Magical girl 加苅 七夜 part1
「あれ、七夜じゃん。こんなところで会うだなんて奇遇だね」
「そうね」
「なんだか雰囲気変わった? 前はもっと明るかったような気がするんだけど」
「勘違いじゃない? それよりも海藤くん、今日は傘を持ってる?」
「折りたたみ傘ならいつも持ち歩いているけど……」
海藤 新は不信そうな顔をしながらも答える。
私は今できる精一杯の笑みを浮かべながら、隠し持っていたビニール傘を手渡した。
どこにでもある何ら変哲のないビニール傘だ。
しかし私は知っている。この傘が間もなく、誰かの心を満たすだけの十分な代物になることを。
それが仕組まれたものであろうとも、当事者は気がつくことは絶対にない。
「2本目の傘はいらないかな……」
「いいから持っていて。きっと使うことになると思うから」
「……わかったよ。ねえ、七夜。僕、ズッと謝りたいことが……」
「さぁ、私からの用事はお終いだから。さようなら」
新が次にどのような言葉を紡ごうとしているのかを私は知っている。
既に何千回も聞いた言葉だ。
私が聞きたい言葉はそんなものではない。
私が聞きたい言葉はもっと別にある。
それでも彼が私の想いに気がつくことがないことを知っている。
私は人目を避けるように裏路地を進んでいく。やがて、誰も来ないような場所を見つけると足を止め、ムクロを呼んだ。
「呼びましたか?」
「ムクロ、あなた、雲井さんを惑わしはしないでしょうね?」
「具体的にどういう意味ですか?」
「炎武」
小さな囁きとは対照的に大きな炎をまとったヌンチャクが私の手に握られる。ムクロは表情を一つ変えることはないが、一歩後ずさった。
「私はね、雲井さんを巻き込みたくないの」
「わかっていますよ」
「だったら、私がどうして怒っているかもわかるわよね?」
「加苅さん、いいですか? どれだけお怒りなのかを察することは、ムクロにはできません。ですが、魔法少女になるか否かを決めるのはいつでもムクロの意志ではありませんよ? 全ては個々の思いですから」
「ふざけないで!」
私はヌンチャクを振るった。
ムクロの元いた地面が炎に包まれ爆ぜる。だが、ムクロは空中へと僅かに浮遊することで攻撃を避けていた。
「加苅さん。いったい何を知っているんですか? このムクロが知らない何かを……知っているのでは?」
「……今回は警告だけ。だけれども……私の願いは伝えたから」
ムクロに背を向けて歩き始める。
私が知っていること。私だけが知ってしまっているこれから起きる運命。
炎はいかなる時代であろうとも途切れることのない。あらゆる戦いから生み出され、人の心の中にも大なり小なりの炎は巣くっている。
故に、私は何度でも巻き戻されようとも覚え続けている。
刻みつけられている傷は永遠となるのではないかと思うほどだ。それでも私は絶対に諦めることをしない。
「今度こそ……あなたを……」
私は歩みを止めない。その先に何があるのかをまだ知らずとも……




