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忘れられた病院  作者: 桜木
1/2

転校生

ホラー?うん。ホラー

「ねぇ君たち、“忘れられた病院”って知ってる?」



 昼休憩、今朝転校してきたばかりの佐伯がそんな風に俺達に話しかけてきた。



「っっ!?びっくりしたぁ!なんだよいきなり!お前は…えっと…たしか」


「佐伯君だよ。今朝自己紹介してただろ?もう忘れたのかよ亮太」


「…健司、仕方ない。…亮太は馬鹿だから」


「ああ!そうだ!佐伯だ佐伯!思い出した!!……っておい!裕也聞こえてんぞ!」


「まあまあ落ち着いて……で?俺たちに何かの用?」


「仲良いんだね君たち…うらやましいなぁ…ん゛ん゛この町にあるっていう廃病院のことを聴いたんだけど…もしかして知らない?」



 俺達は互いの顔を見合って首を傾げる。



「ごめん。聞いたことないなぁ」


「そっかぁ残念。もし知ってたら…まあいいや。ごめんねいきなり話しかけて、それじゃ」



 そう言って佐伯は自分の席ヘと戻って行った。



「なんだよあいつ…」


「うーん……」


「…どうしたの健司?」


「いやさ、この町にそんな心霊スポットみたいなもんあったっけって思ってさ」


「別にどうだっていいだろ?そんなの」



 俺がぶっきらぼうに返すと、こっちを見てきた健司がニヤリと笑う。



「ははーん…亮太、お前怖いんだろ?」


「なっ!?ばっ!?馬鹿いえ!怖いわけねぇだろうが!!」


「…亮太昔から怖がり。………顔に似合わず」


「うるせぇ!!怖がりなんかじゃねぇ!よし!良いだろう!俺がその廃病院見てきてやるよ」


「おいおい、冗談だって。そんなことしなくても分かってるって」


「…無理は禁物」


「いーや。ぜってぇ行ってくる!お前ら吠え面かくなよ!」



 俺は弁当をまとめると啖呵を切って自分の席に戻った。



 放課後、スマホで場所を調べた俺は地図に沿って歩いていた。どうやら例の廃病院は少し山に入った所に在るようで、人気が無い。到着したのは暗くなり始めた頃だった。



「ここが例の廃病院か……まだそこまで遅くないのに暗く感じる」



 その廃病院は何年も手入れされてないのか荒れ放題の有様で、二階建てながら窓はほとんど割れており、とび出したカーテンの端が風に揺れている。駐車場だったであろう場所には、ダイヤがパンクしたワゴン車と壊れたショベルカーが放置されていて、不気味な雰囲気をかもし出していた。



 早くも来たことを後悔し始めたが、来た証拠に病院をスマホで撮影しておく。



 震える足に活を入れ、ドアに近づいて取っ手を引いてみる。ギギギギギィと妙に高い音を出しながら全開まで開けたドアを離して中に入ると、光が入らないのかやっぱり暗い。持ってきた懐中電灯のスイッチを入れて恐る恐る進む。



「クソっ…なんでこんなに暗いんだよ。えっと案内図は……」



 懐中電灯を左右の壁に向けながら案内図を探す。受付であっただろう場所を通り過ぎると、突然背中に寒気が走った。声を出しそうになるがギリギリのところで抑える。乱れる息を無理やり整えなんとか足を前に出す。



「なんなんだいったい!…ハア…ハア…んくっ…ああ?」



 ふと見てみると、階段の横に案内図らしき物が見える。



「あんな所に在ったのか。…えっと……この突き当たりに手術室があって、その手前に診察室か…。二階は…病室ばっかりだな。うわっ…地下は霊安室かよ……ま、まあここは行かなくても良いかな…」



 念のため案内図を撮って、まずは安パイだろう二階の病室をいくつか見てみることにする。



「電気電気…いや、電気が通ってるわけねぇか。何年も手入れされてないんだし。チッ」



 なんだかイライラしながら階段を昇っていく。踊り場まで昇り、折り返しの階段を昇ろうとして振り返り目の前にある物に驚く。



「な、なんだよこれ…格子と格子戸?」



 まるで誰もこの上に昇らせないとばかりに佇むそれに、理解が追いつかない。よくよく見てみると所々錆びていて、かなり前からある物なのだろうと推測する。



「これじゃ、これ以上すすめねぇ。仕方ねぇ、病室は諦めて診察室と手術室で撮影して帰るか」



 内心安心しながらそう呟く。



 階段を降りて、閉まっている入り口を確認して反対側に在る診察室を目指す。コツコツと自分の足音だけが院内に響いていて改めて自分しか居ないのだと分かってしまう。せめてもの救いは、カルテや医療器具が床に落ちていたりしない綺麗な廊下であることだろう。



