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「こんばんは、魔法少女です!」  作者: ROGOSS
第一部 Magical girl Birth
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Magical girl 倉敷 香奈 Part 3

 イライラが止まらない。

 怒りが収まる気配を見せない。

 原因はわかっている。

 私は一番の親友だと思っていた彼女を許せないのだ。

 私がムクロと魔法少女として契約をしてからアッという間に2ヶ月が経っていた。

 私が扱える魔法は「地」属性らしい。七夜さんが「火」に対して、私が「地」であることに法則性があるのかはわからない。ムクロは、何も答えてはくれないからだ。


「いつもよりも、派手に懲らしめましたね」


 いつの間にか私の背後に立っていたムクロは楽しそうに言うと、元人間のものと思われる肉塊をまじまじと見つめた。

 魔法少女は、悪人をどのように懲らしめたかによってもらえる魔法少女ポイントに大きな差が出る。

 口頭で注意するや怪我を負わせる程度では、悪人が更正することはないと思っているらしく、もらえるポイントも少ない。一方で片腕をなくすなどの重傷や命そのものを奪うなどの行為に対する還元率が非常に高い。特に殺すとしても、より残虐性をおびたやり方をすれば一層もらえるポイントは高くなる。

 ようするに、魔法少女は悪人を懲らしめる使命があるなどとムクロは言っているが、懲らしめるは体の良い言葉遊びにしか過ぎない。魔法少女達には叶えたい願いがある。願いをより早く叶えるためには、多くの魔法少女ポイントを貯める必要があり、魔法少女はポイントを貯めるために残虐性のある殺害を見えない糸によって行わされているのだ。

 私もムクロの仕掛けている企みに理解はしている。しかし、私が「普通」になるためには多少やり方は粗々しくなろうとも、手段を変えるつもりは毛頭ない。

 ムクロがいつか言っていたように「どうせ他人に危害を及ぼす害虫でしかない」のだから、手心を加えるだけ無駄なのだ。

 悪に手を染めてしまった者は、どれだけ心変わりをしようとも二度と普通には戻れない。

 私は普通ではない人間を許すことが出来ない。普通ではない人間など、二足歩行をする獣と同じだ。いつまでもゲージで飼い殺すことができるのならば、健全に生きる私の目に触れることはないのだから、私の平穏な生活が脅かされることはないが、残念ながら法治国家日本では、よほどの大罪を犯さない限りは悪人達はいつしか檻の外へと解き放たれる。

 道を踏み外した人間は死ぬことでしか、犯した罪を償うことは出来ない。

 私が(して)いることは、悪人の懺悔の手助けだ。


「そんなにも、倉敷さんが同じ魔法少女にならないことが不満ですか?」


 ムクロの質問は聞いてないふりをした。

 私が何にイライラしているかは私が一番理解している。

 普通の人間ならば、叶えたい夢を叶えられるという餌に飛びつくはずだ。しかし、恵美は餌に食いつかずに自ら捨て去った。

 私の中で、彼女は「普通」ではないという判決が下ってしまっていた。


「計算が終わりました。さてさて、随分とポイントを貯められたようですけれども、そろそろ使いますか? ポイントを腐らせて、パワーアップを怠ってはいけませんよ」


「本当に強くなるの?」


「ムクロは嘘は言いません。倉敷さん。あなたは今までとは違うやり方で悪人をより残虐に、そして多くの数を懲らしめることができるようになりますよ」


 悪い笑顔をしている。

 目の前のムクロは人当たりの良さそうな笑みを浮かべているがその実、心の中では何を考えているか皆目見当もつかない。

 それでも私は、ムクロの言葉にYesと答える。

 目の前にいるムクロか、それとも見たこともない黒幕がいるのか……誰かに操られている感覚はあるが、そんなことはどうでも良い。

 私が普通になれるなら、善人だろうと悪人だろうと何人でも殺してみせる。


「では、目をつむってください」


 言われたとおりに私は目をつむった。

 パチンと指が鳴らされる。


「終わりました。実感はやはり湧かないでしょうが、実戦で味わっていただけることが一番良いかと」


「なんだかあっけないわね」


「そんなものですよ。ほら、ゲームだってレベルを上げるのは大変でも、いざパワーアップしたかを試すためには実戦で技を使うしかないでしょう?」


「……それもそうね」


「もしかしてですけれども、パワーアップ以外にもムクロに尋ねたいころがあるのでは?」


「……」


 ムクロ言うとおりだ。

 私は尋ねたくてたまらない。

 

「彼女は……本当に魔法少女にならないの?」


「雲井さんのことですね。あれからも何度か会いに行っているのですが、なかなか首を縦に振ってくれませんね」


「そう……」


「知っていますよ。あの日から、口をきかれていないようじゃないですか。方向性の違いからの仲違い……よくある話ですが、仕方ないですよ。だって、倉敷さんは魔法少女になる前から人殺しをしたことがあっても、雲井さんにはありませんでしたからね」


 私は後ろへ飛んだ。

 武器としているハサミを取り出す。

 ハサミと言っても、人の体を真っ二つに切れるほど巨大なものだ。


「どうして……知っているの!」


 声を荒げていた。

 ムクロは私がしらない内から私を知っていた……? 私がしていた罪のことも知っている。

 

「怖いので武器はしまってください。当然じゃないですか。魔法少女にスカウトする前には、その人のことをキチンと調査をしますから」


「そんな説明で納得するとでも?」


「納得しなくてはいけませんよ。それに……仮に倉敷さんが今ここで私を殺したとしても意味なんかありません。私は……別にひとりではないのですからね」


 本能が警鐘を鳴らしている。

 何かがまずい。冷や汗が背中に流れる。私は努めて平静を装っているが、ムクロにはそれすらお見通しなのだろう。

 今更ではあるが、目の前にいるムクロ以外からも視線を感じる気がする。

 私を取り囲むように、ネットリとした視線が私に降り注いでいる。

 ムクロのひとりではない、という言葉の意味はわからないが、それが冗談の類いではないことは理解できた。


「倉敷さん、安心してください。倉敷さんがしっかりと魔法少女をするのでしたら、ムクロは何ら危害をくわえませんから。あと……これはムクロの勘ですが、雲井さんは近々魔法少女になると思いますよ」


「どうしてそう思うの?」


「ですから勘ですってば……」


 ムクロは闇の中に消えて行った。


「クソッ!」


 私は転がっている肉塊を蹴飛ばす。

 気色の悪い音を立てながら、肉塊もまた暗闇の中に消えて行った。

 私は私が思っている以上に深い何かに囚われてしまったのかもしれない。


「あれ……私って普通なの……?」


 突然の疑問が私の口からこぼれたことに、私は理解を拒んだ。

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