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地獄に堕ちるはずだった

 


 君は死んだ。

 火刑に処され、槍で突かれた。服をひん剥かれて、犯されて、殺された。

 俺は、それをただ見ていることだけしか出来なかった。

 だから、ドロシー。

 俺は復讐することに決めた。


 俺は殺した。

 仲間を、友人を、貴族を、聖職者を、王族を、市民をこの手で殺した。

 情けを叫ぶ声、怨嗟、怒号。

 その源であった喉を潰し、心臓を引き裂き、腑を抉り出した。

 血で重くなる剣とマント。

 髪の毛が返り血で赤黒くなる。

 生々しい血の臭いはもう馬鹿になった俺の鼻には嗅ぎ別けられなかった。


 血溜まりの中を歩む。君と魔王を倒したことを思い出した。

 あの歓喜と祝福に満ちた、夢のようなひと時を。

 君は言った。農地に帰り、また地を耕さなくてはならない。

 やっと、蝗害や魔獣に襲われる心配をせずに作物が育てられる。

 きっと来年は豊作になります、と。

 夢見るような、少女の顔で、確かに明日を見据えていた。

 約束したのだ。

 収穫を手伝い、共に祝杯をあげ、魔王がいない世界を言祝ぐのだ。

 君は約束は破らない子だ。だから、きっと、約束を果たしてくれるはずだ。


 何人殺せば、君は蘇るのだろう。

 君が受けた屈辱を少しでも晴らせたのだろうか。

 けれど、どれだけ祈っても、どれだけ殺しても、神は姿を現さない。君の汚名はすすがれない。

 君は蘇らない!

 神は奇跡を見せてくれないのか。

 聖女たる彼女を救ってくれないのか。

 ならば、どうして彼女を殺した。

 黒焦げた肉の塊にしたのだ。


 君を殺した兵士達も、君を罪人だと決めつけた司祭達も、君を見殺しにした王族達も、もうこの世にはいないのに、君は灰になって死んでしまった!


 信じられなかった。

 信じたくなかった。

 だって、まだ、愛してるの一言さえーー。


 そして、やっと気がついた。

 罪人はここにいた。

 民衆達にとりおさえられ、身動きの取れなかったために一部始終を見ていたものが。

 それでもなお罰せられることもなく、のうのうと生き残った愚かな男が。


 震える四肢に鞭を入れて、神へ祈りを捧げる。

 血を吸った剣は重く、かたかたと震えていた。

 何十、何百と血の海に沈めたというのに、自害するのが恐ろしい。

 神が、彼女が、許さない。

 自殺はどんな罰よりも重い。地獄に堕ちることが決まっている。

 天国に行けず、無限の苦しみに喘ぐことになる。火で炙られ、逃げようにも逃げる場所すらなく、永劫に苦しみ続けることになる。


 けれど、彼女が蘇るのならば。

 半狂乱になりながら、聖句を唱える。

 彼女は死ぬべき人ではなかった。殺されるべき人ではなかった。

 優しかった。死ぬときまで、俺の心配をしていた。

 善性を、高潔さを、心に灯した美しい人だった。

 力を振り絞り、腹を切り裂いた。続けて、剣を振り下ろし、心臓を貫く。


 ーー最後に見えたのは血。

 噴き上がる血の赤。


 ドロシー、君に伝えたかった、大切なことが。

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