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ここはどこだ

 ドクンッ。

 強烈な震動が、俺の全身を駆け巡った。

 その余りの衝撃に、俺は深い眠りから目は覚ました。

「今のは…一体…?」

 無意識に押さえたのだろうか、俺の右手は胸の上に置かれている。


 俺はそれを持ち上げると、いまだ眠たい目を擦りつつ起き上がった。

 そして、異変に気付いた。

 高い天井、灰色の壁、広々とした部屋と散乱した実験器具。一度たりとも見たことの無い光景が、目の前に広がっている。

 …OK、ここは一旦落ち着こう。

 俺は昨晩、間違いなく自分の寝室で寝たはずである。白い壁、白い天井、広くもなく狭くもない間取りにいくつもの本が散乱した、愛しい俺の部屋。

 それが、目を覚ますと全く違う光景になっていた。

 まるで悪夢かおとぎ話のような事態だ。正直、そうであって欲しいとさえ思う。

 しかし俺の意識ははっきりしているし、強い焦燥感が俺を苛まんでいる。これが夢なんて言ったら現実逃避も甚だしい。

 では、この現象は一体なんだというのだ。

 朝起きたら知らない場所にいました、てへっ☆じゃ済まないのである。

 こうなった以上、まずは自分の記憶を疑わざるを得ない。少し確認する必要があるだろう。

 まず、俺の名前は…友桐彰騎。17歳の現役高校生にして童t…いや、これは関係ないな。むしろ高校生なら一般的。

 とにかく、自分についての基本的な事は覚えているらしい。まぁ忘れていたら大問題なのだが、何事も試してみないと解らないのである。

 ではでは。俺の記憶の全てが失われていないと分かった以上、本題に移るべきだろう。

 すなわち、俺の昨晩の記憶だ。

 果たして俺は本当に自室で眠ったのか、それを確認をするためには、昨晩の行動をつぶさに検証することが必要なのである。

 昨日、俺はいつも通り夕方に部活から帰ってきた。大体7時半位だろうか。

 それから、晩飯を食ってソファーで少し寝て…起きたのは10時だったような気がする。

 その後、眠け覚ましの為にシャワーを浴びて、楽しいネトゲ街道を突っ走ったはずだ。

 …いったい俺が寝たのはいつ頃だったか、どうにも思い出せない。

 普段の行動パターをから察するに、寝落ちしてしまった可能性が高いように思える。まぁ推測なので、確証は得られないのだが。

 ということは、どうにも俺は昨日自室の机の上で寝たらしい。我ながら堕落しきった生活だなぁと思うが、それは今関係がない。

 重要なのは、俺が今この見知らぬ部屋にいる道理がないということだ。

 俺が夜中勝手に歩くわけもなかろうし、かといって誰かに誘拐監禁される可能性も限りなく低い。

 つまり、俺は本来今も自室にいるべきなのである。

 だが、結論として俺は今自室では無いところで目覚めた。

 この矛盾を前に、俺の思考が悲鳴をあげ始めている。

 さて、突然話が変わるのだが、世の中には二種類の人間が存在する。

 一方は難問に直面した時、それを解き明かさずにはいられない、そこに囚われて前に進めない人間。

 もう一方は、理解できない事を割りきり放置できる人間、すなわち…

「分からんもんは分からん」

 という一言を吐ける者。そして、友桐彰騎は後者に当たる男だ。

 だから俺は考えることを放棄した。

 だってしょうがないじゃん。考えたって分からない事というのは、この世界には腐るほど溢れている。いつだって引き際が肝心なのだ。

 さて、思考停止した俺が次にやるべき事はただ一つ。愛しの我が家に帰ることである。

 例えここがどこであろうと、俺は家に帰ってみせる。

 そう息巻くと、俺はベッドから降りた。出口を探す算段である。

 刹那、俺の足に激痛が走った。

 俺は寝る時に靴下を脱ぐタイプの人間なので、今現在も裸足だ。そのせいで、床に落ちている何かの破片がいちいち刺さる。超痛い。

