7.マカイ DE ゴルフ
「雄介ーあーそーぼ」
「キモい言い方しなくていいから入れ」
昼飯を食べて雄介の家に遊びに来た。
雄介は俺を玄関で招き入れ部屋に案内してくれる。
と言っても何度も来たことのある家なのでどこにあるかはほとんど覚えている。
雄介の部屋に入ると異様な光景を目の当たりにする。
1枚1枚のトランプが交互に積み重なりピラミッドを形成している。通称トランプタワーが出来上がっていた。
頂上のラスト一段だけなくあと2枚で完成しようとしている。
「何これ」
「トランプタワー」
「どんだけ暇なんだよ!」
勉強しろよ!もしくは部活にでも行ってろよ!
しかも完成間近って頑張りすぎだろ。
「いやー頑張ったぜ?新記録の15段トランプタワー。これが完成したろツイッターに乗せておこう」
「それ崩壊フラグだけど大丈夫か?」
15段とか初めて見た。簡単な3段くらいだったら俺も挑戦して完成させたことはあるがここまで真剣になってつくろうとは思わなかった。
雄介が両手に2枚のトランプを構えトランプタワーに近づく。
「これで終わりにしてやるぜぇー!」
「セリフと行動がシュールで微妙に噛み合ってないぞ」
雄介が両手のトランプで最後の山を築こうとする。
その瞬間、俺は
「崩れろ雄介の努力の結晶ぉ!」
全力でドロップキックを食らわせた。
その結果トランプタワーは派手に吹き飛ばされ中腹から崩れ去っていく。
雄介が両手に握る2枚は飾ることなく意味の無い物と化した。
「お前何してくれてんじゃあー!」
「いやースッキリした」
「ストレス発散でこんなことしたのか!?鬼畜か!」
「1度でいいからトランプタワーを思いっきり崩してみたかったんだよねー」
「今じゃなくていいだろぉぉ!」
残骸と化したトランプタワーの成れの果てを手に握り雄介は絶叫した。
皆思わない?トランプタワー崩してみたいと思わないかな。
そんな雄介を尻目に静かに腰を下ろす。
そしてバッグの中から図書館で借りた漫画を読む。
雄介は俺を恨めしげに睨みながらトランプの片付けをし始めた。
俺は一旦漫画を読む手を休め声をかける。
「雄介」
「何だ」
「トランプタワーって…モロいね」
「お前ホントにくたばれや!」
雄介がトランプを片付け終わり俺の正面に座る。
そして今度はテレビゲームのコントローラーを持ち出してきた。
「テレビゲーム?」
「あぁ。先週発売されたばかりの『マカイ DE ゴルフ』だ!一緒にプレイしようぜ」
「随分奇抜なゴルフだなおい」
言うがいなや雄介がゲームを起動させる。
俺は嘆息しながらもテレビの前に座りコントローラーを手に握る。
テレビにタイトル画面が表示されバックに魔界とおぼしき背景が出て『マカイ DE ゴルフ』という言葉が表示された。
そういえばまだ家の中だけで魔界自体は見てないなーと思い出す。
そして適当にキャラ作成を行いプレイスタートとなる。
「ステージはどれがいい?」
「普通のステージでいいだろ」
「俺は《ヘル・パラダイス》がオススメだな!」
「それはどっちだ」
結局ステージに《魔界都市》が選択されゲームが始まる。
………………ステージ?
疑問には思いながらもゴルフがスタート。
最初は雄介の番から。
「俺に最初をとらせたことを後悔させてやるぜ………!」
「カップ遠くね!?いったい何㎞あるんだよ!」
「およそ5000yかな」
「聞かなきゃよかった!」
1yで99.14㎝だから5000yでおよそ5㎞。
これゴルフ?マラソンの間違いだよね?
