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11.魔族の御令嬢が日本に来た

食器の後片付けも終わり場所を移動する。

いつものエリアスの部屋とは別の客間のような部屋に連れてこられた俺たちは各々ソファーに座る。

ギルベッカさんがいつの間にか淹れてくれた紅茶を飲むがこれがうまい。

ちなみに味が紅茶だったので紅茶と表現したが見た目は灰色。


「これからはこの部屋で家庭教師の仕事をしてください。お嬢様のお部屋に上がらせるなどぶち殺したくなります」

「何度も部屋にお邪魔してるんだけど。俺死ぬの?」


気持ちも分からんでもないからまぁいいか。

場所もちゃっかり例のドアの隣の部屋だったから間違いようがない。

例のドアに関してはギルベッカさんが責任もって管理してくれるとのこと。有り難いです。


「暁はこのあと用事あるって言ってたけどどんな用事?」

「友達と買い物に行く約束だよ」


午後は本宮と買い物に行く約束をしている。

今よく考えればこれってまるでデートではないだろうか。

そう思うと緊張してきた。


「…………女の子?」

「そうだな」

「ふぅ~~ん」


エリアスは紅茶を飲もうとカップを口につけるがそれもう紅茶飲み干してなかったか?

それにすら気づかずずっと飲むフリをし続けるエリアスは中々シュールだった。

それにしても本宮の時も思ったが女の子って性別とかそんなに気にするのか。


「ねぇユア」


エリアスはギルベッカさんの耳に近づきこそこそと話し出す。

これはあれだ。絶対に何か企んでいるやつだ。

ギルベッカさんが驚いた顔をするとエリアスはニヤリと笑う。

そして俺と改めて対面すると。


「その買い物。私もついていってもいいかしら?」

「………………………は?」


そんなことを提案してきた。


今何て言った?


「その買い物。私もついていってもいいかしら?」

「ナチュラルに心読んでんじゃねぇよ。魔術か」

「私は昔から人の表情から心を読むのが得意なのよ」

「なにそれ怖い」


て、そうじゃない。


「正気か?引きこもりのお嬢様が買い物についてくるとそう言ったのか」

「ひ、引きこもりじゃないわよ!何の根拠があってそんなこと言うのよ」

「私服を持たない人は全員引きこもりだと思います」


むしろ根拠しかないから。

絶対にこのお嬢様引きこもりだから。


「それに何のメリットがあるんだよ。俺はお前の家庭教師をするために魔界には来るがお前が人間界に来る意味はないだろ」

「それについては私から説明しましょう」


そこへギルベッカさんが割り込んできて話を引き継ぐ。


「私たちが人間界に行くメリットについてはいくつかあり1つ目が貴方を通してではなく直に人間界の情報を見て学べるという利点。そして2つ目が女の子と買い物に行く暁様を見て楽しむという娯楽。これだけメリットがあれば多少のデメリットには目を瞑りましょう」

「2つ目はギルベッカさんが見たいだけですよね?娯楽気分でいますよね?」


この人はどこまで腹黒いのか。

さりげにギルベッカさんまで人間界に行く気満々か。


「~~~~っ!それじゃあ極力目立つような真似はしないでくださいよ。文化が違う分下手な行動は人の目につきますから。うまくいけば外国人で誤魔化せますけど人間界では俺の指示に従うこと。OK?」

「やった!」


妥協案を出すとエリアスがガッツポーズをとる。

俺を家庭教師にしてまで人間界のことを知ろうとするこいつのことだ。人間界に行くというのはアイドルに会えるという感覚に等しいのだろう。


「それじゃまずは俺の家に来るか。幸い今日は俺一人なんでバレる心配もないし」




部屋を出て隣のドアから自分の家に戻ってくる。

いつもと違うのは今日は魔族が二人一緒にいるという点だ。

そんな二人は俺の家を物珍しそうに見渡している。

まるで子供みたいだ。


「「狭っ」」

「そりゃぁあんたらの家と比べたらどの家だって狭いだろうよ!」


中身は全然子供じゃなかった。


「それじゃあ俺は部屋に行って必要な準備をしてくるから二人は階段を降りた手前で待っててくれ」


俺がそう言うとエリアスが目を輝かせている。

その目が訴えている。私も部屋を見てみたい、と。

俺は少し迷った後、自分の部屋の前まで来る。もちろん後ろにはエリアスがいる。

そして俺は


ガチャ。バタン。


一瞬で開けて中に入るとドアを即閉めた。もちろん鍵も閉めるオマケつき。鍵がなぜ部屋についているのかという説明は後回しにしてドアの向こう側にいるであろう少女に話しかける。


「そう簡単に俺の部屋を見せると思うなよ!」

「ズルくない!?私の部屋は見といて自分の部屋は見せないとかズルくない!?あなたがそのつもりならいいわ!私の氷の魔術を見せてあげる!」

「おまっ人の家で何ぶちかます気だ!」

「"クールフロア"!」


閉めたドアの隙間からなにやら靄のようなものが部屋に流れ込んできた。

そしてその靄が部屋中に行き渡るとその効果が発揮される。


「寒っ!何これ冷気!?」

「冷気を一定空間内に充満させる魔術よ。これで観念なさい」

「魔術の無駄遣いっ!」


部屋中に行き渡った冷気が自分の肌を刺激する。

これは寒い。しかしここで開けたら最後、俺の部屋に侵入されることに……!


「なかなかしぶといわね。こうなったら"アイスエイジ"を使うしか………」


超物騒な言葉が聞こえたんですけど!?