 俺は半泣きになりながらそれでも耐えて広い部屋を散策していると、左の壁に穴が開いているのを見つけた。

 そこには、ドッジボール程の球体が激しく当たったような跡と、人一人がギリギリ通れるような空洞が残されている。…争いの跡なのだろうか。

 ここを通れば出られるなと思いきや、この穴は俺にはいささか小さいようである。

 大抵の人間はここで迂回するのかもしれないが、俺はそんな繊細な男ではない。

 気合いで通り抜けることも考えたが、めんどくさいので壁ごとぶち壊すことにした。

 俺は近くに落ちていたパイプ椅子を両手で掴むと、何度も何度も壁に叩きつけた。度重なる衝撃で、老朽化で脆くなっていた壁はどんどん壊れていく。

 …やべぇ、楽しぃなこれ。

 調子にのってボコスカ殴っていると、最終的には壁が崩落してしまいました。てへペロっ☆

 …なんて可愛こぶっている場合ではなくて。

 物理法則的に考えれば、壁が一面なくなった家は崩れるわけで。

 …あ、死ぬなこれ。

 ギリギリと音をたてて傾いていく天井を尻目に、俺は駆け出した。

 やだなにこれ!僕全然死にたくない!

 自業自得とか言われそうだが、みすみす死んでしまうわけにもいかないのである。

 幸い俺は50mを5秒台で走る快足の持ち主なので、逃げることはなんとかなりそうである。

 だがしかし。俺には今違う未来が見える。すなわち…

 あれ?これ器物損壊じゃね?犯罪じゃね?

 友桐容疑者、住居不法侵入罪及び器物損壊罪で逮捕!起訴!賠償命令!…あり得る。

 しかも、「朝起きたらここにいました。」なんて伝えた瞬間、被告は意味不明な供述を繰り返してとか言われちゃうんだぜ。なんという理不尽。

 とにかく、一刻も早くここを去らないと、社会的にも物理的にもライフがピンチで大変だぜ!

 そうして廊下を駆け抜け、階段を飛び降り、巨大な扉を押し開けて俺は日の下へ帰ってきた。

 そして俺が振り替えると、日の本の国では大ニュースになりそうな光景が広がっていた。

 夢中で走っていたので意識していなかったが、俺が居たのはかなり大きなお屋敷だった。錆びれているが、随分と立派な洋館である。

 それが音をたてて崩れていく…悪夢か。

 こんなの賠償請求されたら、一家共々自己破産である。俺の将来安泰ニート生活が危うい。

 かつて人のすみかだったものが、完全な瓦礫と化した頃には俺は真っ青になっていた。

 後悔先に立たずとは言うが、後悔せずにはいられない。そんな心情である。

 正直泣きたい気持ちで一杯なのだが、間違いなくうちの母上、父上の方が泣きたくなるだろうから、グッて堪えて冷静に。

 落ち着いて現状を見ると、だんだんと頭が活性化してきた。…今俺の灰色の脳細胞が唸りをあげる!

 そして導き出されたるは、証拠隠滅の手法である。

 勿論この瓦礫の山を隠匿するのは、物理的に不可能だ。

 しかしよくよく見渡すと、この屋敷の周りは山林が広がり、人一人寄り付きそうにない。即ちすぐには発覚しそうにないのである。

 崩れた屋敷はかなり古かったので、老朽化で崩落したという可能性考えてもらえるかもしれない。

 その上、周囲に監視カメラが見当たらない。屋敷の中には設置されていたのかもしれないが、この崩壊で潰れたことを願うしかあるまい。掘り出すのも一苦労であろう。

 そして何より有利なのは、ここが森だということである。

 俺の髪の毛などDNAが採取できそうな物質は、時間がたてば微生物に分解される。

 パイプ椅子についた指紋はどうするんだとか色々突っ込まれそうだが、この際希望的観測で動くことにしよう。

 さしあたっては、現場から逃走である。我はエスケープランナーなりっ!

 これは現実逃避にあらず。これは名誉の撤退なのだ!

 俺はそう意気揚々と去る…ように見せかけることも出来ず、哀愁漂わせながら逃げていくのであった。

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