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9.これぞ魔族風海苔巻き

翌日、雄介に遊びに行けない旨を伝えエリアスの部屋にやってきた。3回目ともなれば場所も少しは把握できるようになった。

だが俺が部屋に入ったとき知らない人がいた。

メイド服を着用しエリアスの少し後ろに控えている大人びた長身の女性。


「エリアス、この人は?」

「紹介するわね。この人は」

「初めまして。ユアーラ・ギルベッカと申します」


第一印象は常識あり何でもこなしそうな人といった感じだ。

少々威圧感はあるがそれまたこの人の美を強調させている。

どうやら俺のことは既に伝えてあるようで俺を見ても特に何も言ってこなかった。

説明の手間は省けるが何も言わないのはまずいだろう。


「どうも麻薙暁です。ギルベッカさんはエリアスの専属メイドかなんかで……?」

「スーパーメイドです」

「は?」

「スーパーメイドです」


ギルベッカさんは真顔で表情を変えない。

いったいなんだスーパーメイドってメイドとどう違うんだ。

超サ○ヤ人みたいに変身でもするのか。


「あまり気にしなくていいから。ユアは普段は何でも出来て頼りになるのよ。譲れないものがあるだけで」

「………えー」


俺の第一印象は間違っていたようだ。

この人は本当に頼りになるのか。


「それで何でこの人がここに?」

「お嬢様のお部屋からドブネズミの匂いがしたので事情をお聞きしたまでです」

「ドブっ!?」

「暁、本当に気にしなくていいから」


もうやだこの人。

初対面の人を相手にドブネズミとか言うか普通?

スーパーメイドの件といいこれからは腹黒メイドと呼ぼう。


「今回のことを説明して厨房を一時借りることにしたのよ。私だけじゃ心許ないからユアにも一緒にって」

「そういうことなら別にいいけど。他に俺の存在を知ってる人はいる?」

「今のところはユア以外には誰にも話していないわ。そうじゃなきゃあなた処刑されるわよ?」

「………冗談だと受け取ろう」


処刑される言われは正直ある。

不法侵入に加えお嬢様へのセクハラ行為。どう考えても言い逃れできる状況ではない。

エリアスが何も言わないのは今のところ俺の利用価値があるからで価値が無いと判断されれば即処刑だ。

何としても家庭教師を全うしなければならない。


「もちろん家庭教師というだけで見逃しているわけではございません。人間界と魔界を繋ぐ扉。その存在だけでもかなりの価値がございます」

「ということは俺は仲介役みたいなものか?」

「その通りです。暁様には交渉人になってもらい今後魔界と人間界間の取り引き及び情報の交換をお手伝いしていただくつもりです」

「それって俺に拒否権はあったりする?」

「ありません。その気になればこちらから攻め入り人間界を滅ぼすこともできるのですから」

「冗談に聞こえないからやめてくれ。ちょー怖い」

「冗談ではありません。こちらがそのような行為を行わないのは不確定要素が多数あることと和平を望んでいるからにすぎません。旦那様と奥様は戦争が大のお嫌いで平和を主張するとても尊敬のできる方々です。ですので暁様にはどうか今の関係を継続していただきたいのです」

「そこまで言われて断るバカはいないし元からそのつもりだよ」


どうせ暇だから。


スーパーメイドのギルベッカさんに案内されて厨房に辿り着く。

道中で誰も見なかったのは偶然ではないな。


「流石は貴族の厨房は広いなー」

「こちらは奥様がご趣味で使われているお部屋で今回お嬢様が使用するにあたり許可を頂きました」

「これが趣味!?」


趣味にしては充分な広さの厨房でありもったいない気がする。


「で、これが材料?」

「アズワニーラとゴビラミ、そしてマルザクバタを取り揃えました」

「俺の知ってる魚類と違う。絶対に違う」


様々な食材が揃えられており名前を言われても区別が出来なかった。

聞いてみたところ赤身みたいなのがアズワニーラで水槽で何体か泳いでいるのがゴビラミ、全長2mくらいの大きさの魚がそのまま横たわっているのがマルザクバタ。

赤身とは言ったが青色と緑色の縞模様だったりヒレに電流が走っていたり全身から蒸気が出ていたりととりあえず普通ではなかった。


「アズワニーラって今の時期とれないと言わなかったか?」

「よく覚えてるわね。このアズワニーラは食材貯蔵庫から持ってきた物だから新鮮味はないでしょうけど味は保証できるわよ」

「こっちの黄色の米粒は?」

「米が何なのかは知らないけどそっちはユムと言って畑でとれるわよ。あなたが言ったものに近いものを選んだのだけど」

「……………とりあえずやってみるか」


ツッコんでいたらキリがないので調理を開始する。

だがここでようやく気づく。

調理が一番面倒だということに。


~~~~~


「ちょっ!なんか生臭い物体吐き出したんだけど!何これ!?」

「ゴビラミは危険が迫ると体内に溜めているいらない物を吐き出す習性がありますのでご注意を」

「それ糞のことじゃないよな!?違うよな!?」

「よーしこっちやりましょう」

「はいお嬢様」

「まじで!?見捨てないで頼むから!ぐえっ臭っ」


~~~~~


「ユア。やっぱり料理にタンパク質は必要よね?」

「そうですね。大事だと思います」

「それじゃあこれも一緒に使っちゃお」

「お前ら骨食うの?俺がおかしいだけ?」


~~~~~


「暁様。少々お尋ねしてもよろしいですか」

「俺が理解できる範囲でよろしく」

「アズワニーラをユムと海苔とやらと一緒に巻いたら溶けたのですがいかがしましょうか」

「理解に苦しむからどうにかしろ」

「代わりににマルザクバタを巻いたら分裂し始めたのですがどうしましょう」

「知らねーよ!どんな化学反応が起こったらそんな超常現象が発生するんだよ!」

「暁、ゴビラミを巻いたら発光し始めたわ」

「もう知るかっ!」


~~~~~


「「「…………………」」」


数時間かけようやく完成に至ることができた。


→ドロドロとなった海苔巻きの原型を止めていない物体。

→眩しく輝き食べにくい海苔巻き。

→10個ほどに分裂しサイズが小さくなった海苔巻き。


………………何これ。

ただ切って巻くだけの作業でなんでこんな異次元食品が出来上がるんだ。


「エリアス、お前一番食べたがっていただろ。食えよ」

「ユア。あなたにはいつも世話になっているのだからあなたが食べなさい」

「いえいえ。ここは言い出しっぺである暁様が食べるべきかと」

「「「……………」」」


結局皆で仲良く1つずつ口につける。

俺はドロドロの物体を。エリアスは発光する海苔巻きを。ギルベッカさんはミニサイズの海苔巻きを。


「「「………………(モグモグ)」」」


む、これはまた初めて食べる食感。ドロドロのはずなのに舌触りがザラザラで甘酸っぱい味のあとに塩辛い味が口の中に広がりまるでこれは


バタッ


「これ意外と美味しいわね。料理長に頼んでみるかしら」

「こちらもなかなか美味ですよ。少々大きさは気になりますがそこの目を瞑れば充分に食するに値します」


「えーと、その…………ごめんね暁」

「ご冥福をお祈りします」


俺はこのときアズワニーラは一生食べないと決めた。

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