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大団円  作者: みすみいく
2/2

独歩

 登場人物達のあらゆる感情が集約される話になっています。彼等の思いが成就して、新たな一歩を踏み出す切っ掛けを創っています。

 過去に成ってしまった母の思いを息子が継いで、また、彼の後継が繋いでいく。

 

 母の墓参に出かける当日、喪服に身を包んだ俺は、父に呼ばれた。


 「お前を宿したままで、私に一言も言って寄こさなかったのは、母がお前や私を思わなかったと言う事では無い」


 「お前や私が、公家の責を負っているのと同じように、母もリント伯爵家の責を負っていたのだ」


 「母は己の責務を放り出すことが出来なかった。その事を半ばに倒れてしまった母に代わって、お前が継いでやりなさい」


 「公家の事は、その後で考えれば良い。分かるな?!」


 「はい」


 「それと…これを、手向けて来て欲しい」


 ネージュ・パルファン、パスカリ、サラトガ、ヴィルゴ、ノースフレグランス、アイスバーグ、サマー・スノー…ありとあらゆる白薔薇の名花を取り混ぜて、銀のリボンでとりまとめられたリースだった。


 白い大輪を取り巻くように、忘れな草の薄青が差し入れられていてとても美しい。


 墓標の両脇に手向ける為の大きな花束も用意されていて、全てを手向けると、白いドレスを纏った母がそこに居るようだった。


 初めて母の墓前にやって来た曾祖父は、車椅子の人だった。

 

 母、ロザリンドの乳母だった老クララが、曾祖父に事の顛末を話して聞かせた。


 俺と母が、母の死の直前に映したという写真に収まって居るのに見入って、言葉を無くしていた。


 涙に暮れる曾祖父に、クララが俺を引き合わせた。


 曾祖父の皺に埋もれた瞳に見詰められると、不思議な懐かしさに包まれたのをよく憶えている。


 「…なんと…よく似て居る。…失うた頃のロザリンドに…。わしは…何という愚かなことを…」


 かき抱くように、俺の諸手に、震える手で縋る曾祖父は、父を脅かしていた猛々しさは見て取れない。


 「…其方に後を託して、わしは表から身を引く事にしようぞ」


 「それが、我欲に目を眩ませたわしの…其方の父を見損のうて、其方から母を奪うた詫びと思うてくれ」


 「…それで、わしを赦してくれぬか?!」


 「曾お爺様」


 望陀の涙にくれていた曾祖父を、教会の一室に設えた茶会の席に招いて、茶菓をもてなし、改めて母の生前を語って聞かせると、曽祖父の拘りは綺麗に溶けてしまったように思えた。


 曾祖父を見送って、ケインが誘う車へと戻ると、曽祖父にも一目置かれた執事が、俺に微笑んだ。


 「良う御座いましたね。ご立派にお勤めで鼻が高う御座いました」


 「有難うケイン。褒めて貰ってほっとしたよ。でもさ、あれは無いんじゃ無いかな?!」


 公家を出るとき、託されたリースを抱えて車に乗り込み、車窓から振り返った。


 車寄せに立って見送っていた父の傍に、アレンが歩み寄り、何事か言うと、父が笑った様に見えた。


 何事か言葉を交わしたかと思うと、引き合うように口付けた。


 呆気にとられ…次いで、呆れた。


 息子が初めてひい爺さんに会いに行くんだぞ!気恥ずかしくて、少々赤くなって俯いた。


 フェンダーで気付いたのか、ケインが俺を振り返り、赤くなった原因に微笑んだ。


 「お館様は、坊ちゃまを愛しておいでです。お疑いに成りませんように」


 「…分かってるよ。ケイン」


 「リースを手渡した時の父様と落差が有り過ぎるよ」


 「でも御座いましょうが…僭越ながら、皆様にお仕えできることを、誇りに存じております」


 「お母様のご葬儀の前日、初めてお目に掛かったお可愛らしい坊ちゃまを、良く憶えておりますよ」


 しみじみと言われると、仕方が無い。

 これも孝行の内かも。

 お読み頂きありがとう御座いました!

 唐突に浮かんでくる場面を繋いでいくと、全ての物語が形になっていくのを不思議な気持ちで見てきました。

 話を書き続けて行く内に、一度は切るべきと思った場面が、繰り返し形を変えて蘇って来るのには驚きを隠せませんでした。

 次回、又別の話を持って伺いたく思っております。ではまた。

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