1.下校後の楽しい雑談
GW。
学生にとっては遊びを満喫し、大人にとっては心を休める。旅行に行ったりするところもあるのではないだろうか。
そういったいつもの日々に与えられる刺激というのは人に思わぬ出会いをもたらすときもある。
俺は今年のGW、信じられない出会いをすることになる。
今日の分の授業が全て終わり、クラスメイトたちは部活に向かったり教室に残って雑談をする様子が見受けられる。
そして俺の元に雑談をしようと目の前に来た男がいた。
「暁ー。帰りにコンビニ寄ってかね?」
そう言い出してきた眼鏡をかけた男は阿賀野雄介。小学校からの幼馴染みで俺の良き理解者でもある。
ときどき突拍子もないことを言い出すが気がねなく話せる友人だ。
そんな男の誘いを断る理由は特にない。
「おーいいよ」
「いやー帰宅部二人組は楽でいいね」
「部活は強制じゃないからな。あれ?でもお前、入部したんじゃなかったか?」
「あれは仮入部って感じだな。興味ある程度だから」
「なるほど」
そんな他愛もない会話をしながら帰路につく。
途中にもちろんコンビニにも寄る。
そんな中、雄介がある話題を持ち出してきた。
「そういえば今朝のニュース見た?」
「ん?なんかやってたっけ」
「あれだよ。小規模な地震が…」
「あぁ、あれか」
そう言われてそういえば確かにそんなニュースあったと思い出す。
ここ2ヶ月、震度1程度、高い時で3くらいの地震が発生している。震源はなんとこの地域周辺。それも毎日ときた。流石におかしいと学者たちが研究に乗り出すが、結局原因は判明していない。
大きな地震が来る、世界滅亡の前触れ、など現実味のある話から冗談が混じったものまで人々の間で噂が飛び交う。
中には魔界が攻めて来るとまで言うのだから人の想像力は豊かだ。
「ま、震度1、2くらいの地震なら気にすることもないだろ。毎日来られても迷惑だがな」
「気にしてんじゃねぇか。大きな地震が来るかもしれないぞ」
「余震の線は薄いって聞いたぞ。それにもし大規模な地震とかが来るからって引っ越しとかするわけじゃあるまいし。それならいつも通り過ごすのが一番だろ」
「ちぇっ。なんだよ冷てぇなぁ」
冷たいというより雄介が興奮し過ぎているだけだろ。
何でもかんでも信じやすいのは利点でもあり欠点でもあるな。こういった時に合理的かつ冷静な判断ができなくなる。
俺もそこまで考えていたわけではないが。
「俺は異世界と遭遇に期待する!」
「お前は高校生にもなってまた夢のあることを………」
「暁よ。気づいているか。それ褒めてるぞ」
「あれ?」
「お前は普段は冷静だがときどきとち狂うよな」
「他には言い方がなかったのか?とち狂うって」
「それなら言い換えよう。お前はバカか?」
「泣くぞ!?」
あまりに直球過ぎる言葉に思わず号泣したくなる。
遠慮がいらないのと配慮がいらないのはまた別じゃないだろうか。
そして話はGWに移る。
「GW中どこか行こうぜ。親がGWでも仕事する気満々だから旅行いかないんだ。お前もどうせ予定ないだろ?」
「まぁ旅行はあるが1泊だけだな。それ以外なら空いてるぞ」
「よっしゃ決まり。明日から遊ぼうぜ」
「早ぇなおい」
実は明日からGWで学生にとっては遊び放題となる。部活があるやつはともかく俺は帰宅部だから気にする理由もない。
それに雄介と遊ぶのは何だかんだいって楽しいのは否定できない。
「部活はどうするんだよ?仮入部とは言えお前のことだから休みでも参加はするんだろ」
「ん、まー基本自由って感じだけどな。折角だし、だから空いた時間でどうだろうか」
「お前もう仮入部じゃなくて普通に入部したらどうだ?この時期に仮入部ってお前ぐらいなもんだろ」
「まぁ追々な」
軽く日程を合わせたあと雄介と別れ家に帰る。
日は既に沈み始め、街が茜色に染まっていく。
そんな帰り道に少し考え事をする。
「(地震について気にならないと言ったら嘘になるんだよな……)」
さすがにいろんな噂が出ると不安も出てくる。
原因が判明していないから余計にだ。
「(本当に魔界や異世界だったら笑うしかないわ)」
流石にそんな非現実はあり得ないだろうとは思うがそこは思春期の高校生。つい想像をしてしまう。
「(魔界なら悪魔とかだよな……?凶悪なイメージしかわかねぇ。異世界だと勇者とか冒険者とかだよな。異世界だったら嬉しいなぁ)」
もはや魔界と異世界の定義とはなんなのだと言われそうだがそこは見逃してほしい。思春期に免じて。
そんなバカみたいな考え事をしている間に家に着く。
ちなみにうちはどこぞのテンプレ主人公みたいに両親がいない……というわけはなく母親は主婦の如く家事をし、父親は仕事をする会社員だ。
ようするに普通の一家。
「ただいまー」
「おかえり」
居間に入れば母がいつものように晩飯の準備をしている。
つくづくテンプレ主人公じゃなくてよかったと思う。
なぜなら両親がいないということは必然的に家事などを一人でこなさなくてはならなくなるからだ。
家事も掃除も料理も全て自分でやるのは大変なのは重々承知しているのでそんな展開は勘弁したい。
こういうのは読者にはわからぬテンプレ主人公の裏の努力というやつだな。
「あ、やべ。ノート買うの忘れてた」
自室に入り鞄の中身を確認したところノートが足りていないことを思い出した。
雄介の誘いに乗ったのもこういう打算があってのことだったのだがすっかり忘れていた。
ついでに買おう、という感覚でいたからかどうも頭から抜けていたらしい。
「空き部屋に無かったかな?」
朧気に覚えている記憶を頼りに部屋を出る。
1年くらい前に間違えてノートを多く買ってしまって邪魔だからと空き部屋に置いていった気がする。というのも一緒に俺の黒歴史がつまった物も置いたからだ。
そんなことがあったから1年たった今でも色濃く残ってる思い出の1つだが、あれはそろそろ処分しようかとも考えている。
物置となっている空き部屋のドアを開ける。
その先にはダンボールが山積みになっている光景が広がるはず、だ…………。
「…………………………………ナニコレ」
正面には見たことのない壁。
左右にはひたすら長い通路。
装飾は立派な物で色とりどりでかつバランスよく、清楚な色使い。埃も特に目立っておらず掃除が行き届いている。
天井には豪華なシャンデリア。
明らかに俺の知ってる空き部屋ではなかった。