Magical girl 新島 楓 Part 1
第二部開始となります。
第一部で明かされなかった謎が徐々に明らかになるでしょう。
ぜひともお楽しみください。
目の前で起きている事象を理解することは難しい。特にそれが現実とあまりにも乖離しているならば尚更困難だ。
「ねぇどうするの? 楓さん。このまま目の前でお友達が死んじゃうのをただ見ているの? ムクロ的にはそれでもいいんだけどもぉ……それって人殺しと変わらないよね?」
「え……」
「でもでも! 楓さん! 幸運なことにこの事態を止める手段を持っていますよね!」
ムクロが怪しげに笑う。
私だって理解している。人外の力には人外の力で対応するしかない。今も迷っている間に藍那は苦しそうにしている。
心の中の私が葛藤を始める。
人をやめて友人を助けるのか? それともこのまま見殺しにして殺人の罪を永遠に負い続けるのか?
「楓……」
弱々しくつぶやく藍那の声が聞こえた。
藍那は私の方を見つめていた。今にも消え入りそうな命の灯火で私の名前を呼んでいた。
「さぁさぁさぁさァァァァァ! どうするんですか新島楓さん!」
「私は……私は……私はっ!」
〇●〇●〇
日本で起きている年間の殺人事件の件数は約3万5千件だという。これは20年前と比べると遙かに減った数であり、未来では殺人件数の存在そのものが珍しいなっているかもしれない。しかし、年間5万人の行方不明者がでており、その中には明るみになっていない殺人事件が紛れていると言われている。実際のところは、1年間でさらに多くの明るみにならない殺人件数が起きていることは間違いないだろう。
なんにせよ、殺人などというものがこの世界から無くなるならばこれほど嬉しいことはないだろう。
アルバイトを終えて私は帰路につく。
アルバイト先も進学先の高校も地元とはかなり距離のある場所にしているため、片道1時間半かかるのだが苦痛に思ったことはない。
私が家の玄関の鍵を開けようとした時にソレが目に飛び込んできた。
真っ赤な字で紙の真ん中に書かれている忌むべき文字。
『人殺し』
中学時代の記憶がフラッシュバックする。
私がいったい何をしたというのだろうか。私は全うに良い子で生きつづけていた。しかし、世界は私の人生を拒んだ。私に厳しく、優しかった父は私の存在を否定した。
父が上司を刺殺したのは3年前だ。その後、父は会社の屋上から飛び降りたらしい。日々横行していたパワハラが原因で鬱病を患っていた父は我慢の限界を超え、上司を刺し殺して自殺をした。
世間はパワハラをしていた会社を糾弾した。数ヶ月後には経営陣が総辞職をしてクリーンな会社として生まれ変わったらしい。
だが、地域という狭いコミュニティは違う。人殺しがご近所にいる。
それは格好の虐めの対象となった。
連日かかるいたずら電話。毎日のように家に書かれる落書きや放置されるゴミ。ひどい時には宅急便で醜悪な物を送ってきた者までいた。
誰が首謀者かはわからない。
何年経とうとも、誰が犯した罪であろうとも、殺人を犯した家族は除け者であり弱者であり、虐めで良い対象となっていた。
私が遠くの場所を進学先に選んだのは、この辺りでは私は殺人者の娘としてあまりにも有名になってしまっていたからだ。
もちろん引っ越すことも考えた。しかし、母はご近所の虐めに耐えることが出来ず父に続き鬱病となってしまい、その治療費を捻出していたら、気がつくと金銭的な問題からとてもではないが引っ越すことはできなくなっていた。
「私は……私の父さんも悪くないのに……」
父への恨みはない。父だって辛かったはずだ。仕事を辞めたかったはずだ。それでも私と母さんを養うために働き続けた。病気になっても働き続けた。
私は父がやつれていく姿を見ながらも、見て見ぬ振りを続けた。私も父を殺した一人なのだ。私がもっと早く父に声をかけていたら、未来は変わっていたかもしれない。私が父にようやく「ごめんなさい」と声をかけることができたのは、父が冷たい姿となってからだった。
「いったい誰がッ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「新……」
「いつもいつも……もう3年も経つのに」
新は私が気がつかなかったゴミを拾い始めた。
新と私は幼馴染みだ。前は加苅 七夜という少女がいたが、彼女は随分と前に引っ越してしまった。残された幼馴染みの私達は、私の抱えた事情もあり何だかんだといいながら支え合い続けた。
あらかた掃除を終えると新は私の方を見た。
「大丈夫?」
「うん……ありがと」
「気にするなって。まだ、こんなことしてる奴がいるんだな……夜道、気をつけろよ」
「うん……」
「……じゃあ、また」
「じゃあね」
何となくぎこちない会話をする。
支え合ってはいるが、やはり年を重ねるごとに溝は出来ていた。いつまでも幼少期のように仲良く過ごすことはできないのだろうか。人間関係は実に難しい。
私は今度こそ鍵を開けて家の中へと入った。
母はいつものように電気も付けずに今でテレビを眺めていた。本当に眺めているだけで、内容は一切入っていない。
「ただいま」と声をかけ、私は2階にある部屋へと向かった。
私のスマートフォンに着信音がなる。
それは運命の着信音だった。私の運命を変えてくれるかもしれない着信。そして私の全てをゼロにしてしまうメール。
『叶えたい願いがありますよね?』
開いたメールには真っ赤な文字でそう書かれていた。




