6.図書館では静かに
翌日、GW初日。起床。
時計を確認すれば7:00だった。
まだ余裕あるな、と思い二度寝をしようとするも、わざわざ目覚ましまで使って早起きしたことを思い出し渋々起きる。
今日早く起きた理由は図書館に行くため。
時間がたくさんあっても足りない気がする。
俺が早起きをしたことに母さんがびっくりしていたがスルー。
「熱でもあるんじゃない?」と聞かれたときもあえてスルー。
母さんに午前図書館に行って午後友達の家に行くとだけ伝えると今度は「暁が図書館に行くなんて………」慌て出した。
俺も自分で驚いているのでこれもスルー。
足早に家を出て図書館に向かう。
途中ノートを買うことも忘れず購入する。
うろ覚えの道を歩いていくと図書館が見えてきた。
この図書館に最後に来たのは中学生のときに読書感想文の題材探しに来た覚えがある。
あのときはコピペしよっかなーとかも考えていたけど結局自力で何とかしたんだよな。俺偉い。
図書館に入りお目当ての物を探し出す。
ときどき読みたいと思える本も見つけついでに借りていく。
こういう機会でもなければ来ないからな。
「世界地図はこれでいいとして、文化とかはどうしようか……」
普通に考えて文化は国1つ1つで違うから説明していったらキリがない。
てか俺がめんどくさいよそんなこと。
それなら自分が慣れ親しんだ日本の文化でいいかと考える。
「日本の文化、か……。何だろう。料理に服装とかか?」
そのあたりを目安に探していると漫画がふと目に入る。
あ、漫画もありか。日本特有のオタク文化………。
いやダメだろそれは。オタク文化をなに正真正銘のお嬢様に教えようとしているんだ。
でも純粋に自分が読みたかったということもあり結局借りることにする。自分の欲に忠実であれ。
そのあとは料理本が置いてある家庭・料理コーナーを見て回る。
その中から和菓子や寿司といった日本らしい物を主に取っていく。一応ラーメンなどの人気ある定番メニューも借りる。
不思議なのが料理本を手に取ると実際に作ってまたくなってしまう。でもめんどくさいなーという思いもあり、やはり遠慮する。
次は服装類かなーと見る棚を変えようとする。
「あ、麻薙君?」
声のしたほうを向くと一人の女の子がいた。
俺自身女性の知り合いはそう多くない。寂しいことに男友達で満足している自分もいるし価値観が違うからいろいろとめんどくさいと思ってしまうからだ。あとはコミュニケーションの問題。
今だから言うとお分かりであろうが俺は極度のめんどくさがりである。
といった理由により声をかけられても俺が知らない女の子だった、ということはよくある。
だが今回は珍しいことに俺の知ってる人だ。
「本宮か。久しぶりー」
声をかけてきた女の子は本宮亜梨沙。
中一のときにいろいろあり友達になった女の子だ。ちなみに同級生である。
高校生になってからあまり喋っていなかったが向こうの様子は耳に入っていた。
というのも近年希に見る美少女というやつだ。中一のときは普通の容姿だったと思うが何かの心変わりか高校生になって一段と綺麗になって現れた。
元がいいから少し手入れすれば可愛くなりそうだなーとは昔思っていたがここまでとは思わなかった。
そんな容姿だから高校生になって一気に人気者になり告白さえあったと言う。
俗に言う高校デビューてやつだ。
それにしても入学して数日で告白するとはなかなか度胸があるというかなんというか………。
これで女の子のほうが腹黒かったら笑い物だが俺は知ってる限り本宮はかなりお人好しで優しい性格の持ち主だ。
どこの完璧ヒロインだこれ。
「やっぱり麻薙君だったんだ。こんなとこにいるなんて意外」
「それ親にも似たこと言われたよ……」
「ふふっ。相変わらず変わらないんだね麻薙君は」
本宮が微笑み短く切られた髪を掬い上げる。
その一つひとつの動作が人の目を釘付けにするものだったが俺は極力表面上に出さないように努めるだけに止まった。
いくら美人になったからとは言え中学生のときに話し慣れてしまったのだ。可愛いなーとは思うがそれ以上は何もない。
「変わったと言うなら本宮はかなり変わったよな。高校デビュー成功ってやつ?」
「そんなつもりじゃなかったんだけどね」
「早速告白したやつがいたとか聞いたけどどうしたんだ?」
「そ、そんなことまで知ってるの?」
「有名だからな」
どうやら本宮はあまり自覚していなかったらしい。
本宮らしいと言えば本宮らしいが無警戒ではないだろうか。
「告白は、その……断ったよ」
「まぁ入学したてで告白なんてされても迷惑だよな」
「それもそうだけど………」
本宮は言葉を区切ると少し俺に訴えるようにして見てくる。
あれか。そんなこと一々口にしなくてもわかってますよーてやつか。空気読めって言いたいのか?
