3.女の子を口説いてみましょう
「え?」
思わず聞き返してしまう。
後ろを振り返るが暗闇でよく見えない。
そのとき光が生まれた。あまり強くはない光だったが、少し目を細めその光の根源を見る。
どうやらランプの光のようだ。だがスイッチのような物はなく、機械的な様子は見受けられない。
そうして、そこでようやく人がいることに気づく。
ランプで照らされるのは、少し豪華なベッドに上体だけ起こして座っている少女。赤く長い髪は少しボサボサだが、色の輝きは失わずどことなく清潔感を滲ませている。
服装は白色のワンピースみたいな服を着ている。
服については詳しくないからよくわからないけど、状況的に寝間着だろうか。
そんなラノベでしか見たことのないような少女は、こちらを少し警戒した表情で見つめてくる。
なぜだ、と思い状況を客観的に見てみる。
もしかしてこの部屋、この少女のプライベートなやつ……?
思考がそう導き出した瞬間、頭の中で最良の言い訳を探すが咄嗟で無難な言葉しか出てこない。
とりあえず会話をせねば。
「え、あーその。決して怪しい者じゃなくて」
「………………(ザザッ)」
おかしい。警戒度が上がったぞ。
声かけるだけで警戒されるとは……これは人見知りの特性だな!
いや違うな。自分の知らない人が怪しくないアピールをしたら犯罪者にしか見えないな。
なら言い方を変えてみよう。
ここで家の人を呼ばれては敵わないので説得を試みる。
「そう!君の家の人に見つかりそうになっただけで」
「………………(ザザザッ)」
余計警戒された!それどころか犯罪者を見る目してる!
少女の瞳はもう犯罪者を見る目のそれでむしろ嫌悪感を出してさえいる。
なんでだ何が原因なんだ。
今の発言にそんな犯罪者みたいなところは無かったとは思う。
違いますね。
聞きようによっては完全な犯罪者ですねこれ。
黙っていたら状況は悪化するばかりなので再び説得を続行する。
だが下手なことを話しても通じないのは身を以て理解している。
それならば絡め手はどうだ?
この少女、俺の勝手な見解だけどおそらく世間に疎いタイプだ。
あとから考えてみれば明らかにおかしいと思われる思考回路だが、焦っていた俺はそのことに気づかなかった。
「えっと、そ、そういえば君は容姿が整ってるよね。なんというかお人形のような美しさと繊細さがよりそれを際立たせていて………」
言ってからようやく気づく。
あ、これ死ぬやつ。
言い訳がダメだからってナンパに走るバカがいるかぁあ!
俺だぁあ!
考えてもみてほしい。
勝手に知らない人が部屋に入ってきて少女を口説くこの光景。
弁護士にしてもこれほど弁護が難しい状況はないんじゃないか。
訂正しようと口を開く。
が、そこでまた別のことに気づく。
何故か少女が何も反応を示さないことに。
少女の様子をよく見る。
少女は顔を赤く口をパクパクしていた。
「い、いきなり何を言ってるのよ!バ、バッカじゃないの!?」
速報、デレた ラノベ美少女がデレた。
ラノベ美少女はツンデレだった。
もしかしたらこの路線で合ってたのだろうか。
ならばもう少し褒めまくれば誤魔化すのも夢ではない。
と思ってた日もありましたよ。
「だ、誰か呼ばないと……!」
前言撤回、これ死ぬやつ。
少女はこのタイミングで冷静になったのか立ち上がり誰か呼ぼうとする。
そして俺はそれをさせまいと少女の口を手で抑える。
少女が表情を変えるがお構い無し。
ここで引き下がれば社会的生命、下手をすれば物理的生命が終わる。ここは譲れない。
もちろん少女はやられるがままにはならず暴れて抵抗を見せる。
わかってる!今俺がやっていることは犯罪者で間違いないことはわかってるけどせめて今だけは許して!
心の中で謝罪をして暴れる少女を止めにかかる。
だがその瞬間足で何かを踏んでしまい思いっきり滑らせる。
そしてそのまま少女を巻き込みベッドに倒れ込む。
「ん、んなっ………!」
至近距離で見つめ会う二人。
お互いの頬は上気し息づかいも荒くなる。
吐息も感じ良い香水の臭いもしてくる。
だが何よりも気になるのが右手に感じる柔らかい触感。その触感に思わず握るように動かすと心地よい感触が返ってくる。
それと同時に身をよじらせる美少女。
なんということでしょう。
不法侵入の犯罪者から、少女をベッドに押し倒し胸を揉む変態に様変わりです。
やってしまったっっ!!
ラノベ主人公しか持っていないはずのラッキースケベスキルをここで発揮してしまった。
人生終わった…………そう思った瞬間である。
そんな覚悟をしていたからこそ少女の態度に疑問を持つ。
なぜか目を閉じて動かない。
「あー、えっとその。だ、大丈夫かな……?」
「っ!」
体を強ばらせる少女。
これはあれでしょうか。やっちゃってOKなやつ?
いやいや冷静になれ俺よ。これ余裕でアウト、言い逃れどころか一文字の反論も許されない状況に陥ること必至だ。
俺はゆっくりと手を放しベッドから離れる。
そして全力の謝罪をするべく行動に移す。
「え、あ…………何やってるの?」
日本式全身全霊最高級謝罪 THE土下座。
俺はこれ以上の謝罪を知らない。
「すみませんでしたぁぁあ!少し道に迷っていただけなのに美少女のアレなプライベートルームに侵入した挙げ句」
「アレって何!?ここ寝室だから!それに美少女って……」
「どさくさに紛れて胸を揉むしだいて性欲を弄んだこの罪。かなり重いものと受け止めております」
「もう少しオブラートに包んでよ!あなたは私を貶したいのかしら!?」
「健全、いや今は汚れし美少女がいるから不健全か………不健全な日本人として深くお詫びいたします」
「殴られたいのね?そうなのよね?」
おかしいな。一応フォローのつもりで美少女と言ったのに、俺に対する評価が更に下がった。
さすがに不健全な日本人のくだりはいらなかったかな。
美少女が何かに気づいたような反応をみせる。
「ちょっと待って。今何て言ったの?」
「汚れし美少女?」
「そこじゃない!」
これじゃないというと………あ、あれか。
「不健全な日本人として……」
「はいそこ!」
「どこだよ」
「あなた、もしかして人間なの?」
…………………………。
「当たり前だろ!?」