2.不法侵入は立派な犯罪です
「えーと、これはあれか俺の幻覚か」
とりあえず今見た光景を拒否したかった。
1回ドアを閉める。後ろを見れば見慣れた家の壁。
うむ。間違いなく俺の家だな。
そして再び空き部屋のドアを開ける。
そしてまた先程のどこぞの城かと思わせる洋風建築。
どうやら幻覚ではなかったらしい。
後ろは普通の家の壁。正面は綺麗な装飾の壁。違和感しか残らないこの異様な光景はこのドア1枚を境界線に実現している。
「こ、これはどこでもドアなのか……?」
思わず非現実的な発言をしてしまう。
もちろん俺の疑問に答えてくれる声はない。
解決案の1つで母さんに伝えるかと考えてみる。
正直このどこでもドアは俺一人で何とかなる問題ではないからだ。
でも母さんに伝えたらそれはそれで大変だ。
母さんは若干天然が入り交じってるから事が大きくなるのは想像に難くない。
まずそもそもこの空間自体もおかしい。
まず部屋のはずなのに通路に様変わりしてるうえ大きさが部屋を容易に越えているのだ。
どう考えても異常だ。
そろそろ本気でどこでもドア実在説を検討したほうがいいかもしれない。
「(いやいや落ち着け俺。それは完全に末期症状ではないか。今は冷静に情報を集めるべき。そうだろう?)」
どうやらありえない現実に俺は相当頭が麻痺していたらしい。
少し深呼吸をし心を落ち着かせる。
俺はいつも(?)の冷静さを取り戻したあと、ある方法を思いつき強引に現状を受け入れようとしてみた。
具体的に言えば頬を指でつねった。
「………………………痛い」
なるほど痛いな。つまりこれは夢ではないと。
…………………とうとう本格的に頭が狂ってきたな。
まだ夢の可能性を残していたとは自分でも呆れる。
一人で悲しいボケとツッコミをやりつつ決意を固める。
「とりあえず探索してみるか」
探索することを決める。
そのためにまずはドアは閉めずに開けた状態にしておく。
このドアは通路側から見るとサイズだけが同じで全く別の見た目になっており違和感が生じる。
そしてこの通路には、同じ見た目のドアが多数存在するため初見の俺は絶対に迷う自信があった。
そのために迷わないための手段だ。
まずは左方向に歩いていく。
壁には様々な絵画や花瓶が廊下に立て掛けられてる。
こうしてみると改めて異世界っぽいなぁと実感する。
もしかしたら地球ではないという可能性も検討したほうがいいだろう。
いやできれば検討したくはないが目の前で起こったことが非現実なため可能性は無くもない。
「ん?」
正面に何かあるのが見えた。
しばらく歩くと正面から足音が聞こえてくる。
思わず足を止めて前方を確認する。
そこでは顔はよく見えないが二人の人が顔を向けあって話しているのが見てとれた。
その様子を見たとき声をかけようかと考えた。
だがよく考えてほしい。
知らない人が自分の家の中をさ迷っているこの状況。
有罪判決は逃れられない。絶対に。
焦って何か隠れるところがないかと周りを探すがドアしか存在せず隠れるところなんかあるわけがなかった。
「それであれはどうしましょうか」
「そうですね…」
話し声が聞こえてくる。
幸い向こうは話に夢中で俺の存在に気づいてはいない。
話し声を聞く限り話し声は日本語だった。
そしてその声はどんどんと近づいてくる。
余計に焦って咄嗟に近くにあったドアを開ける。
音も最小限に抑え部屋の中に入り込みドアを閉める。
その際に少しだけ部屋の中を見てみる。部屋の中は暗かったのでよく見えないが物置部屋だろうか?
ドアに耳をくっ付けジッと待っているとドアの目の前を歩く音が聞こえる。
そしてそのまま遠ざかっていき………完全に聞こえなくなったところで緊張を解く。
「よかったぁぁ……………」
本当に危なかった。
もし見つかれば捕まり何をされるかわかったもんじゃない。
最も最悪なのはドアが俺の家と繋がっていることに気づかれた場合だ。それはもう取り返しのつかないことになる。
向こうが話に夢中になっていたとはいえよくバレなかったもんだ。
そこまで考えていたせいだろうか。誰かがいることに気づかなかったのは。
「あの、誰ですか………?」