確かにデリカシーがなかったな。プライバシーもあるだろうし。
「それともあれか。本宮の場合男の子に求めるハードルが高かったりすんの?」
「う、うーん。まぁそうとも言うのか、な…?」
「へー例えば例えば?」
「き、気になるの?」
「本音を言えば人の恋沙汰は聞いてて飯の足しになる」
本宮が少しガッカリしたようにため息をついた。
少し露骨に本音を洩らしてしまったか。流石に人の恋沙汰騒ぎを楽しむというのは悪趣味だよな。
でも面白いじゃん。特に振り回されてるところとか。
「えーと、どこか芯があって…」
「ふむふむ」
「あまり自己主張しないけど自信は持ってて」
「ナルシストは嫌だもんな」
「少しめんどくさがりで」
「それマイナス要素じゃね?」
「か、過去に黒歴史を持ってる人とかかな!」
「お前は男に何を求めてんの!?」
前半はいいよ別に。誰もが同意見だろうから。
後半は絶対におかしいだろ。めんどくさがりって何だ。
マイナス要素以外の何物でもねーよ。
そして黒歴史はとうとうイカれてる。
人の心の傷を抉って楽しむドSなのかね君は。
「確かにこれはいろんな意味でハードル高いな…」
「そんなに?」
「東京タワー並にたけーよ」
このハードルを飛び越えられるやつは一生かけても現れないと思う。いやいたとしても名乗り出たくない。
誰が好き好んで黒歴史晒すんだよ。
「…………わからない?」
「少なくとも同意はできないな」
「そうじゃなくて」
俺が頭に?を浮かべると本宮がどこか諦めたように再びため息をつく。
いや本宮さんや。そんなハードル越えられるやつはいないから早急に諦めたほうがいいって。
というか特殊な趣味はやめようぜ。
そういえば黒歴史と言えば今となっては空かずの扉になってしまった部屋にある黒歴史どうしようか、と思い出す。
こんなことになるんだったら早めに処分すべしだったなーと思い直し悔しさが滲み出る。
「ところでどんな用事で図書館に来たの?」
「突然宇宙人が現れて俺に日本のことを教えてくれって言い出したんだ。それで参考資料になれば、と」
「嘘だよね?」
事実を少し曲げて伝えてみたがそりゃあそう思うわな。
それなら少し現実味のある嘘を。
「親に頼まれてさー」
「嘘だよね?」
「なぜわかる!?」
バカな!現実味あるよねこれ。
嘘発見器かなにか持っていらっしゃいますか。
「もしかして外国人の人と知り合いにでもなったとか?」
「あーあながち間違いでもないか……?」
外界人とは言えない。国どころか世界の境界線があるなんて言えやしない。
「……………女の子?」
「そうだけど」
ここは本当のことを言ってもいいだろうと思い肯定の意を示す。
すると本宮はどこか不満そうに目を細める。
お?もしかして外国人ではなく外界人と気づいたか。
「ナンパでもしたの?」
「誰がするか!俺にそんな甲斐性がないことくらい知ってるだろ!?こんなこと言わせんな!」
「どうだか」
本宮は一向に機嫌を直す様子を見せない。
これは本気でナンパだと思ってるのか。ちょっと心外すぎるんですけど。俺そんなことまず無理だから。
特性:人見知りを持つ俺にはできないから。
「………………明日買い物に付き合ってくれたら信じてあげる」
「そんなんでいいのか?」
「それでいいの!」
本宮の態度にはどこか棘があるが一応は交換条件でなんとかなりそうだった。
それにしても買い物と来ましたか。これ重たい荷物を持ってとか定番のパターン?ラブコメ王道か。
「館内では静かにしてください」
後ろを振り向くと係員の人がいた。
図書館にいるということを忘れ大声になってしまっていた。
「「すいません」」
「これだから最近の若者は私情で行動して」
「あはは………」
「イチャイチャしてんじゃないわよ」
「それは私情以外の何と言う!?」
この係員の人彼氏いないのか。美人なのに。
ちょっと居たたまれなくなり図書館から出ることにする。
とりあえず今ある分だけ借りることにした。
服装関連の本は次でもいいだろう。
図書館を出る際例の係員から有り難いお言葉をいただく。
「リア充爆発すればいい……」
「ドロッドロの私情っ!」
スルーを決め込むことにする。
これからも図書館は利用させてもらうつもりなのに来にくくなるなぁ。
「あ、あのさ麻薙君。連絡先交換しない?買い物の打合せもしたいし……」
「それもそうだな」
本宮とは連絡先を交換し別れる。
このあとは昼飯食べて雄介の家に行く予定だ。