非常に優秀で、編入して以来ずっとイオリとトップの座を争ってきたらしい。うむ、間違いなくイオリの友達だ。


イオリは文武両道才色兼備にして超名門貴族という、スペックを箇条書きにすると大変な高嶺の花なので、みな近寄りがたいのか友達が少ない。しかもこの通り、本性は武力行使をすぐしてくる子なので仲良くする子も同等の戦力保持が求められる。


それを考慮すると、ホーンボーン男爵令嬢はコイツのお友達としてこの上ない人材なのだ。

完璧超人かと思いきや意外と不器用な幼馴染に生暖かい視線を向けていると、ナチュラルに殺気を飛ばしてきた。そういうとこだぞ。


「そういえば、クルト、あなたは私と婚約破棄した後どうするの?王太子殿下の、あなたが婚約するという話自体にはデメリットよりメリットの方が大きいと思うから私も賛成だし、早く次を固めておかないと、あの方なら再婚約にしかねないと思うのだけれど」


イオリの言うことももっともである。兄なら一回の破棄程度では諦めない気がする。あの人は面倒臭いのだ。なんかねちねちしている。


「まあ、その辺は生きていればなんとかなる」


死んだらそれで終わりだが、生きている限りなんとかなると俺は信じている。俺たちが抵抗を続けている間に、もしかしたら勇者が魔王を倒して世界が明るくなって「お前、これから自由に生きていいよ!」と、広い空に羽ばたいていけるかもしれない。なお、別に実際に空を飛びたいわけではない。

俺の言葉を聞いたイオリは、溜息とともにこう言った。


「あなたねぇ……。まっ、そういう能天気なところ、クルトらしいわ」


「俺が能天気とか、今までお前は何を見てきたんだ」


なぜか良い話風に語られたが、俺は騙されないぞ。


「何かはともかく、少なくともそれなりに長い期間、あなたのこと見てきたわよ」


「え?……もしかしてお前、ストーカーか?」


「やっぱりあんたとは結婚できないと確信したわ」


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