最後のデート
翌日。
待ち合わせ時間を10分ほど過ぎて、翔真はやってきた。
「悪いっ!遅くなって」
「ううん、急に呼び出してごめんね」
「あ、すいません!コーヒー下さい!」
翔真は席につくなり店員に向かって叫んだ。
…きっと私が何を言おうとしてるかを悟っている。
勘のいい翔真にわからないはずはない。
「…本題に入ろうか」
「そんな事言って…もうわかってるんでしょ?」
「大体の事は予想出来てる」
「…ごめんね翔ちゃん。
私の事、最低の女だって憎んで、忘れて。
…終わりにしよ」
その言葉を口にした時、心が張り裂けそうだった。
こんなにも好きなのに。
私達はすれ違いを重ねて、愛し合う事を許されない関係になった。
別れたくない。
でももう…これ以上、流都さんを苦しめたくない。
「…ずっと黙ってたけど、俺…梓の旦那さんに会ったんだ」
「え!?」
翔真の思いがけない告白に、私は言葉を失った。
「…いつ?」
「去年の9月末。
実はさ、旦那さんの会社と取引があって…。
初対面のはずの俺に、ありがとう、妻がお世話になってますって、笑顔で言ったんだ。
その時、この人には適わないって思った。
…ごめん、本当は俺、あの日別れようって言うつもりだったんだ」
「あの日…?」
「10月16日。梓が俺に娘の事を話してくれた日」
知らなかった。
翔真がそんな事考えてたなんて。
「本当はさ、大事な話があるって言われた時、別れようって言われると思った。
旦那さんに知られたからって。
でも梓はそんな事一言も言わなかった。
代わりに嬉しい真実を聞かされて、別れようって言えなくなった」
私は本当に何も見えてなかった。
あの日流都さんは、浮気相手の元へ向かう妻をどんな思いで見送ったのか。
翔真がどんな気持ちでいたのか。
「…私ね、夫が気付いてるって全然知らなかったの。
昨日聞かされるまでね。
あの人、最初から私の浮気に気付いてた。
だけどずっと、何も言わなかった…」
私が気付かない間に、2人はどれだけ傷付いていたんだろう。
「ごめんね。
翔ちゃんも悩んで苦しんだよね。
その上で、私は…翔ちゃんを……」
溢れそうになる涙を必死で堪えた。
ここで泣いたら、終われない。
「…癪だけど、本当は認めたくないけど、梓を幸せに出来るのは俺じゃない。だから…」
翔真は財布から千円札を出して、机に置いた。
そして、立ち上がって私に背を向けた。
「…ずっと愛してる」
そう呟いて、翔真は店を出て行った。
…私もだよ。
心でそう呟いて、立ち上がった。
ありがとう、さようなら。
翔真と過ごした日々は一生忘れない。
あなたがくれた宝物と共に、私は前へ進む。