テレビの画面ではすでにプレイスタートしておりプレイヤーA(雄介)がドライバーを構えていた。
だがこれは無理なんじゃないだろうか。
そしてフィールドも異様だった。
オレンジ一色の空。高い建物。そして赤黒い大地。
プレイヤーAの真正面には建物が連なっており越えるのは相当困難だと思われる。というか画面が建物の壁で埋め尽くされてるせいで建物の向こう側が全然見えない。
「無理ゲーだろこれ!」
雄介がコントローラーを動かしたと思ったら突然画面のプレイヤーAが赤いオーラを纏いだした。
「くらえぇ!必殺デストロイドライブゥゥ!!」
ドライバーを振り抜き放たれたボールはレーザービームのごとく建物を貫通いや粉砕して一直線に進む。
「はあぁ!?」
「説明しよう。デストロイドライブとは矢のごとく直線上に放たれ全てを粉砕してしまう一撃必殺の必殺技なのである」
「デストロイッ!」
5000yもあったはずの距離を瞬時に詰めていく。
障害となる建物を全て破壊してどんどんとカップとの距離を縮める。
そのうち開けた広場みたいな場所に行き着く。その中央にはカップが。そしてフラッグが揺らめいている。
「いけぇぇ!ホールインワンッッ!」
雄介が叫ぶ間にもボールはフラッグに向けて一直線に進んでいく。
そのままボールは進み進み………………
フラッグを破壊した。
「……………………あれ?」
雄介の呟きを他所にボールはカップを通りすぎ再び建物を破壊していく。
そしてしばらくして………ようやくボールがその速度を落とし地に着いた。
画面に表示された数字を見ると10000yと出る。
そしてプレイヤーB(俺)の画面に切り替わる。
「おい」
「なんだ」
「今の何?」
「説明しよう。デストロイドライブとは……」
「それはもういいわ!無茶苦茶すぎんだろこれ!どこの中学校サッカー集団だ!」
「魔界だからじゃね」
「魔界だからで済まされた!」
魔界はこれが普通なのか。俺はそこで家庭教師やらなければならんというのにこれでは死にに行くようなものではないか。
しかしよく考えてみればこれはあくまでゲームなだけで実際の魔界は別物だろう。そう信じよう。
「おい暁の番だぞ」
「え、俺?」
促され普通にドライバーを構え振り抜く。
手応えは良かったがボールの行く末は………建物の壁。
ボールは壁に当たって跳ね返りコロコロと転がる。
記録、5y。
「ショボッ」
「無茶言うな!建物という障害物が邪魔だしお前が破壊してできた穴を通すしかできねーんだよ!」
しかもその穴を真っ直ぐ通さなければすぐ物に当たり地面に転がってしまう。
やっぱり無理ゲーだこれ。
「ならば見せてやる!次は俺のターンだ!」
「少しは自重しろよ?どんどんとセリフが中二病化してきてるから」
「奥義!流星群っっ!!」
「奥義!?」
プレイヤーBをドライバーを掲げると頭上のオレンジ色の空から流星のごとくたくさんのボール(?)が特大の青白いオーラを纏って降り注いできた。
「説明しよう。流星群とはフィールド全てに頭上から隕石のごとく多数のボールを落とすという最強の技だ!これなら外さねーだろ!」
「最初から使えよ」
流星群その物と化したボールは地に降り注ぐ。その姿はまるで隕石のよう……。
ボールが地面に突き刺さった瞬間、画面が大爆発に覆われた。
「「は?」」
突然起こった現象に俺と雄介はコントローラーを握ったまま固まる。
ドゴォォ!やガッシャァァン!という音だけが響きしばらくして止む。
全面青白い色で覆われていた画面も少しずつ晴れていき、その悲惨な光景を映し出す。
かつて存在した建物は一斉存在せずクレーターだけがそこかしこに点在していた。流星群は隕石のようどころか隕石その物だった。
そしてその残骸の中には無様に倒れたプレイヤーAとBもいた。
少し遅れて画面にYOU LOSEの文字が浮かび上がる。
いつから格ゲーやってたっけ。
「すまん訂正する」
「…何を?」
少し溜めてから画面に続いて浮かび上がったGAME OVERの文字を見ながら言った。
「これクソゲーだわ」
そのあとは適当に別のゲームで遊び解散となった。
折角だからと思い『マカイ DE ゴルフ』を借りることにする。
そのとき雄介が「あれだけ罵倒してたくせに!?」とか言ってたが無視を決め込む。
というのもあのお嬢様の教材になればと思ったのだ。
オタク文化はともかくゲームはギリギリセーフだろう。
ただ『マカイ DE ゴルフ』はクソゲーだったので他にも持参して持ってくつもりではある。
家帰ったら家庭教師かー。めんどくせー。