5.GWは明日から
結局、無事に家に帰ることができた。
散々道に迷ったりもしたけどドアを開けてたおかげで目印となっていた。
そして俺は家に帰るなり外へ飛び出す。
ドアから入れば魔界に繋がるが窓からだとどうなっているかの確認のためだ。
実際に確認してみたところ窓から部屋の中は確認できた。
部屋の中は俺の記憶通り段ボール箱が積み重なっており放置されているのがよくわかる。
この部屋は元々3つ上の姉の部屋だったのだが今は大学生となり下宿している。
だからこの部屋は誰も使うことなく放置されていた。
俺は部屋に戻ると一息つく。
短時間だったが中々に濃い内容だったとは思う。
なんたって魔界だ。想像を遥かに越えることばかりで脳が追い付いていかない。
まさかラノベでしかないようなことが現実で起こるなんて考えもしなかった。
地震の件はフラグだったのか。
……………………。
よく考えてみれば充分関係性はありそうだった。
なんたってバカげていたはずの予想―異世界との遭遇が実現しているのだから。
つまりこれまでの地震は部屋のドアが魔界に繋がる予兆だった、と推測できる。
「…………ま、推測の域は出ないか」
とりあえず今後について考えていかざるをえまい。
まずこれからすべきことは
①親か友人に報告
②今回の件を政府に伝える
③宣言した通り家庭教師をする
④ドアの破壊
⑤無視
まず⑤は無しだろう。
このドアはこちら側だけでなく向こうからでも出入りが可能なのでいざとなったらエリアスがこっちに来ることだって有りうる。
最悪なのは真実を知らない家の人が間違ってこっちに来てしまうという事態。これだけは避けたい。
次に①は、協力者は欲しいが下手に拡散はできないな。
もし情報が漏洩してしまえばマスコミどもが家に流れ込んできて大変なことになる。
よくて嘘だろ、とスルーしてくれることだが悪いパターンは家が封鎖されること。
そして最終的には魔界と大戦争なんてシャレにならん。
②も同じ理由で却下だな。
④は俺の願望。ここまで非現実だと現実逃避したくなるのだ。
でも割とかなり良い提案とも言える。唯一の魔界との繋がりであるドアを破壊してしまえば全てを無かったことにできるからだ。
しかしドアを破壊とか流石に抵抗がある。というか親の説得ができない。
最悪な事態は破壊しても何かしらの不可思議現象、例えばゲートとかで繋がりが途絶えない場合。
以上の理由でドア破壊も無理。てかやだ。誰も壊したくないでしょ。
というわけで残ったのが③。
家庭教師に就任する。
「でもあのときは勢い半分で引き受けちまったんだよなぁぁ…」
あのときの俺はどうかしていた。
興奮状態に陥り結構危険な行動をしていた(した)。
でもこれはこれで悪くない提案ではないだろうか。
家庭教師をすることでこっちの情報と引き換えに魔界の情報を手に入れればいい。あわよくば友好関係を築いて魔界での地位の確立。
あれ?ホントになかなか良いことではないか。
問題なのは俺が「教える」ということだが、日本での常識をちょちょいと教えればいいだろう。うん。
あとはドアの管理だな。
1本しかない鍵は回収したから親も出入りはできない。
だが向こう側からとなるとどうだろうか。同じく鍵が掛かっていれば安心だがそうではなかった場合何かしらの対策が必要ななってくる。
「ま、それはあとでエリアスと相談するか。あとは……家庭教師としての務めを果すか」
必要な物はなんだろう。
日本だけじゃなくて世界全体から教えるべきか。それなら世界地図とか地理の参考書、地球儀………はいらないな。
やっぱり気になるところとしては文化の違いだろうか。
それならばそれについての資料も用意しよう。
これだけの物を揃えるなら図書館を利用したほうがいいかもしれない。家に置いてある分では流石に心もとない。
明日は図書館に行くことにしよう。
ちなみに時間帯については既に打ち合わせはした。
16~17時頃でいいそうだ。幸いなのが時間に関しての認識が人間界と魔界で全く同じだった。
1日24時間。1年365日。もちろん朝もあれば昼もあり夜もある。季節は存在しなかったが時間が共有されているのは嬉しいことだ。
とても楽。
そのときスマホに着信が入る。
思考が途切れた形になるが表に出さず電話に出る。
「もしもし?」
「よ、暁ー。早速だけど明日遊ばね?」
この声は雄介だ。
人の気も知らずにぬけぬけと、と思うが学校でそんなことを言っていたなと思い当たり考え直す。
今日は魔界の印象が大きすぎて少し疲れてるから遊びに誘ってもらえるのは正直嬉しい。
「おーいいよ」
「よっしゃ!明日朝から俺ん家に来いよ。暇なんだ」
「あー、ごめん。午前は用事があるから午後からな。それにあまり多くは遊べないかも」
「えーなんだよつれねーな」
雄介が残念そうに言う。
午前中は図書館に行って資料を集めておきたい。自分で覚えている範囲では限りがある。
そしてあまり遊びに時間を費やせない、というのは言わずもがな。
そのまま少し雑談を交え話は地震へと移る。
「そういえば今日は珍しく地震なかったな」
「いいことじゃないか」
「だけどよ、1ヶ月前から毎日続いていた地震が急に途切れると………なんか不吉?」
「妙なフラグを立てるのはやめろ」
雄介の言う通り1ヶ月ぶりにこの町に地震が来ることがなかった。
良いことのはずだが嫌な予感しかしない。
例えば魔界と接触するとか。
「これはもしかしたらとうとう異世界と俺たちの世界が繋がったのかもしれねーな!」
「かもなー」
繋がったのは魔界です。
「そして獣人のケモミミ!そして女聖騎士!果てには女王様まで!夢が膨らむわー」
「そうだなー」
いるのは魔族です。貴族もいますがあくまで魔族です。
雄介に真実を伝えたい衝動に刈られるがなんとか自重する。
この男なら魔界だと知っても虎のごとく一瞬で俺の家に乗り込んでくるからだ。こいつはそういう男だ。
「あ、でも勘違いするなよ!もちろん可愛ければ魔界でも全然オッケー。可愛いい悪魔なら全身を使って受け止めてやろう」
「がんばれー」
何を勘違いしろと。
だがセリフが的を得ているために笑えない。
無自覚な天然って恐ろしい。
あ、そうだ。ついでに確認してみよう。
「もし魔界が存在したとしてそいつらが筋肉マッチョマンとかの場合は?」
「コロス」
雄介の言葉の端から黒色のオーラが見えてくるようだ。
こいつを魔界に連れてくのだけはやめよう。いるのかどうかは知らないが少なくとも危ない行為はする。
人のことは言えないが。
「おっと、そろそろ晩飯食うわ。それじゃまた明日な」
「おう。またなー」
雄介との会話を終え通話を切る。
時計を見ると既に晩飯時だった。おれも食べようと思い1階に下りる。
「……………あ、ノート忘れてた」
明日の予定にノート購入が増えた。