Moment the Magical girl part 1
目の前で起きている戦いに関与することは一切しない。実況する必要もない。どうせ、ムクロが見ていればムクロの目を通してMaJo様にも情報は行くはずだ。故にムクロはただ観察をする。これまでも、今も、これからも……
友達を魔法少女という鎖から救うことを願い、友達の命の危機を助けるために魔法少女となった者……自身が異端であることを知りながらも、変わることができずに苦しみ続け、友達という存在が自分が普通たらしめていた世界を守れなくなり、逆上のあまりに自分の世界の象徴を破壊することを願う者……
「ムクロからすれば、どうでもいいことばかりですね。どっちが勝ってもどっちが死んでも、結局は欲望に塗れた汚い存在であることに変わりはないんですから」
「それが貴女の本音っていうわけね」
振り返ると目の前には炎が迫っていた。躱すことは出来ないことを瞬時に理解する。
「ぐああああああ!」
炎の渦が体を包み込む。数十秒もの間、灼熱の地獄の中へ放り込まれる。服は焼け焦げ、皮膚の至るところの火傷の跡が出来ていた。
コツコツとヒールの音を立てながら加苅 七夜はムクロへと近づいていた。
「ムクロを殺したって雲井さんと倉敷さんの戦いは止まりませんよ」
「知っている。だから、魔法少女同士で戦い合わなきゃいけないこの状況を壊しにきたの」
「随分とお詳しそうですね。まるで、何もかも起きることを知っていたかのようですね……」
「知っていたわ。人間は道具を使うことと炎を扱うことで動物と差別化ができる。炎は太古より伝わる魔法よ」
「言っている意味がまるでわかりませんが……」
「こうなることはわかっていた。何度も止めようとしても、止められないことも知っていた。次こそは……と思っていたけれど、今回も駄目。だけど被害を最小限に抑えようとする努力を私は惜しまないの」
「あぁ……あぁっ! MaJo様のおっしゃていた記憶の保持者は貴女でしたか。なるほど……不思議ですね、七夜さんは時を操る力を持っていないのに、何度もやり直している。同じ時間軸を行ったり来たり……ご苦労様です」
心の底から思っていることを吐き出す。ご苦労様です、本当に本当にご苦労さまです。
七夜に対する言葉は嘘ではない。私もかつても何かを望んで産まれたはずだ。しかし、大きな挫折を経験し、結局は諦める選択を取った。だが、目の前にいる加苅 七夜は違う。何度も何度も挑み続け、挫折を幾度となく経験しながらも、未だに諦めることをしようとしない。
「でも、残念、また、同じ結果にしかならないみたいですよ」
「……! ゲスがっ!」
再び炎の渦が体を取り巻く。もがいても叫んでも無駄だということは、最初の一撃で学んだ。やがて炎の渦は消え去っていき、ムクロは地面へと膝をついた。立つだけの気力はもう残っていない。
「ムクロを殺したって意味がないことは七夜さんがわかっているのではないですか?」
「あるわ。さっきも言ったでしょう。この馬鹿げたNext Stageを終わらせるの」
「ムクロを殺したって終わらないですよ」
「……嘘は無駄よ。裁定者を殺してしまえば、誰もゲームの進行を出来なくなる」
「ムクロはゲームの進行者じゃないですから」
頬が上がる。ボロボロの体、途切れそうな命の灯火……余裕などどこにもない。それでも笑えてしまう。目の前にいる哀れで傲慢な魔法少女は大きな勘違いをしているようだ。それが無性におかしくてたまらない。
「私は監視者であって審判者でも進行者でもありませんから」
「……! なら……私のやっていることは無意味……?」
「そう……意味などないです」
背後から足音が聞こえる。ひとつふたつ……数が増えていくのが感じられる。七夜の目に絶望の色が宿る。
「言ったでしょう? ムクロは監視者だって」
後ろからムクロと同じ声が聞こえる。続いてケタケタという不快な笑い声が上がる。笑い声はふくれあがり、盛大な合唱と取れるような大きさまでになった。
七夜が飛び出していく。目的地は今起こっている戦いの場であることは明確だ。ムクロを倒しても終わらないデスゲームを彼女の力を持ってして、強制終了させようという魂胆だろう。
だが、無駄なことだ。ムクロにはわかる。間もなく決着がつくことを。七夜が辿り着く頃には手遅れになっている。
「お疲れ様。交替しましょうか」
「よろしくお願いしますね、ムクロ」
間もなく第1章が完結となります。




