Magical girl 雲井 恵美 Part 1
お初目に掛かります。
私事ながら、初めて魔法少女が主人公となる作品を書きます。
しかしながら、注意してください。
この魔法少女達、ただの魔法少女ではないです。
無機質な音が一定の間隔で部屋に鳴り響く。
だがそれは、命の長さを測るような音ではない。
無機質ではあるが、命の長さを憂うような悲壮感はなく、命の絶頂を讃える喜びの音色である。
しばらくすると、ディスプレイの画面の電源がひとりでにつくと、短いメッセージを表示する。
『Welcome to magical girl』
数秒同じ文字を表示していた画面はブツンと音を立てて消えた。同時に、喜びの音色も虚空の彼方へと消え去っていった。
..............now loding fouding new lucky girl
Would you watch her?
→Yes
No
..............complete!
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高校生という社会の立場に対して恨み言を持つ人は多い。
しかし、その多くは何故勉学をしなくてはいけないのか? などという贅沢極まりないことだ。
世界の貧困を問題視して、恵まれない貧しい子供達を救いたいと叫ぶ人々も多くいる。
だが、いざ募金箱に決して多くないお小遣いから割いた額を入れたところで、本当にそのお金が慈善事業のために使われているかなど、私達には知ることが出来ない。
もしかしたら、人目のつかない場所で、募金箱をひっくり返して、中身をいやらしい顔で数えたあげく、その晩の飲み代に使われている可能性だって大いにある。
それでも、私達にはそのお金がどのように使われているかなど気にする余地もない。結局のところ、募金箱にお金を入れたという行為に満足をしたいのだ。
私が帰りがけにいつも見る、駅前での募金活動を眺めている理由は特にない。
強いていうならば、募金を呼びかけている彼らの表情に一切の曇りがないか否かを判断してみたいというただの野次馬根性からだった。
「恵美聞いてる?」
「え、あ、うん! 聞いてたよ!」
「だったら、私が何を言っていたか復唱してみてよ!」
「あぁー……ごめん」
「もう、恵美はいつも突然意識飛ばしちゃう系女子だよね!」
友人の香奈は頬を膨らました。
どこにでもある偏差値55前後の自称進学校に通っている女子高生、それなりの友人関係にも恵まれ、来年には受験のことを考えながら、数年前に終わったと思い込んでいた勉強の地獄を繰り返す予定のどこにでもいる女子高生が私だ。
それに対して、同じような環境にいながら、明らかに容姿が整っている香奈は私の友達としては不相応だと私は感じている。
一度、香奈に私が思っていることを伝えたことがある。しかし、香奈は「顔で友達を選んでも仕方なくない?」と私の思いを一蹴した。
容姿が整っていて、性格まで完璧な聖人、倉敷 香奈が私の友達であるという事実は、少しだけ誇らしかった。
「もう一度話すよ? 最近ね、おかしなアルバイトが流行ってるみたいなの」
「おかしなアルバイト……?」
「なんか、悪人を退治するんだって! それも魔法少女になって」
「なにそれ……漫画かアニメの影響でも受けたの?」
「事実だって! ……と、いってもネットの情報だけどさ。でもでも! 4組の七夜さんが最近ずっと学校に来ないのは、そのアルバイトが原因だって聞いたよ!」
「それも噂でしょ? 私が突然意識飛ばしちゃう系なら、香奈は噂大好き系だね」
「馬鹿にしてるでしょ?」
「してないよ。それだけ噂でも、多くの情報を手に入れられるってことは、良い意味で人たらしってことだと思うし、一種の能力だと思うよ」
「え、そうかな?」
デレデレとにやける香奈はいっそう可愛い。私が男ならば、間違いなく惚れてしまっただろう。
他愛ない会話を続けていくうちに、いつもの十字路へとやって来た。この十字路が私達のお別れの場所。そしてまた、明日には再会する場所。
「じゃあね、また明日」
「うん、またね! 明日は現代文のテストあるらしいから、しっかり勉強しなよ!」
「忘れてた……ありがとう」
「そんなことだと思ってたよー!」
私は香奈の言葉を聞くと反対方向へと歩き出した。後ろでは、香奈がまだ名残惜しそうに手を振っていることが気配でわかる。私は絶対に振り向かない。十字路に来てしまった私は、もう香奈の知っている友人の恵美ではないからだ。
今いる私は、家にいる私。誰にも見せられない、誰にも知られたくはない私。
マンションのエレベーターに乗り、目的の階で降りると一直線に我が家のある部屋へと向かった。
雲井の表札を目にすると、少しだけ顔が強ばることがわかる。
鍵が掛かっていないのはいつものことだ。私は扉を開けて家に入る。靴を揃えて、リビングへの扉をくぐると、母親がいた。
「ただいま」
「……」
母親からの返事はない。
母親と父親と会話をしない状態がもう何年間続いているのかは忘れてしまった。
私は両親から透明人間として扱われている。