根源
蛇足かも
僕は佐伯育っていう本名で芸能活動をしていた。いや、させられていた。
昔から不思議なことが出来た。といっても物を浮かせることと霊視と、まあそれは後々。とにかくそれを目撃してしまった父さんは、お金になると考えてしまったらしい。怖がって出て行った母親を気にもとめないで事務所に僕を売り込んだ。
めでたく芸能界デビューした僕は育ててくれる父さんのために一生懸命自分のチカラを使い続けた。
五年経ったある時、ふと思った。僕と楽しく話してくれる人って居るのかな?と。僕と同い年の芸能人はみんな気味悪がって近づこうとしない。大人たちは笑顔だけど、目が笑ってない。父さんは僕を道具としか見てくれない。
「あー……僕は、いわゆるボッチってやつ?」
急に悲しくなってきた。めちゃくちゃ悲しくなってきた。何してるんだろう僕。
「よし!こんなに頑張ってきたんだ!ちょっと休んだってバチは当たらないだろう」
父さんに相談すると、めちゃくちゃ反対されたけど粘り強く説得したらしぶしぶ許してくれた。そのかわり、休業の理由付けのために遠くの有名な病院に入院しなくちゃいけなくなったけど。
そこからは早かった。某歌手をマネして浮いた物をゆっくり降ろして引退宣言したら、騒然としててちょっと焦った。
一ヶ月後、父さんの車でちょっと山に入った場所に在る病院に来た。
とてもイヤなモノの気配がした。でも、立ち止まる僕を父さんはなだめながら連れて行く。
受付を済ますと、父さんは帰って行った。ごつい二人組に明らかにおかしな物が佇んでいる階段を昇って一番奥の病室に入れられた。
「……やっぱり、そういうことだよなぁ」
僕は霊と交信できないはずなのに、明瞭に聞こえてくる怨嗟の声。空気が淀みすぎて真っ黒。
霊たち曰く、ここの院長兼外科医は所謂サイコパスというやつらしい。親がお偉いさんで、その権力を使って大量殺人を揉み消している。ちなみにバレない理由はワケありな奴ばかりターゲットにしているから。現場はもちろん一階の手術室。
「うわー………詰んだわぁ。父さ…あいつ息子を売りやがった」
さて、僕に残された道は二つ。一つ目は何もせず殺される。二つ目は
「……ハア。仕方ない」
全ての霊たちを吸収して放出すること。僕の使い道の無い死にスキルだったんだけど、こんなことに使う日が来るなんてね。一度吸収してしまえば、僕に霊たちは攻撃出来ない。放出する理由は、僕の身体だとエネルギーが多すぎてコントロールできないから。ちなみに放出した方向は真下。なぜなら
「「「「ギャーーーー」」」」
今の時間院長や医師たちが手術室にほとんど集まっているから。
こうして僕はこの病院の主になっちゃった。
しばらくして、廃墟になったここに肝試しでやってくる人が出てきた。そこで判明した衝撃の事実!なんとここ、受付を通ると名前を奪うみたい。
「うーん…今まで存在ごと消されてきた人達の怨念かなぁ」
そういうことで、ここから逃げれても人々の記憶から消失している人を量産する施設になっちゃったよ。もちろん全員回収してるけどね。
おかげで、仲良しな子がたくさん出来た。時々自分でお気に入りの子を探しに行って仲間にするのも楽しい。
「ね?亮太君、志織ちゃん、孝君」