第2話
「さて、自己紹介は終わったわね。みんな、仲良くしましょうね〜。あ」
あー、プリント落としちゃった。よっ、と。
「ふぅ」
ゴンッッ
いっ!? たぁ……頭が、あわわ!
「きゅうぅ〜……!」
お、お尻打った……。
「大丈夫ですか」
この子は、銀城さん。
席が目の前だからおぼえたわ。
仲のいい子とは離れちゃったのかな。とっても大人しい子。私が教室に入ってきてすぐもだけど、誰かと話しているふうじゃなかったわね。クール、っていう印象。
「ありがとう〜」
手を借りて、よいしょと立ち上がる。
「頭、打ってませんでしたか。私が保健室から氷嚢もらってきますか」
あまりに真っ直ぐな視線に、すぐには言葉が出ずポカンとしてしまう。
「うふふ。恥ずかしいけど先生こういうこと日常茶飯事なのよ〜。だから大丈夫。ありがとうね」
「そうですか」
手を離し、席へ戻っていく。
さて、プリントを配らなくちゃ。
「せんせー大丈夫?」
「大丈夫よ〜」
みんなにも心配かけちゃったわね。こういうとこ、なんで治んないんだろうなー。
今月の行事や部活、回収物などの話を終えて、今日はもう解散。お腹空いてきちゃったな。
「ではみなさん、また明日会いましょうね。さようなら」
数人で固まって談笑を始める子。一人足早に教室を去って行く子。のんびり帰り支度をしながら、何やら悩み顔の子。
みんなはこれから部活動かな。それとも寮でのんびり過ごすのかな。私はもう少し、ここで仕事しなくちゃ。
「先生」
ほとんどの生徒がいなくなって静かになった教室。
最後に残ったのは銀城さんね。
「銀城さん。どうしたの?」
「すぐ職員室に行くんですか?」
「しばらくはここで仕事してるよ〜?」
「……そうですか。私、よく最後の戸締りをしてたので」
ああ、なるほど。
「大丈夫よ。先生がしておくから」
なんとなく頭に手を当てて、反射的にまた離す。あちゃー、さっきのぶつけたとこがたんこぶになってる。痛いなあ。
「お願いします」
「ええ。じゃあ、また明日ね」
銀城さんは返事はせず、その場でぺこりとお辞儀をして出て行った。
ふぅ、お腹すいた。持ってきていたポーチを開き、中からチョコを出して口に放り込む。カカオ89%。カカオ濃度の高いチョコは体にいいのです! 食べ過ぎるのは良くないけどね。小腹が空いた時の味方! ポーチにはチョコと飴をいっぱいに入れています。すぐお腹すいちゃう。痩せないといけないんだけどなー。
「……飴も食べよっと」
さ、仕事しましょう。
早めに終わらせて帰らなくちゃ。今日はこーくんの進級祝いの日だから。夜ご飯もたくさん作らないと。その前に華道部にも覗きに行かないとね。
何を作ろうかなー。お買い物していかなきゃ。
もっぱらご飯のことを考えながら仕事を進めていると、
「先生、」
「ぎ、銀城さん?!」
あー、新たに飴舐めてたのに! バレちゃった!
「こ! これは! えと! へっ??」
冷たいものが頭に当てられる。
「大丈夫かなと思って」
銀城さんが持っていたのは氷嚢だった。さっきは遠慮して断ったけど、心配してくれたらしい。
「ありがとう。たんこぶになっちゃったみたいで痛かったのよ。助かりました」
ホッとした表情をみて、少しびっくりする。あまり表情を動かさない印象だったから。そんなに心配かけてたのね。
「いえ」
「じゃあ、絶対内緒ね? これあげる。お礼よ」
今自分が食べているのと同じオレンジ味の飴を3つ掌に載せる。
「あ、でも恥ずかしいから、先生がこれを持ち歩いてるの、誰にも言わないでくれる?」
「……だったら、そうするかわりに私の話を聞いてください」
あー、こっちは別料金だった〜。でも担任なんだから、話を聞くくらいなんてことないわ。
「もちろん」
小町先生、お誕生日おめでとうございます!