慌ててドアを開ける。目の前には両の手のひらを前にかかげているエリアスが佇んでいた。

何しようとしていたのかな君は。


「わかった。わかったから魔術を使うのはやめろ。我が家を隣人も驚愕するビックリハウスにしようとするんじゃない」

「何よ。ちょっと凍らせるだけなのに」

「充分に凶悪だ」

「まあいいわ。それじゃ中に入らせてもらうわねー」


勝手に部屋に侵入していくお嬢様。

エリアスは貴族なのに礼儀というものが欠けている気がするぞ。

エリアスが部屋の中に一歩足を踏み込むと。


「寒っ!?」


お前が寒くしたんだろ。




部屋からエリアスと冷気を追い出すことに成功した俺は簡単に準備を済ませ1階に降りる。

冷気を追い出すために窓を開けてしばらく換気する手間ができたが少しは冷気が緩和されたとは思う。

1階に降りるとエリアスとギルベッカさんが立って待っていた。


「お待たせ。ところでお前ら本当に来るのか?」

「ダメなの?」

「当たり前だろ。自分たちが魔族だということ忘れてないだろうな。バレたら一発でアウトだぞ」

「大丈夫よ。一見してみると外見は人間とそう大差ないでしょ」

「服装は問題大有りだけどな」


エリアスのさも生まれが良いと表現しているかのような綺麗な貴族の服にギルベッカさんのメイド服。

この格好で町を歩けば100%目立つ。


「それならば【幻影】系統の魔術を使用しましょう。周りからは極自然な格好をしているかのように見えれば問題はないですね?」

「……便利だな魔術」

「よし、そうと決まれば早速行きましょう!………ごめんなさい。その前にお花を摘みたいんだけど」

「そっち曲がった先にあるからさっさと行け」


エリアスが大急ぎでトイレに向かった。

トイレに行くだけでもどこか気品のある振る舞いは貴族の育ちだからか。

俺とギルベッカさんが残され会話が無くなる。


「暁さん。先にお話したいことがあります」

「何ですか?」

「お嬢様の、友達になっていただけないでしょうか?」

「どういうことですか?」

「お嬢様は暁さんの知っての通り引きこもりです。故に永遠のボッチです」

「本人が聞いたら泣きますよ!」

「お嬢様がお部屋にいる間の様子はとても見てられないようなものでした。毎日ベッドに横になり服を脱ぎ散らかしては私が洗濯をし、これが食べたいと言えばご用意差し上げたり」

「めっちゃ甘やかしてますね!」

「そして毎晩泣いておられました」

「…………………」


散々ツッコませといて重い話を持ってくるとかズルくね……?


「それを私はコッソリと横顔を覗き込むことしかできませんでした」

「コッソリどころか近寄りすぎでしょうよ」

「だから私はいつか仲のいい人を見つけて欲しいと常日頃思っておりました。…そこに現れたのがあなたです。暁さん。あなたがお嬢様の家庭教師をすることを決めたその晩、お嬢様はとても晴れやかな表情をしておりました。あれほどの優しい表情は初めてです」

「…………………」

「そんなあなただからこそお願いします。家庭教師として、そして…友達として傍にいてくださいませんか?」


ギルベッカさんが微笑みながら語りかけてくる。

…ギルベッカさんや。

俺の心の中は罪悪感でいっぱいです。


「(俺、犯罪者なんですけど!?)」


まるで運命の人みたいに言われたけど犯罪者の間違い。

皆はお忘れかもそれないが元はと言えば俺はエリアスの部屋に侵入した挙げ句事故で胸を揉んだただのセクハラ野郎。

弁解の余地もない。

本来エリアスを守る立場であるギルベッカさんに友達になってくれだなんて言われたら罪悪感が物凄いことに。

もちろんそんな俺が断ることはなく。


「言われるまでもないです。今となっては只の仲のいい友達関係ですよ」


実のところ本気でエリアスのことは友達だと思ってる。

嘘を言うつもりはない。


「いいのですか?あなたは人間。私たちは魔族。種族の差というのはあなたが想像している以上に大きなものです。もし軽い気持ちで言っているのならお嬢様との縁を切っていただきたい」


いつも真面目な表情をするギルベッカさんがいつも以上に真剣な表情をして俺を見てくる。

え〜と、これ真剣に答えなくちゃいけないのか……?

シリアス苦手なんだけど。

自分で精一杯の真剣な表情をする。


「一応家庭教師として言わせてもらうなら…友情、あまり甘く見ないほうがいいですよ。身分や種族の差があろうと無かろうと物理的に離そうとしても、気持ちが変わらない限りは縁を切ることなんてできやしないんですから」

「……………そうですか」


ギルベッカさんはどこか満足そうだ。

一々言わせんなよこんなこと。恥ずかしくて悶え死にそうなんだけどどうしてくれる。

これだからシリアスは苦手なんだ。恥ずかしいセリフを平然と言わなくちゃならないのだから。

少し無言が続きエリアスが戻ってくる。


「さあて、それじゃ行きましょ…………何かあった?」

「………いえ。行きましょうお嬢様」

「………?そう?」


俺が止めようとするがエリアスとギルベッカさんが一足先に行こうと先走る。

気持ちが高ぶってるのはわからなくもないけど…。

ふとエリアスとギルベッカさんが立ち止まる。


「暁、どこから外に出れるの?」


だよな!

あんたら俺の家の構造知らないよな!

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