Magical girl 雲井 恵美 Part 3
昨日のことを思い出す度に吐き気を催してくる。
だが同時に、胸を打ち付けるアツい想いを湧き起こることもある。どうしようもない熱情。興奮という言葉が一番ピッタリなのかもしれない。
鼻につく肉が焼け焦げる臭いと強烈な鉄の臭い。部屋中に広がる鮮血の赤。
常人ならばトラウマになるのは間違いない。
しかし、私にとっては昨日の非日常の出来事が新鮮で甘美な体験と感じてしまっている。
教室がザワつき始める。
男子共がおしゃべりを止め、入り口をみて何事かを囁いている。
「あんな可愛い子が俺達の学校にいたか?」
「知らないぞ……初めて見たぜ、俺」
いったい誰のことを言っているのだろうか?
ふと顔を上げると目の前に見慣れた顔が目の前には七夜が立っていた。彼女は私を見下ろしたまま「ついてきて」と一言だけ残すと歩き始める。
「え……?」
混乱しながらも私は七夜に付いていく。
彼女は屋上へと続く階段を無言で進んでいった。まるで、昨日の雑居ビルでの出来事を追体験しているかのような錯覚を私は起こしていた。屋上への扉を開き、外へ出ると青髪の少女が私達を待っているかのように深々とお辞儀をした。
「初めまして! 私の名前はムクロって言います。雲井恵美さん、昨日はお仕事の見学、お疲れ様でした。どうしでしたか? 魔法少女になる決意を固められましたか?」
何を言っているのだろうこの少女は……
第一に浮かんだ考えが脳内を埋め尽くす。
瞬間、七夜が口を開いた。
「この女の子が私達魔法少女に仕事を融通するの。雲井さん、アルバイトを始めたいと思うならば、今、ここで答えを出して」
「えぇーと……一日だけ考える時間をもらえない?」
私の言葉に対してムクロが首を振った。
「雲井恵美さん、チャンスの女神は前髪しかありませんよ? どれだけ必死になって掴もうとしても、逃してしまったら二度と手に入ることはない。雲井恵美さん、幸せになりたくないんですか?」
幸せになりたくないんですか?
その言葉に私は振るえた。
なぜ私が思っていることを把握しているのか、という恐怖からなのかそれともこれから起こる事象にたいする期待感からの武者震いなのかはわからない。
今を逃したら二度と私は幸せになれない。
洗脳に近い思いを私は想起する。
「私達は悪人を懲らしめます。そして、懲らしめた数だけ魔法ポイントを貯めてもらい、最終的にはポイントを還元することで願いを叶えて幸せになるんです! 確かに中には殺人といった道徳的には問題があります。ですが、私達が殺すのは汚い人間なのです! 殺される奴もまた、誰かを陥れて私腹を肥やしている外道になんですから!」
言っていることに大きな破綻があることを私は理解していた。
いくら道徳的に問題がある人間を殺すと言っても、殺人という事実はかわらないのだ。それに、昨日のことを思い出せば、魔法少女とやらになれば通常の人間では考えられない特殊な能力を使えるようになる。能力を行使して犯すことは「殺人」ではなく「虐殺」だ。
それでも……私は気持ちを落ち着かせる。
考え方を変えれば正義の味方だ。
スーパーマンだってウルトラマンだって、常人にはない力を使って悪を倒す。ならば、私が摩訶不思議な力を使って悪人を倒すことは正当化できるのではないだろうか?
気がつくと答えは決まっていた。あとはそれを口に出すだけだ。
「本当に願いは叶うんですか?」
「私は嘘を言いません。絶対に叶いますよ!」
いったい何を根拠にムクロは言っているのか。
今の私にはそれを計るだけの材料が決定的に不足している。
目の前にあるのは、不登校であるが魔法少女として活動をしている親友とその親友を魔法少女にしてしまった少女。そして、新しく魔法少女となろうとしている私だ。
「その話……私も考えてもいいですか……!」
予想もしない声が聞こえてきた。
ムクロはニコリと微笑んだ。
「来ると思いましたよ、倉敷 香奈さん」
設定集
ムクロ
詳細一切不明
青髪の少女の容姿をしている。
新しい魔法少女をスカウトして能力を渡すことが仕事らしいが……