「でも、ひび割れは所々に見えるんだよなぁ……崩れないよな?」



 怖くなって心なしか早歩きで診察室を目指す。



「やっと着いた」



 目の前のドアも比較的綺麗で恐る恐る開けてみる。中はやはり薄暗いが物は散乱していない。誰かの診断をしていたのだろう、肺のレントゲンが張り出されていてカルテも置いてある。



「?…まるで、診断していたところって感じだよな。気のせいか?」



 薄ら寒い感じがしたので、さっさと撮影して出て行く。



 次は最後だができれば行きたくない所、手術室である。足が中々進まないことを自覚しながらノロノロ歩く。着いたら着いたでたっぷり三十秒深呼吸をして、ゆっくりドアをスライドさせる。



「お、お邪魔しまーす。……っ!?…お、おえっ」



 懐中電灯で照らしたことを後悔して思わずへたり込む。ソコは他の部屋とは一線を画していた。おそらく手術台だろう物に取り付けられた幾つもの革のベルト。そして全体に残る大量の赤茶色の汚れ。散乱するメスやクーペ、斑点だらけのベットサイドモニター。なぜか落ちている何枚かの手術着。



 それら全てを見て想像してしまった。出来てしまった。この、至る所に付着している赤茶色の汚れ



「血…液…」



 身体中が凍ったように寒くなった。考えがまとまらない。いや、答えにたどり着くのを拒否している。足が自然と後退する。もう何にも考えられない。ただただ本能的に入り口に向かって走り出していた。



「ハアッハアッ…ハアッ」



 上の方から重厚感のある音が聞こえた気がしたが無視して走った。階段の前を通り過ぎる。自分しか居ないはずなのに足音が聞こえる。



「後ちょっと!!……おら!」



 閉まっていたドアに体当たりする直前、窓に反射した……複数のナニカが見えた気がした。



 自転車で来なかった自分を恨みながら、うっすら明るい山道を下っていく。



 しばらくして、見覚えのある通りに出る。安心したのか汗がどっと噴き出してうずくまりそうになった。



「ゲホッゲホッ…ハアッ…ハアッ…んくっゲホッ…ヒューッヒューッ………ん?」



 顔を上げると、向こうの方に見覚えのある二人が見えた。疲れた身体を動かして二人に近づく。



「っおーい!お前ら良いところに居た!」



 二人はこっちを向いて



 首を傾げてまた歩き出した。



「なっ!?おい健司っ!裕也っ!待ってくれよ!!」



 二人を追いかけて二人の肩を叩いた。二人は恐る恐るこっちを向いて



「えっと……すいません。どちら様ですか?」


「は?…馬鹿っ何言って…」


「…知らない……不審者?…誰?」


「冗談も大概にしろよ!……自分はっ!自分は…………あれ?」



 ()()()()()が出てこない。そもそも、()()の一人称は()()で合っていたか?



「あ…あ…ああ………」


「あの、もう行っても良い?明日も学校なんだよね」


「…時間の無駄。……迷子なら警察」



 二人はそう言って行ってしまう。足に力が入らない。追いかけなければいけないのに、もうそんな気力が湧かない。



 どれぐらい経っただろうか。ふと、背後に気配を感じた。誰か心配してくれたのだろうかとなんとか振り返ると



「やあ」



 佐伯が笑顔で立っていた。



「佐……伯?」


「あーっ!覚えてくれたんだね()()君!」


「っ!?…なっ…っ…っ」



 今コイツはなんて言った?俺のことを亮太って…



「おお!名前を呼んだだけで一瞬とはいえ思い出すなんてすごい回復力♪…じゃーあー♪」



 佐伯から圧力?を感じる。自分の名前が思い出せなくなる。



「さてと…君のことを聴かせて?」


「じ、自分は………思い出せない…思い出せないっ!名前も!年齢も!なにも…なにもかも!!」


「アハハハハッ!」



 うっすら明るい道路に佐伯の笑い声が響き渡る。ひとしきり笑った佐伯は自分の顔を覗き込み



「コレデキミトボクハ、ナカヨシダネ♪」



 強張る自分を見て



 ()()()

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