表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

あの頃

―――高校生活も残り少しになった頃。


その日私は高校で、最も授業態度にうるさい谷先生の地理の授業で寝てしまった。


その為に、反省文を書かされる羽目になってしまい、

やっと終わって解放されたのは5時過ぎだった。


急いで玄関に向かうと、そこに翔真がいた。


「翔ちゃーんっ!終わったー!!」


「ったく、遅せーよ!」


「しょうがないじゃん、谷のやつ、解放してくんないんだもん。」


「梓が悪いんだろ?谷の授業で寝てるから」


「…誰のせいで寝不足だと思ってんの!?」


「それは…え?俺って言いたいの?」


「当ったり前じゃん!!あんな時間に電話してくるんだから」


そう。


居眠りの原因は、翔真が夜中に電話をかけてきたせいで、寝不足になったこと。


見ていた番組が面白いから見てみなという、迷惑な電話だったけど。


「でもさ、あれは笑えただろ?」


「ううっ…それを言われると」


「ま、仕方ないから、約束のチーズタルト奢ってやるよ。太れっ」


「嫌な奴ーっ!これでもちょっとは努力してるんだからっ」


「へぇ~、でも俺は今のままで十分だと思うけどね」


「それって嫌味?」


「んなわけねーだろ?早く行くぞ!あいつら待ってるから」


「ちょっ…待ってってば!」


高校の帰り道に出来たカフェのチーズタルトが最高に美味しくて。


その頃の私達はいつもそのカフェで集まってた。


今日もその予定でみんな先に行ってる。


私は翔真も先に行ってるとばかり思っていた。


だから玄関で翔真の姿を見つけたときはちょっと嬉しかった。


待っててくれたんだって。


でも別に付き合ってるわけじゃなく、本当に仲のいい友達だった。


私は翔真に片思いしていたけど、翔真に告白する勇気も無くて、

この関係が壊れてしまうのも嫌で、前に進めなかった。


―――私達の関係は変わらないまま、月日が流れて、卒業式を迎えて、

翔真は東京に進学することが決まってて、

私は地元に就職が決まっていた。


「翔ちゃん…寂しくなるね」


「別に永遠の別れじゃないんだから、寂しくないよ」


「そうだね。メールしてね?」


「お前もな」


名残惜しむように、教室でしゃべってた時。


「あのっ…垣内君、ちょっといい?」


話しかけてきたのは、隣のクラスの及川彩乃だった。


学年で1番可愛いと男子から定評のある子。


その様子からなんとなく、告白するんだと思った。


前に、彩乃が翔真を好きだという噂を聞いたから、驚かなかった。


「翔ちゃん、私、涼子センセのとこへ行って来るね。

呼ばれてたんだった」


気を利かせたのを翔真も薄々気付いたようだけど、


「お前うっかりしすぎ!早く行って来い」


そう言って私の背中をぽんっと押した。


私は職員室に行ったフリをして、歩いていった2人の後を追った。


本当はこんなことしたくないけど…。


どうしても気になった。


勇気の出せない臆病者の私には、そんな事しか出来なくて。


2人は誰もいない3階の階段を上ってすぐのところで話し始めた。


私は下の階で耳を澄ました。


「…垣内君、私…あなたの事が好き。

第2ボタン、私にくださいっ」


その一言を聞いて、あの噂は本当だったんだって思った。


そして、その勇気が羨ましかった。


「…ごめん、俺は……」


「…好きな人、いるんでしょう?」


「えっ…あぁ…うん。」


翔真は彩乃の突然の問いに戸惑いながら答えた。


翔真の好きな人…いるんだろうなって何度も思ったことがある。


でもその度に、それが私だったらいいなって期待してた。


「それって…やっぱり平坂さん?」


その言葉で、私の鼓動が更に速くなった。


―――でも、翔真の口から出たのは意外な返事だった。


「や、違うよ…梓は大事な友達だし。

及川は全く知らない人だと思うよ」


全身からサアッと血の気が引いていった。


その後の記憶は曖昧で。


どうやって家に帰ったのかもわからない。


ただ泣いて泣いて、嘘だと思いたかった。


私は自惚れていた。


翔真に片思いしながら、どこかで翔真も私を…と。


翔真は、私以外の女の子とはめったに話さなかったし、

話しててもあんまり楽しくなさそうで。


だから、ちょっと好かれてるのかもと期待した。


でもそれが、ただの自惚れに過ぎなかったとわかっただけ。


それだけなのに…。


それからの私はボロボロだった。


まともにご飯が食べられなくなって、泣いて、

泣き疲れて寝てを繰り返す毎日だった。


このままではと思った母の無茶苦茶な行動で、

一口二口ご飯が食べられるようになったのが、4月に入った頃のこと。


私は完全に死人だった。


そんな状態で迎えた入社式・オリエンテーションで、私は気分が悪くなり、倒れた。


その時介抱してくれたのが、同じ部署の先輩、立橋たてはし流人りゅうとさん。


これが私と流人さんとの出会いだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