異世界転生主人公達の運び屋 -トラック運ちゃん活動録-
何故だ──
「また……」
何故俺は──
「また……やってしまった……!」
◇◆◇
司馬光太郎≪しばこうたろう≫、39歳、独身。
彼女居ない歴がイコール年齢のどこにでもいる社会人だ。
俺がそうなんだ、お前らもそうだろ?
俺は最近ある悩みに頭を抱えている。
いや、頭を抱えるなんてレベルじゃない。
俺は──犯罪者だ。
だが好きで犯罪を犯そうなんて思ったとかそういう訳じゃない。
正直自分でもよく分からないんだ。
気付いたらそうなっていた……としか言えない。
「チクショウ!」
「あらあらコウちゃん、どうしたの突然? 飲み過ぎじゃない? 明日も仕事なんでしょ?」
行きつけのスナックで酒を浴びる程飲む毎日が続き、いつものようにその店で酒を飲んでいた時だ。
お店のママから突然声を掛けられた。
「あ?」
俺そんなに飲んでいたか?
ダメだ……わからん。
確かにこの店に通い始めてから飲む量は増えたと思う。
だがそんな事はどうでもいい、まだ飲み足りねぇ……今は酒を飲みたいんだ。
「いいじゃねぇかよぉ酒くらい! 俺は……酒がないとどうにかなりそうなんだ……」
「何があったか知らないけど……そんな辛そうな顔見たらほっとけないよ」
「ママは優しいなぁ……」
「そりゃあ優しいわよ。でもさ、コウちゃんが毎日ウチ来てくれるのは嬉しいけど、私心配だわ……何だか最近顔色悪いわよ? もしかして病気?」
「いや……病気とかそういうんじゃない……だたよ……」
「ただ?」
ダメだ、言える訳が無い。
"俺は人殺しです"なんてそんな事。
「いや、なんでもねぇ……悪いな心配かけさせて……今日は帰るわ」
「そう? 無理しないでしっかり休むんだよ?」
「ああ、ありがとう」
代金を払って店から出る。
その瞬間火照った身体を一瞬で冷ますかのような冷気を風が運んでくる。
「寒っ……なんだよチクショウ……」
今は冬だ。
地域が地域だけに雪こそ降っていないが、路上で寝てしまっては確実に凍死してしまう。
「……」
早く家に帰ろう。
そう思いフラつく足取りで歩き出す。
とはいえ店と家とは目と鼻の先だ。既に視界に俺の住むアパートは入っている。
「はあ……」
この溜め息今日で何回目だ?
数えるなんて事ハナからしちゃいないが、それでも自然と出てしまう溜め息に更に溜め息が出てしまいそうだった。
アパートの一階、道路から最も近いその部屋が俺の住む部屋だ。
外の寒さから逃げるように部屋に入ると早々にコートを脱ぎ捨て寝間着に着替える。
「明日の仕事は……確か午後からか……もう寝るか」
最近歳のせいか翌日まで酒が抜けきらない事が多い。
仕事にも支障が出るし、早いとこ寝て明日に備えよう。
そう考え、用を足して歯も磨かないまま即座に出しっ放しの布団に潜り込む。
「もう勘弁してくれ……」
自然に出た言葉だったが、これは本心だ。
何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……神様ってヤツが本当に居るなら呪ってやりたいくらいだ。
色々と思考は巡るもどれも支離滅裂で突拍子も無く、考えるのも面倒になってきた。
気付けば俺は眠りについていた。
◇◆◇
『……っぱり……な』
誰かの声が聞こえた気がした。
「……ん……」
夢を見ていたかどうかは定かじゃないが、意識が現実に引き戻され俺は目を開ける。
まだ視界はボヤけてハッキリしないが、身体には妙な振動が伝わってくる。
「なんだよ……これ……はあああああああああああ!?」
まただ、またきやがった!
一気に意識は覚醒し、自分が置かれた状況を確認する。
「ここは……まさか!」
この場所には覚えがある。
いや、覚えしかない。
何故ならそこは俺の会社で使っている資材運搬用トラックの中だからだ。
外はまだ夜か?
