面接
「…私だってわかったから、今日面接に来いって言ったのね?」
「…卑怯だけど、どうしても話したかったんだ」
「…私にはあなたと話す事は何もない。帰ります」
私は流都さんにそう言って、背を向けてドアに手をかけた。
その時。
「待てっ…」
流都さんが私の手を掴んだ。
「はっ…放してっ!!」
振り払っても、ほどけない。
絶対逃がさないという強い意思が込められていた。
「聞いてくれ!確かに俺はお前だってわかった上で、面接に来いと言った。でも、急ぎで人間がいるのも嘘じゃない。お前の能力はわかってるから、即戦力として欲しい人材なんだ。」
そう言った流都さんの目に嘘はなく、元夫としてではなく、ただの人事部長としての言葉だった。
「…わかったから、放して。痛いから」
流都さんはすんなり放してくれた。
「悪かった、でもちゃんと話したかったんだ…」
「面接して下さい」
私は誤魔化すようにそう言って、パイプ椅子に座った。
「あ、あぁ…じゃあ…」
流都さんは一瞬キョトンとした後、仕事モードに戻って反対側のパイプ椅子に座った。
仕事に対する真面目さはよく知ってるから、あんな事言われたら逃げられる訳がない。
私も私情は抜きにして、向き合わなければ。
「……と業務内容は以上です。」
「ブランクがあるの知ってて言ってる?」
「もちろん、でもお前は、俺が担当した新人の誰よりも覚えが早く、仕事も丁寧だった。入社して暫くは酷い様だったが、手抜きは一切していなかった。そんな所に惹かれたんだけどな」
「…私は採用して貰えるの?」
「月曜日から、出勤して下さい。それまでこの資料に目を通して、頭に叩き込む事!分からない事があれば、非通知で構わないから、いつでも連絡して。」
流都さんは大量の資料と、名刺を私の前に置いた。
「サナン商事辞めたの?」
「いや、この会社に吸収されたんだ。俺はその少し前から引き抜きの話があって、優遇して貰ってる。」
「そうだったんだ…」
「…気は進まないが、お前に会いたいと言ってる奴がいるんだけど、まだ時間あるか?」
「大丈夫だけど…?」
「倉木…入って来い」
その声に導かれて奥の扉から入って来た倉木という女性。
そしてその顔を見て、私は絶句した。
間違いない、彼女は流都さんの浮気相手。
私の元に届いた写真に写っていた人だった。
「……」
私は何も言えず、私の顔を見た倉木もまた何も言い出そうとしなかった。
「倉木、ちゃんと言え」
沈黙を破ったのは、流都さん。
倉木はぐっと拳を握りしめ私に頭を下げた。
「すみませんでしたっ!!」
そして私は真実を知る。