君の見ている世界には
人生ってそんなもんだなと思って書きました。
「美袋さんは、仮想世界って信じる?」
五十嵐くんが突然そういった。
前フリなんてなかった。
私は日直の最後の仕事、日誌を書くのに一生懸命だった。
彼は沈黙を破るようにそういった。
教室の窓際で前後に座る私と彼。
夕日がすこしオレンジ色を濃くする時間だった。
「仮想世界って? なに急に」
「例えば、この世界は誰かが作り出したものだとか思わない?」
「どういうこと?」
「うーんとね~簡単にいえば世界の話し。いうなれば僕達の人生そのものかな?」
彼はよけい難しい話をし始めた。
私は頭の上に?マークが何個かつき始める。
「ごめん、説明が下手だよね僕」
「そういうわけじゃないけど、どうして急にそんな話しするの?」
彼は持っていたシャーペンを回しながら外の夕日を見ていた。
「僕は僕の世界の主人公だとずっと思ってきたんだ。だけど、実は誰かの世界では脇役で、もしくはただのエキストラでしかない存在かもしれないって思って」
「この世界がTVドラマという感覚ってこと?」
「まぁね。でも僕がつくる周りの人たちや環境は僕がここにいるから作られているんだよ」
「うん」
「で、もし僕の環境が今と変わることがあればそれは仮想世界のようなものじゃあないかと思うんだ」
「え? どういうこと?」
彼はさぞかし頭がいいのだろう。私にはちんぷんかんぷんだった。
「うーん。なんていうのかなー? 分岐点ってあるじゃん? よく心理テストとかでイエスなら右へノーなら左へっていうやつ。あれと同じことだよ」
同じヤツと言われても私にはうまく理解できなかった。
彼は先程回していたシャーペンをきちんと持ち、紙にかきながら説明をし始めた。
「たとえば、美袋さんと僕が日直で放課後に日誌をかいている今の状態があるでしょ?」
彼は私と自分の棒人形を描いた。
「この二人がこれからいつもどおりのクラスメイトとして過ごすという道がある」
「うん」
「でも実は他の道もあったりして」
そういって彼は棒人形をまるでかこみ、そこから線を引く。
「たとえば、僕達がコンビを組んでお笑い芸人になる道」
「それは絶対ない」
「あははは、そうだね。そして次」
彼は囲んだマルからまた線を引き始める。
「僕達が恋人になる道」
「え?」
「なくもないでしょ? 少女漫画だったらこういうパターン多くない?」
「多いけど、そもそもなんで五十嵐くんがそんなこと知ってるの?」
「妹の本から得た知恵」
「なるほど。でもその道はないんじゃない? だって・・・」
そう言いかけて私はふと思う。彼とこうやって対面して話すのは実は初めてなのだ。
「そうだね、美袋さんと僕はこうやってがっつり話したの初めてに近いもんね」
私と同じことを思っていた。それに気づいて私は少し恥ずかしくなる。
「仮想世界の話しだから、これが現実になるかどうかは別だけど」
クスっと笑いながら話しを続けた。
「で、美袋さんはどう思う? 仮想世界ってあると思う?」
少し考える。放課後の学校は運動部の声、吹奏楽の楽器の音色、教室に残ってる生徒の騒ぎ声が聞こえてくる。毎日聞いているこの音も、何かがきっかけで違うモノになるのだろうか? 耳障りだとおもっていた音も、心地よい音になるのだろうか?
「あはははは、そんなに悩まないでよ。インスピレーションだよ」
「じゃあ、あえていうなら、それは漫画の世界感だと思う」
「ほぅ。といいますと?」
彼は腕を組み、私がこれから話すことに興味津々のようににやついた。
「私が送りたい高校生活が、少女漫画で描かれていることがあるの」
「いろんなイケメンに突然告白されたりするとか?」
「そういう子は絶対女子に嫌われるパターン」
「あははは、たしかに」
「そういう話なんて現実にあるわけないじゃんって思うけど、実際に私の身近でおきてたりすることもあるの」
「へぇー、それはそれですごいね」
「だから、仮想世界は信じれないけどでも漫画の中の出来事は現実にもありゆるわけで、つまり・・・」
自分で話していてよくわからなくなってきた。
「言いたいことはなんとなくわかったよ。要は仮想といいながらも現実でも起こり得ることもあるってことだね」
「うん」
「じゃあさぁ、魔法や魔術が使える世界って仮想世界じゃん? それって現実になると思う?」
「んーー、それは、どうなんだろ」
私はいつの間にか彼の難しい話を真剣に考えていた。
「僕はね、現実になると思うんだ。現にいま僕達がもってるスマホなんて昔の人からすれば不思議道具だよ? 分からないことはコレ一本で解決するんだから」
確かに。まるでそれは魔法の道具のような。
「だから、漫画や小説にでてくる仮想世界というか幻想はいつか実現するんだよ」
彼は腕を組んだまま私に笑いかける。
「・・・ところで」
「ん?」
「どうしてそんな話しを私にするの?」
「どうしてだろうね~」
五十嵐くんはニコリと笑いながらなにか企んでいるように見えた。
「なんとなく、かな?」
「たまたま私と日直が一緒だったから話したという理由?」
「あははは、もしそれが理由ならまさに今が僕と美袋さんの分岐点だね」
コレが何を意味するのか私にはまだわからない。
「ちなみに僕はその仮想世界とやらに興味があるから、予想を上回る展開がほしいな」
「どういうこと?」
私にはさっぱりわからなかった。
彼は何を話したいのか、何が言いたいのか、
「もう、日誌かけた?」
「う、うん」
「じゃあここで二択です」
彼はまた紙に何か書き始めた。
「日誌を先生に届けたあと、美袋さんはどうする?」
どうするって帰るけど・・・。
「そのまま帰る」とかいてまるをする。
「もう一つは、僕と一緒にかえる」とかいてまるをする。
「さぁ、美袋さんどっちにする?」
帰ることに変わりはない。
ただ、そこに誰かがいるかいないかの違い。
その選択肢で私は私の知らない世界を見ることになる。
まさかの展開がもしかしたらこの先はあるかもしれない。
少女漫画であった展開を私自身が味わえるかもしれない。
「・・・こっちで」
紙に書かれた彼の二択のうち1つに指を指す。
「美袋さんならそっちを選ぶと思ったよ。よし、いこう」
これは誘導尋問だったのかもしれない。
仮想世界があるとかないとか話すことであるかもしれないという錯覚に陥らせる彼の策かも知れない。でも、私は興味があった。
私はもしかしたら私でも知らない世界がこの先待っているのかもしれない、と。
間違っているかもしれない。正しいかもしれない。未来のことなんて分からない。
でも、これだけは分かる。私は私の人生の主人公で人生の作者だと。
この世界のあらゆることは自分で決めていいんだって。
そこには他人も存在するけど、その御蔭で私の人生に刺激がでる。
もしかしたらそれが彼なのかもしれない。
そんなことを考えながら
かき終わった日誌を片手に私たちは教室を出た。
ありざーす。またひょこっとかきにきます。