俺は寝ていた筈じゃ──
「クソ!」
起きた勢いで手放してしまったハンドルを急いで握り直し、ブレーキを踏む。
しかし俺の下半身は俺の思いに反してアクセルを踏んだままだ。
『う~ん、やっぱり転生するなら交通事故に遭わせるしか無いよなあ……』
頭の中に誰か知らないヤツの声が響いてくる。
「また……またこれかよ!」
いつからだろう、目を覚ますとこうしてトラックを運転している。
原因なんて解らない。
ただ確かな事は二つ、こういう時決まって頭の中に声が響いてくるんだ。
誰なのかも解らない。男だったり女だったり、若かったりそうじゃなかったり。
そしてこの場合決まって起こる事がある。
それは──
「頼む……足動いてくれ……! 頼むううううううう!!」
精一杯叫び、気合いで足を動かそうとする。
しかしその努力は虚しく身体は言う事を聞かない。
それどころか握ったハンドルは俺の意思に反して交差点を右に曲がった。
『そうだ、夜中コンビニに買い物に行ったニートの主人公が交通事故に遭うってのはどうだ?』
頭の中には相変わらず楽しそうな声が響いてくる。
しかしコンビニ? 確かここを曲がった先五百メートル先に確かコンビニがあった筈だ。
「そこか!? そこなのか!?」
半狂乱で身体を揺さぶり必死に抵抗するも、それでも動くのは頭だけで身体は全く動こうとしなかった。
トラックはスピードを速め、コンビニはもう二百メートル先という所まで迫っていた。
「あ……!」
一人の人影が道路へ躍り出た。
恐らく男、コンビニの灯りに照らされた外見からして学生だと思う。
全身ジャージ姿だと思う。髪型は……よくわからないが長くはない。
「止まれ、お願いだ、もうこれ以上はやめてくれええええええええ!」
俺は必死に叫ぶ。
『あー……でも流石に交通事故ってのは安易過ぎるかな?』
突然俺の足が急ブレーキを踏む。
「え……?」
突然停止するトラック。
俺は一瞬思考が停止したが、同時に身体に自由が戻ったのに気付くと急いで足をペダルから放す。
「助かった……のか?」
だが妙だ。
何かがおかしい。
この違和感は何だ?
そうだ、あいつだ、コンビニから出てきたこのガキ。
「何で……動いてないんだ……?」
違和感の正体──
それはコンビニから飛び出すように道路に出で、そのまま微動だにしないこの少年だ。
距離があるとはいえ急ブレーキしたんだぞ、普通見るだろ。
それに一切動く気配が無い。
『う~ん……』
またあの声が響いてくる。
「何だよ、一体何なんだよおおおおおおおおおおおおお!!!」
『うん、思いつかないや、やっぱり殺そう』
次の瞬間、俺の足は再びアクセルを踏みしめた。
「あああああああああああああああああ!?」
本来あり得ない程の時間で一瞬の内にトラックは加速し、目の前に立つ少年に接触する。
俺は正直目を開けていられなかった。
『よし良い感じ。あとは転生先の描写書き足して……と』
相変わらずあの声が頭の中に響く。
だがそんな事より、俺はまた人をはねてしまった……またガキだ……また男だ……。
そして結末はいつも同じだ。
「あ……」
急に意識が遠のく。
少年を轢いた事含め、これはいつもの事だ。
実際にこの場所で死亡事故は起き、犯人は不明、自社のトラックも無傷で車庫にある。
そしてこの事は俺しか覚えていない。
だが、この場所で確かに俺は人を轢いた。
この感触忘れる訳が無い。
忘れきれる訳が……ない。
目覚める時はきっといつものアパート、いつもの寝床で目覚めるだろう。
そして何も無かったかのように一日が始まるのだろう。
何だかどうでも良くなってきた。
はは、ははは──
そして意識を手放す直前、決まってヤツの声が聞こえてくる。
『よし、これで冒頭完成! これは絶対話題作になるな!』
うん、これは話題作になる(確信)
嘘です。ごめんなさい。