Magical girl 倉敷 香奈&雲井 恵美
「きゃはははは! 死んじゃえ、死んじゃえ死んじゃえ!」
終わることのない攻撃の前に恵美は盾を構え、防御の姿勢を崩さないことしかできない。
私の生きる証。私の普通の象徴。私の玩具……私だけのものなのに、彼女は魔法少女となってしまった。死んでしまえばいいのに……!
防ぐことの出来ないハサミの刃が恵美の顔を傷つけていく。平凡でどこにでもいそうな彼女の容姿を傷つけ、どこにもない程の醜さが完成されていく。
私にとっては彼女を殺すこと、壊すことだけが戦う意味だ。
ならば彼女が戦う意味は?
一方に攻撃をしてこようとしない彼女に苛立ちを覚え始める。
「やめてっ! 私は……香奈を止めたいだけなの! おかしいよ……私はただ普通に香奈と毎日笑って馬鹿してればいいだけなのに……! どうしてこうなっちゃうの!」
普通に毎日を過ごせれば良い……フツウニマイニチヲスゴセレバイイ……
彼女が放った呪いの言葉に私は攻撃の手を止めた。
「香奈……」
「そう……恵美は私と普通に毎日を送りたいんだね」
「そうだよ……そうだよっ! 私はまた、香奈と一緒にいたいだけなのっ! お願い、こんなこともうやめようよ」
こんなこと止めようよ。
私が自分勝手な理由で恵美を殺そうとしていることは、私自身が一番よくわかっている。誰に言っても理解されることはない怒りをぶつけていることを知っている。
だからこそ、彼女だけには「普通」などと言われたくなかった。
今まで、私は世界にいるゴミという名前の異端者を見つけ、不快に思い、処理を続けていた。そうして保ってきた私の「普通」への努力を恵美はしていない。それだというのに、彼女は「普通」を取り戻すために私の前に立ちふさがり、攻撃という名前の暴力を振るうことなく、防御という抱擁を続けている。
「はは、ははははは!」
私の笑い声に恵美の表情が強ばっていく。
「普通ね? 努力もしていないような人間が普通を語るなんて笑うしかないわ! 私が普通を取り戻すためには貴女を殺すしかもうないのっ! 理解して欲しいなんてまったく思わないわ。だけどお願い、死んでください」
「いやっ!」
人の体を容易に切断できるであろう巨大な刃が恵美の体を挟み込む。
圧倒的な力の前には、ついに恵美の防御も無意味なものとなっていた。
「死ね死ね死ね死ねっ!」
私の声に共鳴するように恵美は悲鳴を上げた。
彼女の腹部から血が噴き出す。それでも刃の動きが止まることはなく、徐々に肉の中へと食い込んでいった。
「これでっ! 私の普通は取り戻されるっ!」
歓喜の声を上げる私の顔を恵美は見つめた。
その目は驚くほどに慈愛に満ちている。
私の中の狂気が一瞬、動きを止めた。
「……」
彼女が最後に何を言ったのかはわからない。
彼女の上半身が宙へ投げ出され、下半身は膝から崩れ落ちた。
私はただ呆然とその様子を眺めている。しかし、爽快感どころか不快感すら沸き上がることはない。私の中を無が支配する。
「殺したなっ!」
背後から声が聞こえる。
「殺したよ?」
「貴女はいつもっ! 燃えてしまえっ!」
私の体が業火に包まれる。
炎の壁越しには涙で頬を濡らしている七夜が立っていた。
怒りと悲しみを抱えた表情が脳裏にこびりつく。
「あっ……死んじゃう」
私が最後に残した言葉はあまりにも普通すぎた言葉だった。
人間が死を間近にして、現状を報告するしかないなど普通以外の何物でも無いだろう。
恐怖も後悔も感じることはない。
無が依然として私の中を支配している。
私の魔法少女としての一生はこの瞬間に終わりを告げたのだった。
魔法少女
雲井 恵美 体を切断されたことにより死亡
倉敷 香奈 重度の火傷を負ったことにより死亡




